2004年9月27日

『知識資本主義』

http://tinyurl.com/6k7hq

本日の一冊は、アメリカを代表する経済学者、レスター・C・サロー氏による注目の論考です。

読んでいてすごいと思ったのは、資本主義の構造的な問題に着目し、なぜ資本主義が発展と衰退を繰り返すのか、それに伴い社会に問題が起こるのか、といった点を見事に解き明かしている点です。

学問をすることでこういった「本質」を学べば、経済活動におけるさまざまな嘘やペテンに騙されずに済みます。

株式投資ひとつをとっても、『今すぐ儲かる~』的な本を読むより、本書の方がずっと有意義だと思います。

『知識資本主義』というタイトルに必ずしも合致する内容ではありませんが、資本主義とグローバリゼーション、そして今後の世界経済の行方をうらなう上で、貴重な一冊だと言えるでしょう。

政治関連書としての側面もあるため、ここでは、ビジネス・経済にかかわる部分だけを抜き出してご紹介します。
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 本日の赤ペンチェック ※本文より抜粋
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ビジネスという観点から考えるなら、通信技術の発展によってグローバル規模での販売と資材調達が可能になったことは、高い利益を生むと同時にグローバルであることが常に必要不可欠になったということでもある。

将来の経済的な成功の鍵は、新しい革新的なテクノロジーの開発にかかっている。そしてその技術を使いこなせる社会的能力や文化、そして知的態度の有無にかかっているといえる。経済発展の牽引車として、知的所有権が天然資源採掘の権利に取って代わったのである。技術、教育、文化といったソフトパワーが、他国への軍事的侵略と植民地支配というハードパワーに取って代わったといえる。

非常に稀に、普通より大きな、ないしはまったく予期せぬ事故が起こると、その当初は大きな関心を呼び、たくさんの意見が聞かれる。しかし、団体や委員会による組織的な行動がなければ何も変わらないのである。

我々は往々にして災害の検証を拒む傾向がある。なぜなら、そうすることがあまりにも悲観的だと考えがちだからである。同様の事件など二度と起こるはずがない。あまりにも悲惨すぎて、深く見つめることなどできないのだ。(中略)また人々は既存のシステムの改革や、そのシステムをつくったことの責任に直面したくないため、悪者を探し出して責任を擦り付けたくなるのである。

グローバル経済に参加した国々は、参加しない国々よりも速いペースで裕福になる。参加した国々は専門化や、規模の経済や、技術移転や、直接海外投資や、市場アクセスや、また参加することのみで得られる特殊な経営ノウハウを取得することができるなどの恩恵を受けることができる。しかし、その代わりにグローバル・ビジネスの要求に応えなければならず、そのためには教育、インフラ、よい治安などを提供する必要がある。

グローバリゼーションが人間生活を向上させる力となるのかどうかは、いかなるグローバル経済を構築するかにかかっている。星の運勢によって決まるものではない。それは人々が進もうとしている方向と、構築しようとしているシステムによって決まっていくのである。

資本主義の欠陥は、その成功同様、資本主義の遺伝子ともいえるその本質的な部分によって引き起こされている(中略)したがってグローバリゼーションは、資本主義の経済的不安定に耐えられるように構築されなければならない。

資本主義の成功とその不安定さの理由は、人間の三つの根本的な態度に求めることができる。欲、楽観、そして群集心理だ。

暗い将来を予見する者には報償はない。少なくとも、それが現実に起こるまではである。バブルの真っ最中に、株式アナリストの「買うな」という助言にカネを払う者はいない。(中略)銀行は融資をしてカネを稼ぐ。融資をせずに稼ぐのではない。

すべての資本主義下のバブルは、不祥事で終わるのである。バブルが終わろうとするころ、好景気をもう少し持続させようとする圧力はものすごく強くなる。目標の数字に達成させようと躍起となり(アナリストの予測したとおりに、売上や利益は上昇しなければならない)、目標達成のプレッシャーは企業のトップから末端にまで及ぶ。

(バブルの崩壊に関して)
理性的な左脳では、まったく利益を出していない会社に何百億ドルもの資産価値などあり得ないことは分かっていたはずである。個人投資家が株を買ったのは、騙されたからでなく、感情に支配される右脳によって簡単にカネ持ちになれるのではないかと思い込んだからである。

(会計監査に関して)
雇い主や自分をクビにできる人、または報酬額を決定できる人に歯向かう者はいないだろう。もし完全に正直な会計監査を望むなら、連邦政府は金融察なるものを成立させ、職員を雇い、手当たり次第に法律どおりの会計検査を企業に対して実施しなければならない。

新しい技術の導入による高い生産性の伸びは、短期的には問題もあろうが、長期的には歓迎すべきことである。雇用数は減少しているが、一人当たりの生産高は増大している。(中略)この生産性の伸びを国のGDPの成長に結びつけるためには、生産性の川下で職がなくなるよりもさらに早く、生産性の川上とその途中に位置する部署で雇用を増大させるようなマクロ経済政策が実施されなければならない。

民間が生産のために資本を貯蓄することを認める社会は、それを認めない社会(社会主義)よりも本質的により不平等なのである。

価格標準化現象はグローバリゼーションの度合いを測る指標(中略)価格標準化現象は個別の現象でなく、知識集約型社会の発展に伴って進展するものである。

(知識集約型社会において)技術のある者は、労働者であると同時に資本家である。自らが人的資本なのである。

グローバリゼーションを脅かす危機
・ドルの暴落
・知的所有権の崩壊

知的所有権が今日の知識集約型経済社会すなわち知識資本主義の核となっている。知識や情報はただではない。知識や情報を得るためには投資が必要である。金を保持することが許されないのなら、人は金鉱を掘らないように、それを保有することが許されないのなら、人は知識や情報を求めないだろう。数学、ソフトウェア、バイオ遺伝子工学、そして経営学の進歩は特許、著作権、商標の保護によるところが大きい。

今日、資源は誰でも世界市場で安く手に入れることができる(中略)今日、市場は世界のどこからでもアクセスすることができる。同様に、(中略)資本は借り入れることができる。残る本当の意味での競争力となると、それは他が持たない技術、侵すことのできない著作権、または他社と差別化することができるブランド名ということになる。

既存の知的所有権に関する3つの問題
1.現在のシステムは今日のテクノロジーに対応するようにはつくられていない
2.新しいエレクトロニック・テクノロジーは古い所有権の行使を不可能にしてしまった
3.知的所有権を守るグローバルシステムが存在しない

CKO(最高知識責任者)の概念と役割
・新しいグローバル知識資本主義における短期・長期の戦略と戦術
 を計画立案し、そして指導すること
・テクノロジーと、それがいかに社会と経済とに関わっているかと
 いう正確な情報を提供する

知識資本主義―成功の条件
・バイオテクノロジーに対する態度
・男女の経済的な役割に対する態度
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いかがでしょうか。グローバル経済と、知識資本主義社会に起こる問題点、課題が明らかになったのではないでしょうか。

というわけで、本日の一冊は、

『知識資本主義』
http://tinyurl.com/6k7hq

です。お堅いテーマの割には読みやすいので、ぜひ読んでみてください。

目次

第1章 バベルの塔
第2章 アメリカ・日本・ヨーロッパ
第3章 資本主義の本質
第4章 反グローバリゼーションの声
第5章 真の脅威
第6章 資本主義を建て直す
第7章 CKO(最高知識責任者)
第8章 知識資本主義――成功の条件
訳者あとがき
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