2004年9月14日

『雨の降る日曜は幸福について考えよう』

http://tinyurl.com/4zhkp

本日の一冊は、『マネーロンダリング』『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』などのベストセラーで知られる、橘玲さんによる注目の最新刊です。

参考:『マネーロンダリング』
http://tinyurl.com/4b7ux

参考:『お金持ちになれる黄金の羽根の拾い方』
http://tinyurl.com/5rfpc

人生設計の具体的なノウハウというよりは、橘氏お得意のシニカルな視点で、人生設計のさまざまな落とし穴を読み解いた一冊です。

生命保険の経済的合理性や、株式、不動産投資のリスク、そして教育投資まで、まさに人生設計全般についてコメントしています。

各業界の関係者にとっては、決して触れてほしくなかった陰の部分に思いきり光を当て、読者によく考えることを促している点が、本書の最大の特徴でしょう。

冷たく読者を突き放しながら、禁煙を促す名著、『禁煙セラピー』のようなテイストで、人生設計全般を深く考えさせてくれます。

参考:『禁煙セラピー』
http://tinyurl.com/5k6yk

では、その冷たく突き放したシニカルなコメントを、一部ご覧に入れましょう。
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 本日の赤ペンチェック
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私たちが暮らす高度化された資本主義社会では、人生を変えたいと望む人々のために、さまざまなコンビニエントな方法が用意されている。新興宗教、自己開発セミナー、携帯電話の出会い系サイト、薬物などはどれも、人生をリセットするためのお手軽な道具の一種だ。

誰もが、不安のない生活を望んでいる。だが、娯楽のない人生は堪え難いほど退屈に違いない。誕生から死までがすべて予測可能なら、人生に何の不安も生じない。そればかりか、将来のことを考える必要もない。かつての社会主義諸国が、その理想をある程度まで実現した。「不安のない社会」とは、実は、グロテスクな世界なのだ。

一般の宝くじと同様に、生命保険の場合もほとんどの人は損をする。おまけに経費率が高いので、ギャンブルとしては救いがたいほど魅力がない。(中略)豊かな社会では、生命保険の利用度は低下していく。だが現実には、ほとんどの人が何らかの保険に入っている。日本では、莫大な額の保険料が無駄に支払われているようだ。損をすることに意味のある宝くじは、人生の必要な時期に、必要最低限の保険金額で加入するのが賢い使い方である。

この世に生命よりも大切なものはないのだから、誰もが最高の治療を望む。それにはいったいいくらかかるのだろう。

有名病院で三分間の診療を受けるのに半日かかる。誰だって、高名な医者に診てもらいたいと思う。病院の選択が自由で医療費が安ければ、患者の集中は防ぎようがない。結果的に、日本では暇な人ほど質の高い医療を受けられる。

ゲーリー・ベッカーの「人的資本論」
教育の効用は人的資本の蓄積であり、知識と技能の習得によって労働生産性が向上し、将来賃金が上がる。なんのことはない。「いい大学に入ったら立派な会社に就職できて楽な暮らしができますよ」というお馴染みの話だ。(中略)高卒と大卒の賃金格差から計測された大学教育の収益率(年率)は『国民生活白書』の試算で九%、研究者の分析で六%前後とされている。これは平均値だから、有名大学の投資収益率はもっと高くなる。

持ち家と賃貸のどちらが得かは人生設計の永遠のテーマだ。しかし損得を考えてもあまり意味はない。未来のことは誰にもわからないからだ。

マイホームはふつう、住宅金融公庫や銀行から借金して購入する。これは不動産資産を対象とする信用取引であり、当然、投資リスクも大きい。株式の信用取引はレバレッジ率が三倍程度だが、住宅ローンは頭金の五倍が当たり前だ。

(ワンルームマンション投資の広告について)こんな素晴らしい投資先を不動産販売会社はなぜ、独り占めせず私たち下々の者に分け与えてくれるのだろうか。

日本の宝くじは、売上の半分が経費として召し上げられる世界でもっとも割の悪いギャンブルのひとつだ。儲かるのは胴元だけで、ゲームに参加したほとんどの人が損をする。売上の半分しか分配されないのだから、宝くじで儲ける最良の方法は宝くじを買わないことだ。

億万長者になる方法が存在するとしても、それに気づいた人は本など書かずにさっさと大金持ちになっているはずだ。

世の中に長期投資家しかいないのなら、手数料商売の証券会社はとうに経営破綻しているだろう。彼らの利益の源泉はギャンブラーの払うテラ銭だ。相場が上昇すると素人博打打ちが増え、胴元が儲かる。

資本主義は反民主的な制度だ。民主制は一人一票だが資本主義のルールは一株一票であり、金持ちは市場から株式を買い集め会社の支配権を握ることができる。

債券発行とは企業経営者が投資家に汚れ仕事を押し付けようと考え、配当のかたちでその報酬を提示することだ。投資家の汚れ仕事とは、事業が失敗した時に損をすることである。

経済合理的に考えるならば、元金百万円しかない人は資産運用などせずに働いた方がいい。年一〇%の運用益をコンスタントに達成するのはプロでも困難だが、年間十万円の追加収入を得るのはさほど難しくない。そのうえ投資は損をするリスクがあるが、働けば確実に利益が増える。効率的に投資できるのはまとまった元金のある人だけなのだ。

人は誰からも承認されない人生に堪えることはできない。一方で、他人の欲望を生きる人生は破綻を免れないだろう。大衆の欲望は無際限で、渇きは永遠に癒されない。幸福のかたちを見失う理由は、たぶんここにある。
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今回の書籍は、単なる人生設計だけでなく、何が個人の幸せを妨げているのか、といった視点にまで切り込んだ点が新しいと思います。

ただ、ひとつだけ問題点を挙げるとしたら、「橘玲」の名前に期待して買った読者には、少々レベルが低いということ。もちろん、一から投資や人生設計を学びたいという方には、おすすめの一冊です。

というわけで、本日の一冊は、

『雨の降る日曜は幸福について考えよう』
http://tinyurl.com/4zhkp

です。タイトルの意味はよくわかりませんが、内容は、人生設計に必要なさまざまな視点が盛り込まれた、読み応えのある一冊です。

目次

イントロダクション 運転免許試験場のポスター
PART1 幸福の法則
人生設計
生命保険
年金
医療
教育
不動産
資産運用
市場経済
FAQ
PART2 正しさの問題
参考文献
あとがき
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