本日の一冊は、「ドル暴落→世界不況」の懸念を前面に打ち出し、その可能性を論じた、刺激的な論考です。
著者のリチャード・ダンカンさんは、ABNアムロ・アセット・マネジメント社の金融部門上級投資アナリストで、現在は香港に在住。1997年のアジア通貨危機の際には、IMFのコンサルタントとしてタイに乗り込み、事態の収拾に尽力したという人物です。
バブルが発生し、崩壊に至る、現在のグローバル経済の構造的な問題を、著者のアジアでの経験を交えながら語った、注目の一冊です。
アメリカ当局の対応や、それに伴って起きる問題など、さまざまな可能性を緻密に検証しながら、「ドル暴落→世界不況」の可能性を論じています。
では、さっそくその論点を見ていきましょう。
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本日の赤ペンチェック ※本文より抜粋
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世界各国に巨大な市場を提供して、世界経済の原動力となってきたアメリカの経常収支赤字の修正・消滅は、アメリカを含む世界各国の経済が最も疲弊しきっている時に起きる可能性が大
大規模な経済ブームのほとんどは、大々的な信用創造の結果(中略)各国の中央銀行のみならず、世界中のエコノミストが見落としていた準備資産という変数が、過剰な信用創造をもたらす真犯人なのだ
かつての金本位制やブレトン・ウッズ体制の時代には、対外赤字に陥った国はその赤字を金でまかなわなくてはならなかったのに対し、黒字国が債権を受け取り続けるかぎり、赤字国は債務を積み重ねることが可能になったのが、ドル本位制の特徴であるという点がはっきりするだろう。そして、主たる赤字国こそ、アメリカというわけである
準備資産の増大には、強力なインフレ圧力が内在しており、日本もアジア諸国も、準備資産の激増に直面して、マネー・サプライをコントロールできなくなったのである。結果として経済は過熱し、資産価格の暴騰つまりバブルが発生し、ついではじけることとなった
過熱しつつある経済を冷却することも、資産バブルを初期の段階で鎮静することも、通貨当局にとっては政治的に難しい(中略)誰だって好況はうれしいし、それに水をさすような政策は、忌避される
バブルはどれも、最後はデフレに終わる。長期にわたって資金コストが低ければ設備投資が進むが、その結果として供給の増えた財・サービスを吸収するに足るだけ、消費者の購買力が増大することはないからである
アメリカは海外で売るよりもずっと多くを世界の残りから買い入れ、その支払いはドルですませている。そして、ドルを受け取った黒字国は、金利を稼ぐべく、受け取った分のドルをアメリカの証券に投資しなおす。つまり、アメリカが支払ったドルは、アメリカに帰ってくるのである
経済成長と銀行の融資の伸びとは、どちらが原因で、どちらが結果なのだろう? 実は、どちらの可能性も存在する。経済成長が融資残高の伸びをもたらすこともあるが、融資残高の伸びが経済成長に拍車をかけることもあるのだ(中略)アメリカでは融資の拡張が――いや、融資の拡張こそが――過去二〇年間の力強い経済成長と株式市場のブームを支えてきた
わずか一七年間でアメリカ企業の総資産は、一〇倍に膨張したのだ。狂乱の一九二〇年代に、そっくりではないか
投資が急落して失業率が上昇するというのは、景気後退が始まるときのお決まりのパターンだ。二〇〇一年のアメリカでも、まさにこのとおりのことが起きた。普通はこれに個人消費の急減速も見られるはずなのだが、驚くべきことに、アメリカではこちらはいたって堅調だった(中略)実は堅調な消費は、家計が消費者金融に背中を押されているからこそ、可能となっている(中略)アメリカ人は値上がりを続ける持ち家を抵当にして借金をし、それで消費を維持してきた
アメリカの家計には、困った時に引き出せるような貯蓄が、ほとんどない(中略)だいたい、所得よりも債務のほうが速く伸びていくという状態が、国家であれ個人であれ、いつまでも続くはずがない
アメリカの連邦政府の債務総額は六兆ドル、GDPの約五八パーセントである。絶対額で見ると、これは史上最大だ
長期的にはぼろぼろのアメリカ財政だが、短期的には強烈な好材料がある。それは、アメリカ政府の信用力が債務にまけないくらいに巨大なので、もうあと何兆ドルか債務を積み増そうとしても、おそらく何の問題も発生しないだろうという点である
政府財政の悪化が、もっとずっと急激なものとなる危険
・銀行危機の可能性
・デリバティブ市場のメルトダウン
短期的には、ドルの命運は、アメリカの連邦財政赤字がどれだけの規模、どれだけのスピードで拡張できるかということにかかってくる。(中略)しかし、アメリカ連邦政府でさえも、それだけの財政赤字をいつまでも垂れ流し続けることは不可能である。せいぜい、ドルの暴落は、執行猶予を与えられるだけで、いずれは確実にやってくるのだ
ドルがアメリカの主要貿易相手国のすべての通貨に対して大幅に下落しないかぎり、アメリカの経常収支赤字は今後数年間、大きくなるいっぽうだと思われる。それは裏返せばアメリカ市場で低賃金国からの輸入品の洪水が発生するということで、現在のアメリカのディスインフレーションは、これだけでも、全面的なデフレに化けてしまうかもしれないのだ
※この後は、著者による提言が続きます
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かなり読み応えのある内容でしたが、ページ数は200ページちょっとと、さほど多くはありません。現在のグローバル経済の構造を概観する意味でも、読んでみると面白いと思います。
というわけで、本日の一冊は、
『ドル暴落から、世界不況が始まる』
http://tinyurl.com/5qkn2
です。ぜひ、「論拠」まで読み込んでみてください。
目次
日本語版への序文
■第一部 ドル・バブル
第一章 帳尻の合わない世界経済
第二章 経済バブルは、どこから来るか
第三章 経済沸騰
第四章 アメリカのニュー・エコノミー・バブル
■第二部 ドル不況前夜
第五章 ニュー・エコノミー不況
第六章 ドルの命運
第七章 バブルの後遺症に苦しむ世界経済―銀行危機、財政危機、デフレ
第八章 自由貿易がデフレをもたらす
■第三部 ドル不況のかたち
第九章 世界不況の深度を測る
第一〇章 マネタリズム、マネーに溺れる
■第四部 ドル不況を超えて
第一一章 国際最低賃金制
第一二章 国際流動性を制御する
結論
訳者あとがき
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