2022年6月2日

『元素のふるさと図鑑』西山孝・著 vol.6009

【資源の視点から経済と世界情勢が見える】
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世界情勢やマーケットの動きを捉える上で、「資源」に着目することは極めて重要です。

危機が起きた時に、何が入手困難になるのか、その主要生産国はどこなのか、その影響で価格が高騰するのはどの製品なのか…。

これらを瞬時に見極められれば、当然ながら、投資でチャンスがつかめるからです。

ただ難しいのは、地下資源は、それぞれ主要産出国が違うのと、資源ごとに用途や扱い方が違うこと。

鉄や銅のように、それを産出することを目的に鉱山が開かれるものもありますが、ハイテク関連に使われる新しい金属のほとんどは、「バイプロダクト」といって、何かを選鉱したり製錬したりする工程でついでに回収されます。

ひと言で金属と言っても、それぞれ事情が違うのです。

ただ面白いのは、複雑ゆえにその性質や用途、トレンド、データを押さえておけば、ニュースが出た時、いち早く投資チャンスがつかめる。

仮に資源のプロには勝てなくても、その先にどんな産業、ビジネスがあるのか読めれば、投資で勝つことができます。

本日ご紹介する一冊は、その資源のなかでも、「金属」に着目し、解説した一冊。

それぞれの金属がどこで採られているのか、何に使われているのか、日本は年間にどの程度消費し、どの国に生産を依存しているのか。

京都大学名誉教授で、資源経済学、資源地質学を専門とする西山孝先生が詳しくまとめてくれています。

恥ずかしながら、知らないことだらけで、本当に勉強になりました。

さっそく本文のなかから、気になったところを赤ペンチェックして行きましょう。

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鉱石とは、現在の技術でメタルを取りだして利益のでる岩石のことです。目的のメタルがどれくらいふくまれていれば利益のでる岩石になるかは、メタルによりまちまちです。アルミニウムや鉄ならば地殻の元素存在度にくらべて数倍から10倍程度ふくまれていれば、鉱石になります。銅鉱石や金鉱石では、数10倍から1000倍です

液晶に使われるインジウム鉱山は世界地図でさがしても見つかりません。インジウムは亜鉛のバイプロダクト(副産物)として、亜鉛・鉛鉱山から回収されているからです

鉱石から素材への流れで注意すべきことがあります。“流れ”にはいくつものボトルネックがあり、そこが乱れるとメタルの価格は高騰します

たとえば2010年秋の「レアアース危機」とよばれる事件では、当時レアアースの世界生産量の97%をしめていた中国が突然、政治的な理由から輸出を禁止したため、一時的に30~40倍もの高値になりました。日本ではハイブリッド車の駆動用モーターや液晶ガラスの研磨など、いろいろなハイテク部品にレアアースを使っており、日本の社会基盤のもろさをあらわした劇的な事件でした

少量で材料の性質を劇的に変えるメタルを使ったすばらしい製品が開発・普及すると、特定のメタルの需要が爆発的に増えます

自動車材料の鋼板も改良され、今日ではシリコンやチタンなど10数種のレアメタルを添加したハイテンという軽くて強い高張力鋼板が生まれています。燃費向上に向け、成形性のすぐれたハイテンを車体の4~6割に採用しています

亜鉛や鉛の耐用年数が短いため、インジウムの枯渇も心配になります。現在の世界生産量は970トンで、おもな生産国は中国、韓国、そして日本です(中略)日本のインジウム消費量のほとんどを、この液晶ディスプレイの透明電極用がしめます

ジスプロシウムは中国南部に分布するイオン吸着鉱にとくに多くふくまれているため、世界生産の大半を中国一国が占めています

タンタル鉱床はアフリカに偏在し、コンゴとルワンダがおもな生産国です(中略)情報通信機器の小型化、高性能化には、電気を蓄えるタンタルコンデンサが不可欠です。スマートフォンやコンピュータ、テレビなどには、小型タンタルコンデンサが多数埋めこまれています

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なぜ「ビジネスブックマラソン」が、化学専門出版社が作った、『元素のふるさと図鑑』なんてタイトルの本を紹介するのか?

疑問に思った方もいらっしゃると思いますが、本書は、いま話題の資源経済学や地政学につながる重要な知識を詰め込んだ、ビジネスパーソンの秘密兵器だと思います。

ぜひ、読んでみてください。きっと、毎日のニュースが違って見えてくるはずです。

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『元素のふるさと図鑑』西山孝・著 化学同人

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◆目次◆

第1章 地球の成り立ちと鉱石
第2章 鉱石が素材になるまで
第3章 生活と産業をつくりだす元素
    ーーベースメタルが素材になるまで
第4章 ハイテクを支える元素
    ーーレアメタルが製品になるまで
第5章 元素資源の未来
    ーー深海底での開発は進むか
コラム

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