2023年7月14日

『カニバリゼーション』山田英夫・著 vol.6277

【カニバリの悪影響を避け、未来の事業を作る】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4478117063

本日ご紹介する一冊は、早稲田大学ビジネススクール教授の山田英夫さんがまとめた、企業のカニバリゼーション(食い合い)研究。

最初タイトルを見た時、「今時、カニバリゼーションなんて気にしないで、どんどん事業を進めればいいのに」と思ったのですが、それは土井がカニバリゼーションを恐れない社風のアマゾンにいたからで、現実多くの企業では、このカニバリゼーションが新規事業創出の妨げになっているということを知りました。

要するに、カニバリゼーションそのものが問題なのではなく、カニバリゼーションを気にして有望な新規事業やビジネスモデルが潰されることに問題があるのです。

本書では、このカニバリゼーションの悪影響を避け、見事にビジネスモデルシフトを成功させた企業事例を紹介。

具体的には、無料サービスのインディードを取り込んだリクルート、チケットぴあと店舗のカニバリゼーション、取引先との競合をうまくマネジメントし、チケットの電子化、イベント主催に成功したぴあ、電子チラシ事業を成功させた凸版印刷、「逆ジレットモデル」で成功したエプソンの大容量インクタンク搭載プリンター、東京ガスのエネルギーサービス事業、ブリヂストンのリトレッド事業、全日本空輸のLCCへの進出が挙げられています。

新規事業創出にあたり、トップが果たした役割やインセンティブ、評価制度の変更など、さまざまな視点から分析を加えており、じつに勉強になります。

大企業で社内起業したい方や、社内起業、新規事業創出を促進したいトップは、ぜひ読んでおくといいと思いま。

本書の中でもコメントされていますが、『イノベーションのジレンマ』『両利きの経営』あたりが好きな読者には、確実に刺さる一冊だと思います。

『イノベーションのジレンマ』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4798100234

『両利きの経営』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4492534512

さっそく本文のなかから、気になった部分を赤ペンチェックしてみましょう。

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カニバリゼーションが問題となる3つの理由
1.エネルギーが社外向けではなく社内向けになる
2.新事業の機会損失
3.忖度経営の蔓延

P&Gでは「他社につぶされるくらいなら、自社の商品でつぶしたほうがよい」という、自社内カニバリゼーションを恐れない社内ポリシーがある

ジェフ・ベゾスは、マーケットプレイスの出品者に食われても、アマゾン全体の成長を優先した

実はマーケットプレイスがあることで、アマゾン本体は売れ筋商品に在庫を集中することができる

こうした流れの中で、「リクルートは何の会社なのか」を再定義することになった。かつてのリクルートは「情報誌の会社」であったが、今後の潮流を踏まえて、「マッチング・ビジネスの会社」に再定義した

リクルートでは新事業が立ち上がると、既存の事業・製品とは別立てで評価項目が定められるのが慣例だった。新旧合わせた売上げで評価していると、営業担当者は売りやすいほうを売ってしまい、結果的に新しい事業がうまく立ち上がらないということを、経験から
学んでいたからである

技術的課題を克服し、2010年、エプソンは大容量インクタンク搭載プリンターをインドネシアで発売した。本体価格は従来機の約3倍したが、大量印刷するユーザーに歓迎された。「本体は高いが、故障は少ない。消耗品のインクも安く買えて、安心して印刷できる」

ブリヂストンでは、ユーザーが自社で使用していたブリヂストン製のタイヤ(台タイヤ)でリトレッドを行う「自社台方式(Customer’s Own Casing)」を推奨している。そうすれば走行履歴が明らかなので、リトレッド後も安心して走行できるからである

カニバリゼーションを克服する方法
1.収益事業からの撤退
2.トップが防波堤になる
3.機能による事業の定義
4.顧客から価値の対価をもらう
5.評価尺度を変える
6.評価を別立てにする
7.チャネル企業への配慮
8.競合に奪われるくらいなら、自社で食う
9.組織の分離と統合

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正直、このタイトルでなければ、もっと多くの方に読んでもらえるのに、と思うのですが、中身はじつに面白い。

最大の読みどころは、7社の事例が紹介された第3章「ビジネスモデルのカニバリゼーションの解決事例」ですが、最後に示された「ビジネスモデルのカニバリゼーションへの9つの対処法」も勉強になります。

新規事業創出を考える大企業では、必読書に指定した方がいいのではないかと思うほど、有意義な内容だと思います。

ぜひ、読んでみてください。

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『カニバリゼーション』山田英夫・著 ダイヤモンド社

<Amazon.co.jpで購入する>
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4478117063

<Kindleで購入する>
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0C36R52QY

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◆目次◆

序章 カニバリゼーションはなぜ問題となるのか
第1章 カニバリゼーションは、どう捉えられてきたか
第2章 カニバリゼーションを見る3つの視点
第3章 ビジネスモデルのカニバリゼーションの解決事例
第4章 ビジネスモデルのカニバリゼーションへの9つの対処法
おわりに
参考文献
企業名索引

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