2022年10月17日

『才能の科学』マシュー・サイド・著 山形浩生、守岡桜・訳 vol.6100

【韓国で驚異の35万部】
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本日ご紹介する一冊は、2010年に出され、話題となった『非才!』を改題し、復刊したもの。

著者のマシュー・サイドは、10年近くイングランド1位の卓球選手だった方で、現在は作家、英『タイムズ』紙のコラムニストとして活躍しています。

本書は、世界的ベストセラーとなった著者の『失敗の科学』『多様性の科学』の原点とも言える一冊で、いわゆる「才能」神話を否定し、成功はじつは環境と機会によるもの、そして単なる努力ではなく、「目的性訓練」の賜物であることを示しています。

間違った努力を生徒に強いてしまう教師やコーチ、親は、ぜひ本書を読んでから指導することを切に願います。

本書を読んでわかるのは、スポーツにしろ何にしろ、成功のポイントはそれぞれ違い、ゆえに必要な訓練も異なるということ。

本書の37~39ページに、著者がテニス史上最高速サーブを打つ選手の一人、シュティヒ(自己ベストは時速214km)と対戦した時の話が載っているのですが、これは勉強になりました。

著者によると、テニスの場合、サーブを打ち返すのに使える時間はおよそ450ミリ秒。一方、卓球の猛スマッシュを打ち返すための時間はわずか250ミリ秒。理論的には、卓球選手がテニスのサーブを打ち返すのは簡単なはずなのに、なぜ著者はシュティヒのサーブを打ち返せなかったのか?

本書には、熟練したプレイヤーが何を見ているのか、どんなポイントを押さえ、どんな訓練をしているのか、その詳細が書かれています。

競技ごとに違う成功法則、必要な努力、そして親やコーチがどうやって導いたら成功するかまで…。

これを読まずして、天才教育は語れない、それぐらいの本だと思います。

一度読んだ本ではありますが、改めていろいろと発見がありました。

本文のなかから、さっそく気になったところを赤ペンチェックして行きましょう。

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モーツァルトの父親はもちろんレオポルド・モーツァルトだが、彼も有名な作曲家であり演奏家であった。(中略)レオポルドが幼いヴォルフガングの師として適任だったのは、レオポルド本人がすぐれていたせいだけではない。彼は子どもへの音楽教授法について、とても興味を持っていたのだ。レオポルドは音楽家としてはそこそこでしかなかったが、教育者としてはきわめてすぐれていた。彼の決定版バイオリン教本は、ヴォルフガングが誕生した年に出版されてから何十年にもわたって影響力のある教本となった

スポーツの成功の苦労に満ちた論理をもっとも雄弁に物語るのは、アンドレ・アガシかもしれない。自伝『オープン』の中で、彼はテニスをはじめた頃をこうふり返っている。「毎日二五〇〇個ボールを打てば一週間で一万七五〇〇個になり、一年経つ頃にはおよそ一〇〇万個のボールを打つことになると父は言う。父は数学を信じている。数字は嘘をつかないからだ。毎年一〇〇万個のボールを打つ子どもは、誰にも負けない存在になると言うんだ」

一九歳になって数週間がすぎた頃に、運命のいたずらが起こった。卓球の歴史においてもっとも偉大な選手の一人である陳新華が、ヨークシャーの愛らしい女性と結婚してイギリスに移住してきたのだ。(中略)一つのボールで対戦する代わりに、彼は一〇〇個のボールをバケツに入れて台の上に置き、さまざまな角度からさまざまな速度で、さまざまな回転をかけながら、いつも私のスピード、動き、技術、予測、タイミング、敏捷性の限界をじりじりと伸ばすように調整して打ってきたのだ。この「多球練習」についていくために、私は心身を一新するよう強いられた。それに応えて陳コーチもたびたびハードルを上げ、ついには私が打つ側だけ卓球台の幅を(一・五倍に)広げた。フットワークパターンを駆使してとほうもない要求に応えさせるためだった。五年間で、動き、スピード、位置認識が変わったし、世界ランキングも急上昇した

『インナーゴルフ』のガルウェイが提唱した精神的テクニックについてもう一度考えてみよう。彼はむずかしいパットと、なにか一度も失敗していない行動の関連づけを提案していた。「この簡単な行動とあざやかに結びつけると、これから決めるパットを心の中で失敗と結びつける余地はなくなる」と、ガルウェイは書いている

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今は変化が激しく、誰もが人生で何度か「学び直し」を経験しなくてはいけない時代だと思いますが、そんな時代だからこそ、本書を読むことには意義があります。

せっかくゼロから学ぶのだから、今度こそは良い環境に身を置き、一流のコーチから学ぶこと。

ゼロから学ぶことに、ワクワクする内容だと思います。

ぜひ、読んでみてください。

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『才能の科学』マシュー・サイド・著 山形浩生、守岡桜・訳 河出書房新社

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◆目次◆

第1部 才能という幻想
第1章 成功の隠れた条件
第2章 「奇跡の子」という神話
第3章 傑出への道
第4章 神秘の火花と人生を変えるマインドセット
第2部 パフォーマンスの心理学
第5章 プラシーボ効果
第6章 「あがり」のメカニズムとその回避法
第7章 儀式の効果、そして目標達成後に憂鬱になる理由
第3部 能力にまつわる考察
第8章 知覚の構造はつくり変わる
第9章 ドーピング、遺伝子改良、そして人類の将来
第10章 黒人はすぐれた走者か?
謝辞
注釈
訳者解説

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