本日の一冊は、企業が何をすべきか、そして何をすべきでないのかといった、まさに戦略論の本質的な問題に、「資源」という切り口から解答を与えた、注目の論考です。
著者のデビッド・J・コリスとシンシア・A・モンゴメリーは、ハーバードで教鞭を取っており、本書にはその授業のエッセンスが盛り込まれています。
これまでに論じられてきた戦略論の基礎や変遷もきちんとおさえている、非常に親切な本です。事例も豊富で具体的なため、とても良質な教科書です。
伝統的な戦略論の記述は極力省いた上で、ポイントと思われるところをいくつかピックアップしてみました。
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本日の赤ペンチェック ※本文より抜粋
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成功する企業はビジョンを持っており、ビジョンを実現することに長期にわたり集中している(中略)ビジョンは、企業が関わる広義のドメイン(事業範囲)を定める
資源は、企業が「何をしたいか」ではなく、「何ができるか」を決定する点において、戦略の重要な構成要素である。(中略)価値ある資源を認識し(identify)、構築し(build)、配置する(deploy)ことは、企業戦略と事業戦略の両方において重要なのである
アルフレッド・チャンドラーがかつて「組織は戦略に従う」と主張したように、企業の組織は戦略をもとにデザインされるべきであり、また、各企業の資源セットや事業群に適合するようにカスタマイズされるべきである
(有効な企業戦略は)五つの要素(資源、事業、組織構造、システム・プロセス、ビジョン、目的と目標)が調和して組み合わさったときに生まれる
持続可能な競争優位の源泉を検討する際、資源ベース理論は、企業が持つ資源(資産とケイパビリティ)のストックに焦点をあてる。(中略)フローが変動しやすく、その時点で調整可能であるのに対し、ストックの水準は時系列で引き継がれ、時間の経過とともにゆっくりと蓄積される。それゆえに、持続的な優位を説明する際には、ストックが、一時点のフローよりも重要なのである
企業が所有する資源の価値は、顧客デマンド充足性、希少性、および占有可能性という三つの側面を含んだ競争環境と企業のあいだの複雑な相互作用の中に存在し、資源の価値はこれら三つの側面が交わる部分において創造される
競争を制限する模倣困難性の特徴
・資源が物理的にユニーク
・経路依存性
・因果関係の不明瞭性
・経済的抑止力
企業の資源ベースをアップグレードする方法
・既存の資源を強化する
・補完的資源を追加する
・新しい資源を開発する
事業多角化の基礎となる資源の条件
・競争上の優位性を持つ
・その事業における鍵となる成功要因となるもの
・最低限、競争企業と同等の競争力
・新しい事業において実際に複製できる
垂直統合を行うか否かを決定するフロー
・競争優位はあるか?
・市場の失敗はあるか?
・調整を必要とするか?
・インセンティブの問題はあるか?
本社が多角化企業をマネジメントする際の課題
・自律的なユニットへ権限委譲した意思決定に対するコントロール
・分化された事業群の活動に凝集性を持たせること
企業が自社のコントロールシステムと適合しない事業に参入する場合、理論上は自社の資源のいくつかが競争優位につながりえても、実際に参入して価値を生み出せることはめったにない
企業戦略の評価ポイント
■ビジョン―企業ビジョンは、明確に表現されているか?
■内的一貫性
・自社の企業戦略の要素は、相互に調整されているか?
・自社の企業戦略の要素は、一つの集合体を形成しているか?
■外的一貫性
・自社の戦略は、外部環境とフィットしているか?
・自社の戦略は、変化しつづける環境と競合他社の戦略に対して持続可能な優位を持つか?
■実行可能性
・自社の組織は、あまりにも短期間に、あまりにも多くのことを行うよう求められていないか?
・自社の戦略は、リスクをとりすぎていないか?
■企業優位
・自社の戦略は、本当に企業優位を創出しているか?
・自社の企業優位から継続的に価値が創造されているか?
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値段だけのことはあって、内容は充実しています。学問として戦略論を学んでいる方にはもちろんですが、経営者や起業家にとっても、戦略の落とし穴に気づかせてくれる、有用な一冊です。
※本日の教訓:「失敗する前に読め」
というわけで、本日の一冊は、
『資源ベースの経営戦略論』
http://tinyurl.com/4m2ex
です。久しぶりに読み応えがあってためになる一冊でした。
目次
原著まえがき
第1章 企業戦略へのイントロダクション
第2章 資源とレント
第3章 単一業界における規模と範囲の経済
第4章 事業の多角化
第5章 企業の範囲についての組織的限界
第6章 多角化企業のマネジメント
第7章 企業優位の創出
第8章 コーポレートガバナンス
訳者あとがき
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