2014年8月19日

『千年企業の大逆転』野村進・著 vol.3682

【老舗企業のV字回復物語】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4163901167

本日の一冊は、『コリアン世界の旅』で大宅壮一ノンフィクション賞と講談社ノンフィクション賞をダブル受賞、『千年、働いてきました』でも知られるノンフィクションライターの野村進さんが、どん底からV次回復を果たした老舗企業を追った一冊。

紹介されているのは、「鐘の緒」から始まり、現在は獣害対策用品でヒットを飛ばす近江屋ロープ、かつて柿渋問屋だったのが、現在は建物の長寿化に挑むヤシマ工業、国内最大のゼラチン・メーカーで、コンビニにも商品提案している新田ゼラチン、製帽からペン先に転じて大成功したテイボー、いまではすっかり定着したプルオープンキャップをはじめ、画期的なキャップを生み出してきた三笠産業、の5社。

著者の野村さんが、丁寧に取材し、類似の老舗企業も調べ上げて、じつに読み応えある内容に仕上げています。

それぞれの企業を襲った危機や、どうやって脱出したかが書かれており、ノンフィクションとしても、ビジネス書としても楽しめる、そんな一冊となっています。

昨日ご紹介した、『サイエンスの発想法』に、医薬品で有名なバイエルの例が出ていましたが、老舗企業の発想は、まさにこの通り。

※参考:『サイエンスの発想法』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4396614918

<遺伝子のパーツは、「勝手にできたもの」を出発点にしているようです(中略)生き物はとてもよくできていると思いませんか? 勝手にできたものを最大限に活用した仕組みになっています(中略)現代化学医薬品産業は、石炭の燃えカスからアスピリンを作ることから始まりました(中略)ドイツのライン川沿いの化学工場でバイエルが始めたこのスタイルが化学医薬品産業の始まりです>

事実、著者の野村さんも、こう述べています。

<「お化け素材」とは言いえて妙だ。老舗企業の成否は、自社が連綿と受け継いできた素材を「お化け」と思えるかどうかにかかっている>

得意先のビジネスが危うくなっても、ゼラチンの性質を活かし、立ち直った新田ゼラチンのように、「素材のありのままの性質を活かす」こと、そして柿渋からマンション改修事業まで一貫して「壊さないことへの挑戦」を続けるヤシマ工業のように、「自社の強みを活かす」(著者は「本業力」と呼んでいる)こと。

長く続けた会社がどうすれば難局を乗り切れるのか、たくさんヒントが書かれた本だと思います。

ぜひチェックしてみてください。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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京都を訪ねた読者なら、きっと近江屋ロープの麻にふれたことがあるはずだ。えっ、思い当たらない? では清水寺の舞台で、正面入り口の上からぶらさがっている太い綱をゆらして、鐘をじゃらじゃら鳴らしたことはありませんか。正式には「鐘の緒」という、あの麻の綱を代々製造してきたのが、近江屋ロープなのである

被侵略や内戦の期間が長ければ長いほど、その国に老舗は残らない。逆もまた真なりで、老舗の数は、被侵略・内戦の期間に反比例して少なくなる

グリーンブロックネットやイノシッシ、ビリビリイノシッシなどの獣害対策用品は、二〇〇一年度こそ四千四百万円ほどの売り上げにすぎなかった。ところが、右肩上がりでぐんぐん伸びていき、二〇一三年度には驚くなかれ七億円にまで達している。この一二年間で一六倍もの急上昇を見せたのである。いまや近江屋ロープの全売り上げの半分以上を占める、堂々たる主力商品に“大化け”した

ヤシマの試算では、築三十年・全五十戸のマンションを建て替えた場合、総計で十二億六千万円かかり、一戸あたりの費用は二千五百二十万円となるが、改修なら総計一億二千五百万円、一戸あたり二百五十万円で済む

「新田ゼラチン株式会社」は、もとをたどると、司馬遼太郎の『坂の上の雲』に登場する秋山好古の幼なじみが創業した会社である

ゼラチンの本質は変わらない。ゼラチンそのものが、市場から追放を宣告されたり、世間に拒否されたりしたわけではないのである

「お化け素材」とは言いえて妙だ。老舗企業の成否は、自社が連綿と受け継いできた素材を「お化け」と思えるかどうかにかかっている

テイボー? 世界一? 知らないなあ。しかし断言してもいいけれど、読者の身のまわりにも、この会社の製品がきっとある。マーカーやカラーペンや“マジック”が、いまお手元にありませんか?「パイロット」でも「ぺんてる」でも「三菱鉛筆」でも、日本のあらゆる筆記具メーカーが、この会社のつくる部品を自社製のペンの先端部に取りつけている。ペン先──こんなちっちゃなところに特化してきた会社がテイボーなのである

以前は、日本酒の一升瓶のキャップは、ワインのコルクのように押し入れる形が大半だったが、それを、プラスチック製の引きはがす形に変えたのが、三笠なのである。いまではすっかり当たり前になったプルオープン式のキャップを開発したのも、この会社だ

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『千年企業の大逆転』野村進・著 文藝春秋
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◆目次◆

第一章 命綱は切れず 近江屋ロープ株式会社
第二章 マンションも“長生き”に ヤシマ工業株式会社
第三章 コンビニを変えた“影の主役” 新田ゼラチン株式会社
第四章 頭の上から、ペンの上へ テイボー株式会社
第五章 気くばりと“過剰品質” 三笠産業株式会社
特別対談 吉川廣和×野村進「人生も経営も修行である」

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