本日の一冊は、郵政民営化のインパクトを、さまざまな視点から検証した、注目の一冊です。
取扱高24兆円7000億円、経常利益約2兆6000億円の超巨大企業が本気で動けば、民間企業には、甚大なダメージがもたらされる可能性があります。宅配便、生命保険はもちろんですが、場合によっては予想もしていなかった業界にまで、影響が出るかもしれません。
それだけに、日本郵政公社の動向は、物流関係者ならずとも、非常に気になるところです。
本書では、日本郵政公社の事業がよりグローバル化していくことを視野に入れており、アメリカ、ヨーロッパなど、他国の物流事情についても、詳しく述べられています。
感動を求めるためではなく、情報を得るために読む本であるため、赤ペンチェックも単調になってしまいますが、さっそく要点を見ていきましょう。
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本日の赤ペンチェック
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二〇〇三年度の日本郵政公社の取扱高は約二四兆七〇〇〇億円で、経常利益は約二兆六〇〇〇億円。時価総額は四〇兆円にのぼるという試算もある。民営化により株式を公開することになれば、低迷気味の東京証券取引所にとっても絶大なインパクトを与えることになるだろう。
巨額の郵貯、簡保資金は民間から吸い上げたカネで、それが平成不況の遠因ともなっている。郵貯、簡保の巨額の資金は経済効率の悪い公共部門で塩漬け状態になっている。民間で広く活用されれば日本経済は間違いなく上向きになる。
近年、郵便事業は物流事業との関係から世界各国のビジネストレンドに組み込まれつつある。グローバル化の影響で重要性を増しつつある多国籍企業などの物流・配送ネットワークの構築に大きなスポットが当てられてきたのである。
インターネットで商品を購入した場合、輸配送が正確、迅速に行われるシステムと代金決済が安全にリンクすることが望まれ始めている。金融サービスと配送サービスがセットで行われるビジネスモデルが、グローバルなビジネス環境下で求められてきたわけである。
郵便事業の枠だけに留まらず、宅配便、ロジスティクス事業などの企業物流の構築に本格的に乗り出していくというのが日本郵政公社の描くロードマップ
欧州郵政改革の先行例:ドイツポスト
ドイツポストは企業物流改革の流れを郵便改革に転用し、郵便システムの効率化を図った。ちなみにその背景にはトヨタのかんばん方式などの日本式物流コンセプトも強く影響しているようだ。
郵便事業は人件費が経費の八〇%を占め、収益力がきわめて低い。経費削減を徹底させるだけでは競争力強化に限界がある。それゆえ物流企業への出資、あるいは業務提携を推進し、宅配便事業やロジスティクス事業などを強化、多角化する必要がある。
都市部における”不在”の問題
=宅配便企業が注目しているのが、家庭用の郵便受けや新聞受け、あるいは日中の不在のないオフィス。すなわち”ポスト投函市場”だ。
※ちなみにクロネコメール便はこのポスト投函にあたるが、年商500億円をたたき出している
郵政公社化に伴って、一部のビジネス信書を民間企業が配達することが認められた。(中略)すでにバイク便企業などが参入している。
日本郵政公社が運送委託を行うのは、ライバルであるヤマト運輸などの宅配便最大手ではない。むしろ、中小、あるいは中堅クラスの物流企業で、しっかりとした配送ネットワークを持つ会社が対象となる。
欧米の物流業界のトレンド
・3PL(サードパーティロジスティクス)
物流部門の戦略的アウトソーシング
・4PL(フォースパーティロジスティクス)
優れた3PLのノウハウを持つ物流企業が別の物流企業にノウハウ提供
巨大化した欧州各国ポストの例
・ドイツ=ドイツポスト・ワールドネット
・オランダ=TNTポストグループ
・イギリス=ロイヤルメール
・フランス=ラ・ポスト
ヨーロッパで注目を浴びるハイブリッドメール
=パソコンで作成した文書や画面をインターネット経由で郵便として出すしくみ。ドイツポストやオランダTPGが関心を示している
