本日の一冊は、「週刊東洋経済」の2004年上半期ベスト経営書100冊第1位に選ばれた、『「人口減少経済」の新しい公式』です。
ずっと書店で目にしていながら、諸々の理由で、読むのがこんなに後になってしまいました。すみません。
この本は、以前にお話した歴史人口学の話とかぶるのですが、要は、人口と経済の関係について述べた論考です。
著者の松谷明彦さんは、マクロ経済学を専門とする、大蔵省出身の学者さんのようで、内容はかなり綿密な分析の上で持論を主張する、というスタイルを取っています。
著者がマクロ経済専門ということで、経営者の視点から見たら、若干「?」な部分もあります。また、言うは易し、行うは難しといった面があるのも否めません。
※「賃金総額が需要の大きさを決めるから、賃金の抑制は現実の需要をいっそう縮小させ」なんて論は、よほどの大企業でない限り、直接経営には関係がありません
しかし、統計の読み方や、経済予測をする際の視点、地域経済の分析などは、じつに読み応えがあり、そこから得られるヒントは、決して小さくありません。今後どの地域で商売をするか、という指針にもなると思われます。
「ベスト経営書100冊」第1位に選ばれたというのも、納得できる、充実の内容です。
かなり論が緻密に展開されているため、抜粋だけで誤解されたくはないのですが、一応要点だけを示しておきます。
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本日の赤ペンチェック ※本文より抜粋
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出生率が二.一を下回ると人口が減少するというのは、いまや多くの人が知る人口減少のメカニズムである。しかし、それは超長期的な人口の動きについて言えることであって、これからの三〇年や五〇年の期間では(それでも極めて長い期間であるが)、人口の高齢化こそが日本の人口減少というドラマにおける主役なのである。
先進国の間では、GDPの大きさの相対的な関係は労働者数によって決まる。(中略)生産年齢人口の動きからして、今後の日本経済の成長率が他の主要先進国の成長率を下回ることはほぼ確実である。
外国人労働者を活用すれば、当面の経済の縮小や制度の仕組みによっては年金問題もかなりの程度解決するかもしれない。しかしそれは問題を先送りしているにすぎない。外国人労働者の活用は国債に似ている。つまりは負担の後世代への移転である。
技術開発に当たっては、省力化と生産設備の効率化という二種類の技術開発が、バランスを保って進められることが必要である。
画期的な新製品であって、その利便性などから消費者もいままでよりは高いお金を出しても買い求めたいという動きが長期にわたって続くようなものでなければ、ここでいう資本の生産性を向上させるような製品開発とは言えない
日本経済は、二〇〇九年には縮小に向かう。二〇〇〇年には三七〇.三兆円だった日本の国民所得は、二〇〇八年には三九〇.七兆円まで増加するものの、二〇三〇年には三一四.六兆円にまで縮小する。(著者の予測)
人口増加によって労働力が増加基調にある経済においては需要も増加基調にある。経済における需要とは個人消費、住宅投資、設備投資、財政支出および輸出だが、個人消費と住宅投資の源泉は賃金であり、設備投資も最終的には消費財をつくるために行われる。そして財政収入の源泉も賃金である。所得税はもちろん、法人税、消費税も消費財の価格に含まれるから、結局は賃金から支払われている。輸出だけは相手国における賃金がその源泉だが、実は輸出から輸入を差し引いた「純輸出」だけが、日本経済における需要である。(中略)純輸出の日本経済に占める比率はわずか一.五%(一九七〇年以降の平均)にすぎない。つまり需要の大きさは、基本的には全労働者の賃金の合計である賃金総額の大きさによって決まる
「人口減少経済」においては、需要と労働者の縮小に見合う形で生産能力が低下しなければならない。(中略)これまでの設備投資については強気の勝負が通用したが、これからは頭を使った科学的な設備投資計画が必要になる
需要や労働力の動向を常に正確に見通すことはむずかしい。したがって利益率を高め、あるいは内部留保を充実させることによって、見通しと現実のズレというリスクに対するバッファーを確保しておくことも必要になるだろうし、設備投資資金の調達方法についても、毎年の利払い額が確定している銀行借り入れに依存するのではなく、成功報酬を基本とした株式による調達に切り替える必要も出てくる。
今後の企業経営において心掛けるべきことは、「適切な生産量」「効率的な生産」「適切な賃金水準」の三つである。それらを守る限り「人口減少経済」は少しも恐くない。
投資と消費の立場は入れ替わるのである。(中略)産業構造の変化は必至であり、投資財産業の急速な衰退が基本的な流れとなる。代わって消費財産業やサービス産業が伸びてくる。
「人口減少経済」では遊休ないし非効率な設備の存在は、前述のように命取りとなる。損失は年々急速に拡大するのであり、一刻も早い本業の縮小ないしは廃業を検討すべきだろう。企業としての存続を図るのであれば、多角化ではなく転業こそが正解である。
生産年齢人口が大幅に減少する地域、労働力が大きく高齢化する地域では、地域の経済規模が大幅に縮小することを覚悟する必要がある。
今後は三大都市圏では労働生産性が低下するか、わずかな上昇にとどまるのに対し、三大都市以外の地域の労働生産性は概してかなり大きく上昇する。(中略)現時点で若い人を中心とした人口流出の著しい地域ほど、経済規模が拡大する
これまでは、いわば企業のあるところに労働力が移動した。それは日本経済の主力たる投資財産業が特定の地域にしか立地し得なかったからである。(中略)しかし人口減少高齢社会では、逆に労働力のあるところに企業が移動するという面が強まると考えられる。
これからは人口が大幅に減るのだから、経済全体の規模を云々してみても意味がない。今後、人々が経済的に豊かな生活を送れるかどうかは、一人当たりの経済規模がどうなるかにかかっている。
「人口減少経済」はライフスタイルの多様化を可能にし、望む人にはより豊かな所得のためのチャンスを拡大し、技術革新とも相まって余暇時間を拡大する。それらはこれまでの日本社会に欠けていたものであるが、いま一つ欠けていた人々にとっての自由な空間が生まれたとき、日本社会は多様化のなかの豊かさという新たな豊かさを生むだろう。そのために人々に求められるものは、「国民みんな」という意識ではない。「個人」「住民」という意識である。
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ここで挙げたのは要点だけのため、前提となる定義や条件などはスペースの関係で示すことができません。ぜひ読んで内容を確認してみてください。
というわけで、本日の一冊は、
『「人口減少経済」の新しい公式』
http://tinyurl.com/53zqq
です。今後20年、30年の企業経営を考える上で、見逃せない一冊だと思います。読破するのに骨は折れますが、ぜひ読んでみてください。
目次
第1章 変化は一挙に―迫る極大値後の世界
第2章 拡大から縮小へ―経営環境の激変
第3章 地方が豊かに―地域格差の縮小
第4章 小さな政府―公共サービスの見直し
第5章 豊かな社会―全体より個人
第6章 「人口減少経済」への羅針盤
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