2013年9月3日

『母の力 土光敏夫をつくった100の言葉』出町譲・著 vol.3332

【土光敏夫をつくった母の言葉とは?】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4163765808

本日の一冊は、東日本大震災後に刊行され、ベストセラーとなった『清貧と復興』の著者が、故・土光敏夫氏の母の横顔に迫った一冊。

※参考:『清貧と復興 土光敏夫100の言葉』
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土光敏夫氏といえば、石川島播磨重工業、東芝の社長を歴任し、経団連会長、臨時行政調査会会長としても活躍した人物ですが、行革の際、そのあまりに質素な生活にフォーカスが当たり、「メザシの土光さん」と呼ばれ、国民に支持されました。

そんな土光さんの生き方を象徴するのが、前作でも登場した、「個人は質素に、社会は豊かに」という言葉。

じつはこの言葉、土光氏の母、登美さんのものだったのです。

本書で扱うのは、この母である登美さんの息子への教育と、登美さん自身のエピソード。

「国が亡びるのは悪によらずしてその愚による」
「死んでから香典くれるなら、生きているうちにください」
「長い人生、受験の失敗など大したことではない」
「一段、二段上の人に教えを乞え」

名言がいたるところに登場し、エピソードは刺激的。

なかでも、登美さんの父・義三郎氏の教えは、うならされます。

<登美は働いていない人に「あの人たちがぶらぶらしているのは意味がない」と憤りを感じた。こうした元武士が先に風呂に入ると、激怒した。働きもしない人がどうして先に風呂に入るのか。登美の怒りはエスカレートした。すると、父の義三郎は「ちょっと来なさい」と、登美を呼びつけた。そして、こんなことを書いた紙を渡した。 尻頭分けて入れぬ風呂の中 きれいきたなし 分けてみよかし 恐らく、こんな意味だろう。「人間は尻と頭を分けて風呂に入れないのだから、風呂の水をきれいだとか、汚いとわけてみることはできないよ」。「働かざるもの食うべからず」という競争原理だけでは世の中通用しない。相手に対する思いやりも必要だよという父の教えだったのではないか>

また、登美さんの気風の良さを示す、タクシーでのエピソードも興味深い。

こちらも引用してみましょう。

<タクシーの中で、演説内容だけでなく、当時の政治情勢について熱弁を振るう登美。運転手は面白がり、こんな反応をした。「きょうはいい話を聞かせてもらったから料金はいらない」。すると、登美は「私の話を聞いてもらってありがとうございます。聞いてもらった分、お金は多めに払います」と言って、チップをはずんでタクシーを降りた。日常の一つ一つの行為が気風良く、大胆なものだった>

無理やり「100の言葉」にしたためか、資料不足のためか、「100の言葉」は、すべて登美の言葉ではなく、敏夫氏の言葉と関係者からの教えが混ざっています。

途中、本題から逸れた内容もあり、本作りとしてはいまひとつですが、一読の価値はあると思います。

震災から2年半。

本書によると、<バブルの熱狂とともに、「メザシの土光さん」は過去の遺物となった>ようですが、せっかく著者が盛り上げてくれた清貧の思想も、アベノミクスにより、消えつつあります。(調べてみたところ、本書もさほど売れていないようです)

しかしながら、日本がまだまだ苦しい状況にあるのは事実。

国全体を盛り上げていくためにも、山積する社会問題を解決するためにも、ぜひ読んでおきたい一冊です。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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「花でも野菜でも種を蒔くだろう。同じように蒔いても、早く芽が出てすくすく育つのと遅いのとがある。人間も同じで、遅いようでもじっと見守っていると、あとで大きく育っていく。芽が出るのが遅いからといって摘んでしまっていいのかどうか」(『日々に新た』)

「(石川島は)佃島の町工場にすぎなかった。しかし仕事はやれたね。ぼくなんかクラス会があると、ナッパ服を着ていったものです。そしたら、おまえはバカだな、安月給で油にまみれて、という。冗談じゃない。給料は安いかもしらんが、仕事はまかせてくれる、バカ高い輸入機械を買ってくれる。こんないい会社はないじゃないかと反論した」(『人間研究 土光敏夫』)

登美は働いていない人に「あの人たちがぶらぶらしているのは意味がない」と憤りを感じた。こうした元武士が先に風呂に入ると、激怒した。働きもしない人がどうして先に風呂に入るのか。登美の怒りはエスカレートした。すると、父の義三郎は「ちょっと来なさい」と、登美を呼びつけた。そして、こんなことを書いた紙を渡した。 尻頭分けて入れぬ風呂の中 きれいきたなし 分けてみよかし 恐らく、こんな意味だろう。「人間は尻と頭を分けて風呂に入れないのだから、風呂の水をきれいだとか、汚いとわけてみることはできないよ」。「働かざるもの食うべからず」という競争原理だけでは世の中通用しない。相手に対する思いやりも必要だよという父の教えだったのではないか

「うそを言う者と、うそを言わせる者のどっちが悪いのか」(父・義三郎が登美の弟・万寿郎をたしなめた言葉)

タクシーの中で、演説内容だけでなく、当時の政治情勢について熱弁を振るう登美。運転手は面白がり、こんな反応をした。「きょうはいい話を聞かせてもらったから料金はいらない」。すると、登美は「私の話を聞いてもらってありがとうございます。聞いてもらった分、お金は多めに払います」と言って、チップをはずんでタクシーを降りた。日常の一つ一つの行為が気風良く、大胆なものだった

「一挙にたくさん買い物すれば、欲望はそれでおさまるが、少しずつだといつまでも満足されず、足りない感覚が残る」(登美)

「人間は、自分と同じ階級あるいはそれ以下の人々とは接し易く、それは気楽ではあるが、それでは向上発展は望めない、一段、二段、あるいはそれ以上の人に積極的に接近し教えを乞うことが大切です」(登美)

「人間というものは生涯にせめて一度、『鬼の口』に飛び込む思いをしなければならない。そういう機会も持たずに人生を終えるのは、恥ずかしいことだ」学校建設は、登美にとっては「鬼の口」に飛び込むことだった

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『母の力 土光敏夫をつくった100の言葉』出町譲・著 文藝春秋
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4163765808

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◆目次◆

序 章 母の教えを守る
第1章 野ネズミ人生の出発点
第2章 大型ばあさんと猛烈社員
第3章 「戦争と復興」2人の挑戦
第4章 母と息子、晩年の大事業
終 章 登美が残した「遺産」

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