【2017年最後の一冊。これは新しい「仕事論」でもある。】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4163902945
年末の締めくくりは、いつもどの本にしようか迷いますが、今年は迷わず、宮下奈都さんの小説『羊と鋼の森』をセレクトしました。
ご存知のように、2016年の「本屋大賞」を受賞した有名作品ですが、これは今、仕事について考える上で重要なヒントとなる一冊です。
価値観が多様化し、成功のゴールが人それぞれになった時代、われわれは一体何を目指せばいいのか。そのヒントが本書にはあります。
<才能っていうのはさ、ものすごく好きだっていう気持ちなんじゃないか>
<目指すところがあるとしたら、ひとつの場所ではなく、ひとつの状態なのではないか>
ついつい、20世紀型の「成功」を目指してしまいがちなわれわれに、本書は、新しい時代の自己実現の形を示してくれます。
主人公は、天才調律師・板鳥さんに憧れて調律師を目指す外村くん。<ピアノに出会うまで、美しいものに気づかずにいた>という主人公が、音楽と出会うことで、人生が一変します。
何となく憧れて調律師になった主人公が、ピアノをひく双子の姉妹に出会い、使命に目覚め、成長していく…。
職業とは何なのか、われわれは何を目指して働けばいいのか、その答えが、本書を通読することで得られると思います。
さっそく、いくつか気になったポイントを見て行きましょう。
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「ここに素晴らしい音楽がある。辺鄙な町の人間にも、それを楽しむことはできるんだよ。むしろ、都会の人間が飛行機に乗って板鳥くんのピアノを聴きに来ればいい、くらいに私は思ってるんだがね」その通りだった。(中略)山と町。都会と田舎。大きい小さい。価値とは何の関係もない基準に、いつのまにか囚われていた
「才能っていうのはさ、ものすごく好きだっていう気持ちなんじゃないか。どんなことがあっても、そこから離れられない執念とか、闘志とか、そういうものと似てる何か。俺はそう思うことにしてるよ」
音楽は競うものじゃない。だとしたら、調律師はもっとだ。調律師の仕事は競うものから遠く離れた場所にあるはずだ。目指すところがあるとしたら、ひとつの場所ではなく、ひとつの状態なのではないか
「ピアノで食べていこうなんて思ってない」
和音は言った。
「ピアノを食べて生きていくんだよ」
由仁の真剣な表情を見て、思った。ピアノをあきらめることなんて、ないんじゃないか。森の入口はどこにでもある。森の歩き方も、たぶんいくつもある
「だからね、思いついたことをやってみたらいいと思うの。うまくいかなかったら、戻せばいいじゃない。和音ちゃんのピアノがもっとよくなるかもしれないんでしょう」
誰が食べるかわかっていれば、その人に照準を合わせることができる。好みのおいしさを提供することができる。調律も同じだ。誰が弾くかわかっているのなら、その人に一番似合う音色、その人の一番欲しい音色をつくればいい
「才能がなくたって生きていけるんだよ。だけど、どこかで信じてるんだ。一万時間を越えても見えなかった何かが、二万時間をかければ見えるかもしれない。早くに見えることよりも、高く大きく見えることのほうが大事なんじゃないか」
今までずっと家庭のピアノしか調律したことがなかった。和音のピアノの調律をしたいなら、それでは駄目だ。やっとわかった。コンサートチューナーを目指さない。そう思っていたのは、誤りだった
僕には何もなくても、美しいものも、音楽も、もともと世界に溶けている
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ネタバレになるので、細かいストーリーは省略しますが、心の底から仕事というものの尊さを感じ、感動してしまいました。
人はどうやって天職に出会うのか、どうやって一流の階段をのぼっていくのか。そのイメージがばっちり掴めると思います。
企業の知名度や規模、給料、そんなものに振りまわされているうちは、本当に幸福な職業人生は送れない。
「美」をテーマにした小説ですが、職業人の美徳についても触れられており、じつに心揺さぶられました。
ぜひ年末に読んで、来年からの飛躍のヒントにしてください。
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『羊と鋼の森』宮下奈都・著 文藝春秋
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http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4163902945/
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※ないので省略します
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