欧州郵便戦争における合従連衡
・DHL&ドイツポスト(DHLを傘下に)
・フェデックス&ラ・ポスト(業務提携)
・TNTポストグループ&TNT&ロイヤルメール&シンガポールポスト
欧州統合の最終段階・EU郵便市場統合
=郵便市場を全欧規模で統合することにより、モノの移動の自由をさらに徹底させていくのが、ブリュッセルのEU本部の方針
米国物流企業が欧州郵便戦争に対して”高みの見物”を決め込めないのは、欧州郵便・物流市場の動向が米州統合やアジア物流のゆくえに大きな影響を及ぼす可能性が高いからだ。
もはや「日本メーカーの物流は日本の物流企業が請け負う」という時代ケースではなくなりつつある。ドイツやオランダに進出した日本企業にとっても、ドイツポストやオランダTPGに自社の物流を任せたほうがうまくいくケースが増えている。
アメリカの例:米国郵政公社(USPS)
民営化の流れも、実際は慢性的な赤字垂れ流し
米国の郵便市場では、一部の書状と書籍・カタログの民間参入OK
クリントン大統領が認めた物流の規制緩和
=在庫管理、物流コストの削減など広範囲に及んだ
米州ワイドで宅配便・物流業界をリードするのは、業界最大手のフェデックスだ。すでに米州の翌日配達システムを完成。自社の貨物専用機は定期便として日本にも乗り入れている。同社は街中に自前ポストも設置。全米の郵便事業が民間に全面開放されれば事業参入に名乗りを上げてくる可能性も高い。
フェデックス・UPS
=ドイツポストなどの欧州郵便事業体との決定的な相違は、「郵便事業を自社の物流ネットワークに完全に加えているわけではない」ということ
アメリカ スタンプ・コム社
=イーベイ社などの有力ネットビジネス企業などの郵送サービスを提供
韓国 サーバーリンク社
=インターネット無料郵便局「ユーポスト」でビジネスモデル特許取得
郵便・宅配便システムで考えられる新サービス、新事業
1.物流ハイブリッド郵便サービス
2.公共データハイブリッドサービス
3.ハイブリッドメール事業を促進
4.電子公証
アジア物流の中核となるシンガポール
=シンガポールポストは、英国郵便自由化の流れのなかにある英国郵政ロイヤルメールとの業務提携を強化している。”アジア郵便市場統合”が将来、実現するとなれば国際的なイニシアチブを握る可能性もある。
シンガポールを中心とする東南アジアの郵便・物流に、これから日本郵政公社がなぐり込みをかけるのは容易なことではないかもしれない。そこで注目されるのが日中間の郵便や物流だ。
宅配便・企業物流と金融サービスのリンクという新潮流
=ヤマトコレクトサービス、クロネコ@ペイメントなど
カギを握る物流不動産ビジネス
=ドイツポスト傘下のポストバンクは不動産金融部門にも力を入れているが、このフィールドでも物流と金融の融合現象が顕著になっている。そして郵貯事業をリテール金融からコーポレート金融に切り換えていく過程でも、不動産金融が大きなカギを握る可能性も出てきている。
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ひたすら業界の動向と先行事例について述べた本なので、知っている人は、読む必要性はないかもしれません。
ただ、郵政の民営化により、各産業にどんな影響があるのか、について興味があるなら、きっと参考になるでしょう。
というわけで、本日の一冊は、
『郵政民営化で始まる物流大戦争』
http://tinyurl.com/5akqf
です。決して読んで面白い本ではないですが、ビジネスヒントが満載の一冊です。
目次
はじめに
プロローグ 郵政民営化で業界に激震がはしる!
第一章 郵政民営化で日本はどうなる!?
第二章 拡大を続ける欧州巨大ポスト!
第三章 輸送ビジネスを刷新する米国物流メガ企業
第四章 日本郵政公社が挑む世界物流大戦争
第五章 揺れる日本郵政公社の郵貯・簡保戦略
第六章 グローバル化のなかで物流企業を見定めるポイント
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