2020年6月24日

『Spotify 新しいコンテンツ王国の誕生』 スベン・カールソン、ヨーナス・レイヨンフーフブッド・著 池上明子・訳 vol.5542

【Spotify躍進の秘密】
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本日ご紹介する一冊は、79か国、2億3000万人以上が利用し、有料会員1億人を超える世界No.1音楽ストリーミング企業、Spotifyの成長物語。

著者は、コロンビア大学でジャーナリズムの修士課程を修了後、ストックホルムの経済誌でアメリカでのスポティファイ株式公開を取材したスベン・カールソンと、ジェフ・ベゾス、スポティファイ共同創業者のマルティン・ロレンツォンなどをインタビューしているヨーナス・レイヨンフーフブッド氏。

何かと物議を醸してきた音楽ストリーミングサービスのノンフィクションとあって、関係者が公式には真実を語れないのでしょうか。

同書は、「非公式ノンフィクション」として、世に出る形となったようです。

本書には、CEOダニエル・エクの極秘の素顔、そして同社がソニーやアップル、大物アーティストたちと交わしてきた秘密の契約内容が赤裸々に書かれており、非公式ならではの楽しみを味わうことができます。(もちろん、本当かどうかもわかりません)

あまりに不平等なソニー・ミュージック、フェイスブックとの契約内容、大型アーティストの脱退、アップルの妨害など、まさにオビ裏に書いてある通り、「向かうところ敵だらけ」の同社の波乱万丈のサクセスストーリーが書かれています。

起業物語が好きな向きは、ぜひ読んでおきたい一冊です。

さっそく、本文の中から気になったポイントを赤ペンチェックしてみましょう。

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バルセロナの小集団には有利な点が3つあった。ひとつはマルティン・ロレンツォンの経験と莫大な資産。ふたつ目はダニエル・エクの製品に対する明確なビジョン、3つ目はスウェーデンの優秀なエンジニアたちをひきつけるアンドレアス・イーンの吸引力である

ダニエル・エクが出したアンドレアス・イーンへの指令は簡単明瞭だった。高速で音楽再生を可能にすること。(中略)「バッファリング」のために再生が遅れるということはリーダル通りでは許されなかった。その理由は「待つなんてクールじゃない」から

スポティファイは、次々と音楽データを買い集めて、音楽百科事典の様相を呈していく。さらに予測変換のアルゴリズムを開発し、たとえばビヨンセの曲を聴く人はリアーナの曲を好む傾向にあると予測することを可能にした

ダニエルは音楽も得意だったが、パソコンに関してはずば抜けた存在だった。5歳の時にはもう、自分のパソコンとして中古のコモドールVIC-20を手に入れて、テレビに取り付け、何時間でも夢中になって触っていた。ある日うまく動作しなくなったので、母親に修理を頼もうとしたらこう一蹴されたという。「自分で解決しなさい」

シャキルはスポティファイの初期バージョンを見て、ダニエルが取り組んでいることの壮大さに驚かされた。ある晩、彼は水を1杯飲もうとキッチンに向かった。そのとき、ダニエルがベッドの上に座ってノートパソコンの画面を見つめている姿を見かけた。数時間後、夜が明けたとき、そのスウェーデン人は、お腹の上にパソコンを載せたまま眠っていた。「この男は大成する。死ななければな」シャキルはそう思った

スポティファイ創設者は、急激な成長を成し遂げることで、この脅威に立ち向かおうと考えていた。規模が大きくなると、レコード会社からも自由になることができる。そうなると、アーティストはスポティファイに直接やってくる。シリコンバレーで言われているように「規模ですべてが変わる」のである

アップルミュージックの発表から数週間後、スポティファイの広報部はメールを一通送った。宛先は、アップストア経由でスポティファイに月額13ドルを支払った全会員である。内容は、会費の支払いをアップストアではなくスポティファイに直接支払うようにという要請であった。「わずか月額9.99ドルで、まったく同等のサービスを受けることができる」とメールに記載されていた。(中略)2016年6月、ティム・クックがついにアップストアの条件を緩和した。アップルの取り分を2年目からこれまでの半額の売上総額の15パーセントにした。しかし、
軋轢はこれで終わりではない

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ビジネス書に必須の教訓部分が弱い気もしますが、プラットフォームビジネスのリアルな交渉場面がいくつも垣間見れるので、良い勉強になります。

また、権利や利益をめぐる人間の醜い争い(アーティスト、サラリーマンも含む)も疑似体験できるため、起業家にとっては良いシミュレーションとなるでしょう。

ぜひ読んでみてください。

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『Spotify 新しいコンテンツ王国の誕生』
スベン・カールソン、ヨーナス・レイヨンフーフブッド・著
池上明子・訳 ダイヤモンド社

<Amazon.co.jpで購入する>
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◆目次◆

はじめに
プロローグ ジョブズからの無言電話
第1章 秘密のアイデア
第2章 リーダル通りのエンジニアが実現したとてつもない技術
第3章 労働者階級の街に生まれた野心家
第4章 スポティファイ前史
    ──ドットコムバブル崩壊から、ジョブズが音楽業界を牛耳るまで
第5章 違法コピーサイトよりもいい製品が作れたら
第6章 富裕層マネーが流れ込む
第7章 すべての音楽を無料で
    ──爆発する人気とボブ・ディランのボイコット
第8章 フェイスブック経由でアメリカ進出
第9章 スティーブ・ジョブズ、いよいよ立ちはだかる
第10章 ザッカーバーグとの駆け引きと、密かに生まれた最大のライバル
第11章 規模を追い求めて──ダニエルの本音と結婚
第12章 幻のプロジェクト「スポティファイTV」
第13章 アップルとビーツ、ライバル2社が手を組んだ
第14章 スポティファイ史上最大の危機
第15章 テイラー・スウィフトがボイコットし、ジェイ・Zが競合を立ち上げる
第16章 ビッグデータでアップルミュージックに対抗せよ
第17章 スウェーデンが生んだ「成功物語」として
第18章 ストリーミング戦争をいかに生き延びるか
第19章 いざウォールストリート──特殊な方法でIPOを果たす
第20章 次なるステップへ
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