2006年6月2日

『市場には心がない』

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4000234188

本日の一冊は、今年2月に亡くなった経済学者、都留重人さんが、
最後に遺した注目の著作です。

著者いわく、「日常の時事問題に関心を寄せて、その都度ざっくば
らんの所感を書きとどめるというのは、私の何十年来の習慣だった」
らしく、それをほぼ5年おきにまとめて本にしていたようです。

おそらく著者は、これを書いた時点で死を予感していたのでしょう、
「まえがき」には、こう書かれています。

「もう私も九十三歳になっていることだし、こうした習慣をいつま
で続けられるか確信をもてないので、今回、おそらくは最後になる
であろう『五年もの』として『孫の世代と内外世情を語る』という
趣旨でまとめあげたのが本書である」

内容的には、小さな政府を主導する小泉政権に対する警鐘と、市場
化の問題点、そして人間の幸福と資本主義、について述べられていま
す。

日々、経営をしているとこうしたマクロの視点を失いがちになりま
すが、たまには「人間にとっての幸福」やそのための「社会システ
ム」の問題にも目を向けたいものです。

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■ 本日の赤ペンチェック
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市場化の特徴は、自由競争の下で私的利潤の極大化を活動動機とし
て生産の効率化を達成するという点にあるのだが、他方、自由競争
を阻害する独占や寡占、あるいは談合化の弊害があるほか、人間生
活の福祉からの逸脱や市場の失敗と呼ばれるネガティヴな効果も否
定できない現実

「市場には心がない。だが市場の行き過ぎを制御するレフェリーが
いれば、極めて効率的な調整機能を発揮する」(ポール・サムエルソ
ン)

◆ポスト工業化社会の「矛盾」
1.国家間、個人間の経済的格差の拡大
2.リスクと不確実性の増大
3.自由競争の結果が「一人勝ち」に終わる傾向の強まり

膨大な情報量の蓄積とその「共用化」が進むにつれて、その事後処
理の費用が高まらざるをえない

「労働」への支払いとして受け取られる所得と、「所有権」を根拠
とする所得とのあいだには、本来的な区別が必要であって、それを
認めるとするならば、人類の科学技術面の歴史的蓄積が体化された
「生産力」をその内容としている「生産手段」すなわち「資本」を、
現在の労働者が或る程度所有できるようにすることには、十分の理
論的根拠があると思われる

労働人口の大半が自らを中流階級とみなしているような比較的ゆた
かな社会においては、「市民の福祉は、なかんずく他人との相対関
係における市場財に対する彼の支配力に依存する」という動機付け
――これは「ジョーンズ家に遅れをとらない」と表現されることか
ら「ジョーンズ効果」と呼ばれる――の効果が大きければ大きいほ
ど、「一般福祉の増進を図る手段として一人当たりの消費をふやす
政策は、それだけ無益なものとなる」

一方、市場で提供されるものが「より多いこと」が、他方、人間福
祉の観点では、却って「より悪いこと」となるのだ

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『市場には心がない』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4000234188
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■目次■

第1部 小泉政権の政策批判
第2部 技術革新が進む社会的環境の変容
第3部 明るい未来を求めて

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