2024年1月24日

『日本製鉄の転生』上阪欣史・著 vol.6403

【奇跡の復活を遂げた日本製鉄のドラマ】
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本日ご紹介する一冊は、過去最大4300億円の赤字から最高益へ、奇跡の復活を遂げた日本製鉄の企業再生ノンフィクション。

取材・執筆にあたったのは、日経ビジネスの副編集長で、日経ビジネス電子版に「上阪欣史のものづくりキングダム」を連載中の上阪欣史(うえさか・よしふみ)さんです。

2019年4月に就任した橋本英二社長のもと、大復活を遂げた日本製鐵ですが、本書には、その一部始終が書かれています。

難しかった値上げと、国内製鉄所のスリム化、高付加価値製品、グローバルへのシフト…。

いうは易しですが、日本製鉄ほどの巨大企業にとって、それは決して簡単なことではありません。

特に、分断が進むグローバル経済において、どうやって新興市場に出て行くか、リスクを軽減するか、パートナーシップを結ぶか、安定供給するかといった話は、困難を極める骨折り仕事です。

本書には、巨大プロジェクトを果敢に進め、その後幾多の困難を乗り越えた、同社の勇者たちのエピソードが書かれています。

インドで過去最大M&Aを実現した、当時グローバル事業担当副社長の橋本氏の英断、諦めムードを変えた明石博之氏の言葉、異例のスピードでのM&Aを実現させた法務部門「日本製鉄の守護神」原田剛氏の仕事ほか、日本製鉄の躍進を支えた、陰の立役者たちの活躍ぶりが、丁寧な取材により浮き彫りになっています。

かつて重くて動けなかった同社が、橋本社長のもと、一丸となって突き進んでいく様は、まるで『キングダム』でも読んでいるかのようです。

日本のモノづくりの存在意義と、これから向かうべき道を指し示した、素晴らしいノンフィクションだと思います。

さっそく本文のなかから、気になった部分を赤ペンチェックしてみましょう。

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象徴的な出来事がある。21年5月、業界団体である日本鉄鋼連盟の会見でのことだ。会長を務める橋本は「個社としての話」と前置きした上で、「『ひも付き』は国際的にも理不尽に安く、是正しないと安定供給に責任を持てなくなる」と訴えた。ひも付きとは、特定の大口顧客との取引を指す業界用語。「いくら大口顧客だといっても価格が安すぎては供給できない」という決意を世間に示す、乾坤一擲の発言だった

橋本は新会社の船出にあたり「船長」として3つの帆を揚げた。まず、「2年以内のV字回復」だ。手本にしたのは、事業再生の専門家として知られるミスミグループ本社名誉会長の三枝匡。三枝は過去、大赤字から2年で業績を回復させた実績を持つカリスマ経営者だ。橋本が「このままキャッシュアウトが続けば日本製鉄に3年目はない」と見越していたことも2年に区切った理由の一つだ。2つ目は「上からの改革」。「日本のドラッカー」「社長の教祖」などの異名を取り数千社を指導した経営コンサルタント、一倉定の「改革はすベて上からであり、問われるのはマネジメント力」という訓示を肝に銘じた。最後の帆は「論理と数字がすべて」。論理と数字を基に導き出された結論には「いかなる犠牲や反発があろうとも従ってもらう」と宣言した

経営トップによる製鉄所訪問はそれまでも定期的に実施していたが、対話をするのは製鉄所長や総務部長といった上位の幹部層だけに限られていた。橋本は、さらに現場に下りていく。スーツから作業着に着替え、高炉や「鋳造」「圧延」などそれぞれの工程を束ねる現場リーダーである工場長、工程内の設備を担当する課長まで対話する相手を広げた

橋本は中国の古典の一つである「孫子の兵法」を好む。その中に「迂直之計(迂を以て直となし 患を以て利となす)」という一節がある。「回り道のように思える遠い道を真っすぐの近道に変化させ、弱点やマイナスの状況を発想の転換によってプラスの力とする」といった意味だ。橋本が打ち出した「値上げなくして供給なし」の通達は、この兵法に通じるところがある

日本の国づくりを鉄づくりで支えたDNAを持つ日本製鉄が、インドの基幹産業の請負人になろうとしているのだ。今の日本製鉄が描く「グローバル3.0」は、世界の成長国の国づくりを担うということなのかもしれない

橋本の座右の銘は「事上磨錬」。中国明代の思想家、王陽明が残した「行動や実践を通してしか知識や技能は磨かれず、人間の実力は身につかない」という意味の格言だ

近い将来、社長を退任する時、一つだけ自分がこだわったKPI(重要業績評価指標)は何だったかと聞かれたら、私は「社員に支払っていた給与をどれだけ増やせたか」だと言うでしょう(橋本英二氏)

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最後となる第9章に、気になる橋本社長評が載っているのと、その後、本人のインタビューが載っているので、橋本氏に興味を持った人、投資を検討している人は、ぜひ読んでおくといいと思います。

ここまでの改革を断行できたこともすごいですが、本人の人柄・魅力もすごい。

ひさびさに熱いビジネス書でした。

ぜひ、読んでみてください。

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『日本製鉄の転生』上阪欣史・著 日経BP

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◆目次◆

はじめに
プロローグ
【コラム】よく分かる日本製鉄
第1章 自己否定から始まった改革 5つの高炉削減、32ライン休止の衝撃
第2章 「値上げなくして供給なし」大口顧客と決死の価格交渉
第3章 異例のスピードで決断 インドで過去最大M&A
第4章 動き出すグローバル3.0 「鉄は国家なり」の請負人に
第5章 国内に巨額投資の覚悟 高級鋼で勝ち抜く「方程式」
第6章 脱炭素の「悪玉」論を払拭せよ 鉄づくりを抜本改革
第7章 「高炉を止めるな!」八幡の防人が挑む改革後の難題
第8章 原料戦線異状あり 資源会社に巨額出資
第9章 橋本英二という男 野性と理性の間に
【インタビュー】日本製鉄社長 橋本英二氏
おわりに

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