【井上ひさし伝説の名講義?】
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本日の一冊は、作家・井上ひさしさんが生前、上智大学で行った連続講義をまとめて本にしたもの。
日本の未来を憂い、日本語の未来を考え続けた井上ひさしさんが、生徒にどんなことを語ったのか。
母語と脳の関係、カタカナ語の弊害、やまとことばと漢語の話…。さまざまなトピックが雑談調に取り上げられますが、なかでも明治時代、「権利」や「自由」などの言葉がどうやって作られたのかという話は参考になりました。
もともとの意味が「力ずくで得る利益」だったことから、私たちは「権利」にどこか否定的な印象を持っている。
また、「自由」も同じく「我儘勝手のし放題。思うまま振る舞う」が原義だったために、われわれは必ず「義務」とセットで扱う。
普段何となく使っている日本語に、こんな背景があったのかと、驚かされます。
著者の政治的な信条や、根拠のあいまいな仮説、東北弁標準語説などは、主観が多く含まれており、ややマイナス要因ですが、氏の思想に触れられるだけでも読む価値があると思います。
われわれビジネスマンは、しくみづくりに真剣に取り組みますが、人間の思想の根幹を成す言語も、またしくみの一つ。
人を動かす「言葉」の本質を考えるうえで、本書は一読に値する一冊です。
ぜひ読んでみてください。
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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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日本は強いものを真似する
鈴木孝夫さんという学者が、こういう日本人の傾向を「地上ユートピア主義」とおっしゃっています。日本人は、自分の国が一番いいとは思っていないのですね。絶えず、いいところは他にあると思っている
言葉は完璧な多数決ですから、どんな間違った言葉でも、大勢の人が使い出すと、それは正しい言葉になってしまいます
日本語では、再生とか、改良とか、仕立て直しとか、改築、増築、改装と、たくさん言葉があって、それぞれ微妙に違います。その違いを全部無視してリフォームにしてしまう。一見便利なようですが、今まで言い分けてきた日本人の脳の働き、正確さというのを、リフォームの一言で、非常に単純化してしまうのです
大江さんはたとえば「書物たち」という具合に、初めて無機物にも「たち」をつけたりしました
自分の本当の言葉を失ったとき、人は主体性も失ってしまいます
言葉が自然に消えるということはありません。必ず何かの、社会的、経済的、政治的圧迫で消えていくのです
すぐれた文明を持った人は、かならず言語的にも勝利するのです。というのは、ヤマイモというのがないところへヤマイモを持ってくるわけですから、どうしたって、「ヤマイモ」という、外から来た言語を使わざるをえない
◆柳田国男の『蝸牛考』という有名な論文
ある勢力の強い中心があると、言葉というものは絶えずその中心から生産されていって、かたつむりみたいに、渦巻きのように、ずーっと広がっていく。中央の言葉は絶えず生まれますから、また追っかけて、広がっていく。そうすると、一番古い形が一番奥、中心から遠いところに残るという、有名な理論です
昔は、つまりやまとことばでは、火事のことを「ひのこと」と言っていた
もともとの「権利」という言葉の意味は、「力ずくで得る利益」なのです。仏典や中国の『荀子』という道徳書などでは、「権利」は「権力と利益」の意味で使われています。それなのに西周さんは、「ライト」に「権利」を当てたわけです。ところがその結果、「権利」というのはなんとなく悪いことだという感覚が、日本人のなかにずーっとしみついていく
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『日本語教室』井上ひさし・著 新潮社
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◆目次◆
第一講 日本語はいまどうなっているのか
第二講 日本語はどうつくられたのか
第三講 日本語はどのように話されるのか
第四講 日本語はどのように表現されるのか
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