2013年11月27日

『トヨタ対VW』 中西孝樹・著 Vol.3417

【トヨタ対VW、2020年に勝利するのは?】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4532319196

本日の一冊は、世界の自動車業界における2強、トヨタとVW(フォルクスワーゲン)を、自動車業界に詳しいアナリストの中西孝樹氏が徹底分析した一冊。

著者は、日経金融新聞・日経ヴェリタスの人気アナリストランキング自動車・自動車部品部門、米国Institutional Investor(II)自動車部門ともに、2004年~2009年まで6年連続第1位となった実力派アナリスト。

本書の分析も、緻密なデータと未来予測に基づいており、じつに読み応えがありました。

本書によると、<トヨタとVWの2社は、経営システムばかりか、思想も文化も違う>。

現在のところ、この2社は、不思議なほど世界市場で棲み分けができており、<主力販売地域ではトヨタが米国経済圏に対しVWは欧州経済圏、技術ではトヨタがハイブリッドに対しVWは小排気量過給・直噴ガソリンなどと得意領域もあまり重ならない>。

しかし、両社の戦略的方向性、成長シナリオを深堀りすれば、<2020年にはさまざまな市場や技術で大衝突する闘いの構図が見えてくる>そうなのです。

最近のメディアの論調は、業績好調なトヨタを礼賛するものばかりですが、本書を読んでいると、決して楽観視ばかりはしていられない様子です。

2012年の世界販売台数ランキングにコメントした、以下の部分を見てみましょう。

<2012年の世界販売台数ランキングを見れば、トヨタが974万8000台で2年ぶりに首位に返り咲いたものの、リーマンショック前のピークであった2007年の917万5000台からわずかに6パーセントしか成長していない。2位のGMも2007年比では横ばいだ。3位に浮上したVWは2007年比で45パーセント成長、4位のルノー・日産も同20パーセント増、5位のヒュンダイグループは同70パーセントも成長した>

そう、リーマンショック前の2007年比で見ると、トヨタが6%成長に対して、VWは45%も伸びているのです。

VWの成長を牽引しているのは、地域では中国、ブランドではアウディですが、本書ではVWがこれからどこに向かうのか、トヨタのアキレス腱はどこにあるのか、徹底した分析がなされています。

2013年~2015年の3年間だけで600億ユーロの総投資を実施するVWと、投資に慎重なトヨタ。トヨタが中国進出の遅れを取り戻せないでいる状況や、プレミアムブランドで4位と低迷するレクサスの販売状況を見ていると、かなり不安な要素を抱えています。

なかでも、拡大を続ける新興国のマーケットをどちらが征圧するのかは、今後の業績をうらなう上で重要なポイントでしょう。

<ブラジル、ロシア、インド、中国などの新興国における経済発展と新中間層台頭は爆発的な自動車保有の成長をもたらすことが予想されている。2020年までに自動車保有台数は12億5500万台(2002年7億5100万台)へ、2030年までには20億台に拡大する見通しである>

かつてアルファロメオで「147」「156」をデザインしたデ・シルヴァを擁し、今後、戦略車の小型SUV「マカン」(ポルシェ)も投入予定のVWグループ。

ラグジュアリーでも、大衆車でも確固たる地位を占める同グループとトヨタをはじめとする日本勢がどう闘っていくのか。

刺激的な論考で、じつに読み応えがありました。

自動車株のホルダーはもちろん、自動車業界にお勤めの方、クルマが好きな方に、ぜひおすすめしたい一冊です。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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そもそもトヨタの基本的な考え方は「価格-利益=コスト」という等式にある。価格は市場で決定されるもの。利益を決めれば、あとは目標原価が決まるという理念である

アウディに移籍した後のピエヒの功績は目を見張るものがあった。有名な直列5気筒ターボエンジン、オンロード四輪駆動車の「クワトロ」など個性の強い技術を大成させた。1988年には同社の取締役会会長に上りつめ、ドイツの亜流に過ぎなかったアウディをBMWやメルセデス・ベンツと拮抗するプレミアム・ブランドへ躍進させたのである

1990年代後半に入り、ピエヒはベントレー、ランボルギーニ、ブガッティなど、欧州高級ブランドの買収を立て続けに実施する(中略)傘下のアウディ、ポルシェとの協業推進を合わせ、VWグループはほぼフルラインのマルチブランドを形成(中略)最近ではイタリア二輪車のドゥカティ、イタリアデザイン会社のイタルデザイン・ジウジアーロを傘下に収め、デザイン領域の強化も万全となる

ポルシェは戦略車の小型SUV「マカン」が2013年12月に生産が開始される

◆自動車産業が迎える3つの大きなトレンド
1.アーキテクチャの進化(=「組み合わせ型(モジュラー型)」のアーキテクチャへ)
2.自動車のコモディティの進展(=販売価格に支配される傾向)
3.垂直統合から水平分業の時代

現在では環境が変化し、ガソリンやディーゼルといった内燃機関の燃費効率改善を中核におきながら、部分的にハイブリッド、プラグインハイブリッド、電気自動車などの電化パワートレイン、天然ガス車、バイオフューエルエンジンを導入することで達成が可能という見方が主流になった。もっと長い視野に立っても、特定技術へ特化すれば戦いに勝利できるという確信を持った自動車メーカーは皆無だろう。本命なき次世代パワートレインミックスの戦いの時代に入っている

中国で最大の成長期待があるのは小排気量過給ガソリンエンジンだといわれている。欧州車は高いアドバンテージを発揮できるはずである。日本車は出遅れている小排気量過給を火急的に強化する必要に迫られている

トヨタの最大の成功体験であったレクサスは今や世界の上位グループのプレミアムブランド4社(BMW、メルセデス・ベンツ、アウディ、レクサス)の中で確実にどん尻の4位を固めている

VWのデザイン責任者であるデ・シルヴァはもともとイタリアのアルファロメオで「147」、「156」を手掛けて名を馳せたデザイナーである

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『トヨタ対VW』中西孝樹・著 日本経済新聞出版社
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4532319196

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◆目次◆

第1章 トヨタイズムとピエヒイズムの戦い
第2章 トヨタイズムの進化と真価
第3章 VW帝国とポルシェ王朝──ピエヒイズムの分析
第4章 進化するクルマのアーキテクチャ──ものづくりはどこへ向かうのか
第5章 自動車産業の環境対応技術戦争──最大の難所
第6章 自動車産業の合従連衡──ドラマよりもドラマチック
第7章 プレミアム戦略と中国市場での戦い
第8章 2020年の激突

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