本日の一冊は、石油をはじめとするエネルギー問題に詳しい、現内閣官房内閣参事官の藤和彦さんが、最近の石油問題について、その背景と実際、そして自論を展開した一冊です。
サブタイトルに「地政学的発想を超えて」と書いてあることからもわかるように、地政学的な「食うか、食われるか」の議論ではなく、極めて理性的な石油問題の分析と、その解決に向けた提言がなされています。
投資家や関係者以外には、あまりなじみのない問題ではありますが、詳しい事情を知ることで、今後の世界経済を読むための貴重な視点を得ることができます。
細かい話を書くときりがないので、要点だけをまとめてみます。
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■ 本日の赤ペンチェック
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2004年に入り原油市場では中東地域におけるリスク・プレミアムから「買い」が優勢となった。次にマーケットの目は次第に過熱しバブル化しつつあった中国経済へと移り、中国における石油需要の急増から「需給逼迫感」「供給不安」が喧伝されるようになってOPECに対する増産要請(圧力)が高まった
欧米の石油メジャーは供給過剰の再来をおそれ、在庫をできるだけ持たない方針は変わらない。2004年に入ってからは毎期大増益なのに、決して投資を大幅に増やそうとはしないのである
(米国の)SPR(戦略的石油備蓄)の積み増しはマーケット関係者に対し、「米国政府は中東地域における軍事作戦を終息させるのではなく長続きさせるだろう」というメッセージになり、イラク戦争に端を発したリスク・プレミアム増幅に一役買ってしまっている
石油業界にとって中東地域でビジネスすることは、埋蔵量の大きさに魅力はあるものの、財務条件が悪いためあまり「実入り」が良くない
日本にとって、ロシアは地理的にも近く、ロシア原油を購入することによって、原油輸入の中東依存度を低下させることができる
石油会社の探鉱・開発活動への意欲が、原油価格の上昇ほど盛り上がっていない
ここ五~六年、NYMEXのWTI原油先物を中心に、石油市場のカジノ化が進み、趨勢として価格のボラティリティ(変動性)が大幅上昇している
今後10年間程度の期間では、石油問題は主として増産投資が世界的にスムーズに行われるかという問題
中東湾岸地域において原油輸出が突然カットされるような危機においても、価格は高騰するものの、高い価格を提示できる石油会社や国には、市場全体の中でどんどん再配分されていく
現在のOPECは、むしろ自由化・市場化が進んだ市況商品市場につきものの価格変動をいかに安定させ、原油生産に関する能力投資や石油消費をいかに安定的に推移させるかが最大の関心事
先進諸国をはじめアジア諸国まで「天然ガス」というカードを利用しようという時代に、日本だけがそのカードを使えないという状態に陥りつつある。この状態が継続されることは、他国に比べて日本が中東危機、石油市場の撹乱に対してパニックに陥りやすいという脆弱性を内包し続けることを意味する
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本書を読むと、石油業界に対するこれまでの固定化したイメージが払拭され、今後の課題や各国の思惑がかなりわかるようになります。エネルギー投資に携わる方はもちろん、ビジネスパーソンの教養としても読んでおきたい一冊です。
というわけで、本日の一冊は、
『石油を読む』
http://tinyurl.com/4hnpq
です。手軽な装丁とは裏腹に、内容の充実した一冊でした。
■目次■
I.揺らぐ原油価格の真犯人は誰か
II.「資源パラノイア」と化す中国
III.「石油神話」を斬る
IV.新しいエネルギー戦略を目指して
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