2021年11月26日

『天才論 立川談志の凄み』 立川談慶・著 vol.5887

【先見性と普遍性と論理性】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4569850758

本日の一冊は、落語界における不世出の天才、立川談志の凄さを、弟子の談慶さんが語った一冊。

元々、「水道橋博士のメルマ旬報」で連載していたものから一部抜粋し、書き下ろしの序論「談志天才論」を加えたもの。

入門して九年半でやっと二つ目になれたという著者が、天才・談志を攻略しようと観察し続けた結果、たどり着いた天才論がまとめられています。

構成としては、大きく2つに分けられており、前半にあたる「第一部 談志は何が凄いのか」では、談志の思考法と落語界にもたらしたイノベーションについて、後半にあたる「第二部 談志は談慶をどう育てたか」では、著者が弟子入りしてから談志に認められるまでの苦悩の歴史が書かれています。

いずれも、師匠に密着してきた弟子だからこそ書けた内容であり、以前読んだ名著『赤めだか』とはまた違った視点で楽しめました。

※参考:『赤めだか』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/459407362X

本書の白眉は、立川談志の凄さを、「先見性」「普遍性」「論理性」の3つのキーワードで分析した部分。

なるほど、業界にイノベーションを起こし、作品を不朽の名作にし、かつその技能を弟子に引き継ぐには、これらの要素が必要なのかと、読んでいて感銘を受けました。

なかなか芽が出なかった著者だけに、どうすれば凡人が天才に近づけるのか、という視点で見ても面白い本だと思います。

さっそく本文のなかから、気になったところを赤ペンチェックして行きましょう。

—————————-

談志は、これにも疑問をぶつけました。つまりーー殿様がたが屋の首をはねて群衆の期待とは真逆の流れになったにもかかわらず、群衆ときたら、それでも「たが屋ー」と喜んでいるという「大衆の無責任」を表現した噺にしてしまったのです。一説によると、この噺、当初は「たが屋の首が飛ぶ」のがオチだったそうです。談志は「せこい下剋上のカタルシスではなく、もっと普遍的で不変な『人間の業』に近い形の群衆のいい加減さ」にテーマを切り替えたことで、この落語の凄さが際立つ形へと、いわば「先祖帰り」させた

「業の肯定」とは、一言でいうならば、「落語の登場人物全般の行動様式のこと」です。どの登場人物もおしなべて酒に女性に博打にと欲望に負けがちな「弱さ」を内在させています。その弱さを「業」として受け止めてみた場合、落語の物語を通して「それでいいんだよ」と許してくれる空気感をベースに話が進んでゆきます。落語を聞いて快適に感じるのはそんな優しい匂いがあるからではと分析したのが、立川談志だったというわけです

一人、「私の考えが甘かったので辞めさせていただきます」と置手紙を残して去って行った弟子がいました。師匠は一読して、つぶやきました。「こいつは何か? 俺の基準を甘くしてほしいと言ってるだけだろ。野球で、甘い球を投げて打たれたピッチャーは、次からは厳しいコースを投げようとするじゃねえか。自分の考えが甘くてダメだとわかったら、自分の考えを辛くすればいいだけじゃねえ
か。そうしたくないんだろ? 要するに自分の基準は変えたくねえって甘えなんだよな」

「落語という『型』があるものゆえ、それだけをなぞりさえすれば、素人でも出来る。つまり、落語なんざ誰でも出来るんだ。ならばその前に、その型の外側にある『枠』を、まずこしらえてみろ」

有象無象がうごめく世間一般の多様化した価値観にさらされないガラパゴス的環境こそ、天才を生む土壌なのかもしれません

天才は組織を否定する

努力はバカに恵(あた)えた夢

—————————-

天才コピーライター、デイヴィッド・オグルヴィの部下は、みな師匠の名言を熱心に書き留め、いつか本にしようと企んでいたそうですが(事実、本になった)、弟子たちがことごとく本を出版している立川談志さんもまた、名言家でした。

本書にはその談志さんの名言、エピソードがふんだんに散りばめられており、最後まで飽きずに読むことができました。

天才論は好きでよく読むのですが、その視点で見ても、面白い一冊だと思います。

ぜひ、読んでみてください。

———————————————–

『天才論 立川談志の凄み』
立川談慶・著 PHP研究所

<Amazon.co.jpで購入する>
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4569850758

<Kindleで購入する>
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B09LTWVYKY

———————————————–
◆目次◆

第一部 談志は何が凄いのか
第一話 天才はショートカットする
第二話 これぞ天才 談志の身体性
第三話 立川流を創設した理由
第四話 談志が落語界にもたらした変革
第五話 枯れた芸を唾棄した談志
第六話 「イリュージョン」「江戸の風」と、志ん朝師匠
第二部 談志は談慶をどう育てたか
第一話 「殺しはしませんから」
第二話 天才は組織を否定する
第三話 努力はバカに恵えた夢
第四話 欲しいものは、取りに来い
第五話 「あー、機嫌が悪いんです」
第六話 怒りの対象を求める天才
第七話 弟子の課題は、弟子自身に気づかせる
第八話 師匠こそ、ハートウォーマー

この書評に関連度が高い書評

この書籍に関するTwitterでのコメント

NEWS

RSS

お知らせはまだありません。

過去のアーカイブ

カレンダー