2014年5月12日

『会社が消えた日 三洋電機10万人のそれから』 大西康之・著 vol.3583

【消えたSANYOの謎】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4822250172

2011年3月29日、日本を代表するメーカー三洋電機が上場廃止となりました。

本書『会社が消えた日 三洋電機10万人のそれから』は、三洋電機解体の裏舞台と、会社を去った技術者たちの「その後」を追いかけた、迫真のルポルタージュ。

著者の大西康之氏は、日本経済新聞社の編集委員で、電機、コンピューター、自動車、インターネットなどの業界を担当してきた人物です。

本書に書き込まれているのは、救済を期待した三洋電機が、中村パナソニックに無情にも解体されていく過程であり、その裏に、ゴールドマン・サックス、三井住友銀行の思惑があったことも示されています。

忽然と姿を消し、サムスンに引き抜かれたと噂される車載電池のスペシャリスト、能間俊之氏の話などを読んでいると、こうして頭脳が流出するのかと、やり切れない気持ちになります。

単なるノンフィクションではなく、資本家が育たない日本経済の問題点、先端技術を持ちながら新興国に勝てない構造を指摘しており、経営者や政治家には、ぜひ読んでいただきたい内容です。

そして、何より感動したのが、本書の後半に出てくる、元・三洋電機社員たちの奮闘ぶり。

ハイアールアクアセールスで頑張る元社員、最後に一矢報いようとヒット商品「ゴパン」を送り出した社員、畑違いながら、西松屋チェーンで累計10万台の大ヒットバギーを生み出した元社員…。

図らずも、ダウンサイジング時代の尖兵となった彼らの姿を見ていると、経営の責任を、重く感じます。

著者の主観もあるため、すべてが真実かどうかはわかりませんが、大いに考えさせられる一冊です。

ぜひ、チェックしてみてください。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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「なぜ住友は三洋を“売った”のですか」
「あのころ住友は非常に苦しかった。住友自身も資本増強が必要になりゴールドマン・サックスにカネを出してもらった。頭が上がらなかったんよ」

「承継税制ひとつを見ても、この国が資本主義でないことがわかるやろ。三代経ったら資産を全部召し上げるような、そういう社会システムや。そやから日本には本物の資本家がおらんやろ。欧米にはおるで。父親の代、祖父の代で資産を築いた家が資本家になって、プロの経営者を雇っとる(以下省略)」

起業家が資本家になりにくい日本では、起業家とその末裔である創業家が資産と権力を守るために、いつまでも経営者でいようとする

脇の甘い二代目、三代目は、銀行から見れば格好の「お客さん」である。会社の株を担保に取った上で、あの手この手で融資を増やし、失敗したら株を取り上げ、会社から追い出せばよい。創業家なき後は、社内で出世競争を勝ち抜いたサラリーマンが社長になる。外部から経営のプロが来ることはめったにない

かくして、生え抜きのサラリーマン社長たちが、結果責任を負うこともなく、まるで企業の所有者のように振る舞う(中略)監視役のいないサラリーマン社長は、自分の任期をつつがなく過ごすことにかまけ、未来への投資を怠り、問題を先送りする

忽然と姿を消した男の名は能間俊之。旧三洋電機の技術者で、ハイブリッド車や電気自動車に搭載する車載電池のスペシャリストだ。独フォルクスワーゲンや米ゼネラル・モーターズが絶大な信頼を寄せていた。車載電池の「秘中の秘を知る男」だ

敏雅と野中はそろって実務経験に乏しい。良策を考え、相手と交渉を始めるところまではできるのだが、それを現実のビジネスに落とし込むのは苦手だった

「あの広告、半分はうちの社員向けなんです。三洋電機がなくなり、パナソニックも離れて、ハイアールに来てくれた彼らへのメッセージです。『見てみい、おとうちゃんの会社はこんなちゃんとした会社なんや』と家族に胸を張ってほしかった」(ハイアールアクアセールス中川氏)

佐野は珍しく開発の現場に顔を見せてはこう言った。「食パン1斤は200円で買えるんや。コメでパンを焼くために4万9800円も出す客はそんなにおらん。これは数を売る商品と違う。三洋電機からのメッセージや。伝説になる商品にせい」

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『会社が消えた日 三洋電機10万人のそれから』大西康之・著 日経BP社
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4822250172

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◆目次◆

はじめに あなたの会社が消えるかもしれない
第一章 井植敏は『ゼロ』を読んでいた
第二章 決断 中村邦夫はなぜ動いたのか
第三章 野中ともよは「地球を守る」と言い放った
第四章 「ニーハオ」から始めよう──ハイアールに買われた人々
第五章 覚醒 こうやって黒字にするのか──京セラに買われた人々
第六章 意地 最後の1個まで売り切ってやる!──校長に転身したマーケター
第七章 陥穽 私はこれで会社を辞めました──セクハラ疑惑をかけられた営業幹部
第八章 贖罪 「首切り」が私の仕事だった…──高額ヘッドハントを断った人事部長
第九章 自由 淡路島からもう一度──テスラを駆る電池技術者
第十章 転生 「離職者再生工場」の可能性──ベビーバギーを作る生産技術者
エピローグ ダウンサイジング・オブ・ジャパン

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