2012年10月9日

『人を呼ぶ法則』堺屋太一・著 Vol.3003

【堺屋太一氏が語る、これからの時代の経済原理とは?】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4344982800

堺屋太一氏と言えば、元通産省の役人で、予測小説の分野を拓き、経済、文明評論、歴史小説など幅広いジャンルに精通する日本を代表する作家・論客。

そんな堺屋氏が、じつは集客・イベントプロデュースのプロだったことをご存じでしょうか?

氏は、2010年の上海万国博(7308万人)に破られるまで、世界記録を保持していた日本万国博を企画・開催し、また沖縄観光開発やサンシャイン計画も推進した人物。

『人を呼ぶ法則』は、そんなイベントのプロ、堺屋氏が、企画、プロデュース、集客の極意を語った注目の新書です。

氏の作品には、いつも体系があり、原理・原則があり、実践のためのアイデアがありますが、本書でもそれが貫かれています。

まず、本書のテーマである「人を呼ぶ」が、なぜ現在の日本に必要なのか、著者は、冒頭でこんな説明をしています。

<世の経済的な営みには、三つの種類がある。「物を造る」「価値を移す」「人を呼ぶ」だ>

これは、近代工業社会の考え方から商人的考え方、現在の知価社会の考え方へと社会がシフトしていることを意味していますが、現在はまさに「人を呼ぶ」ことで富を生み出す、知価革命の時代。

シンガポールや香港、バンコク、上海などの都市が、躍起になって人を呼ぶ「戦い」を展開していることからも、それはわかると思います。

では、人を集めるのに一体何が必要なのか?

著者は、「意(will)」に始まり「企て(くわだて)」、「謀(はかりごと)」、「設計(デザイン)」へと続く一連のプロセスを述べ、人を動かす極意を紹介しています。

オリンピックを補助金なしで開催し、二億ドルもの利益を上げたピーター・ユべロス氏、単なる「賭博の町」だったラスベガスをイベント・シティに変えたハワード・ヒューズ氏、梅田に百貨店を、宝塚で歌劇と遊園地をそれぞれ作った小林一三氏など、偉人たちのエピソードも読み応えがあります。

ビジネス的に参考になったのは、ジョージア州アトランタの観光開発を手掛けて成功したというアメリカのツーリズム・プロデューサー、アラン・フォーバス氏から著者が教わったという「アトラクティブス」の概念。

「アトラクティブス」とは、「あれがあるから沖縄へ行こう」と思える要素のことで、全部で6つのアトラクティブスがあるようです。

1.歴史──歴史上の有名事件の現場や歴史的建造物
2.フィクション──小説や演劇、歌謡で有名になった名所や名物
3.リズム&テイスト──音楽が楽しく、食事が美味しい
4.ガール&ギャンブル──ねえちゃんがきれいでスリルに富んでいる
5.ショッピング──名物名品があり、賑わいに富んだ街並みがある
6.サイトシーイング──風光明媚で奇勝絶景に恵まれている

ほかにも、「プロデュース10段階」や、意思決定コスト引き下げの理論など、何かをプロデュースする人が知っておくべき知識が満載で、到底新書とは思えない情報量です。

氏の作品からは最近、離れていましたが、これはひさびさに読み応えのある一冊です。

ぜひ読んでみてください。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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「人を呼ぶ」ことはきわめて重要だ。殊に、これからの日本ではそうである。世の経済的な営みには、三つの種類がある。「物を造る」「価値を移す」「人を呼ぶ」だ

「人を呼ぶ」営みにも表裏二面がある。人を楽しませ歓ばせる積極的な方向と、人の苦しみや煩わしさを減らす消極的な方向とだ

人間は、安全なら幸せと思えるほど単純ではない

イベントには「聖なる一回性」が大切である

「ただ一つのもの」を創作し、「ただ一回のもの」を演出できる仕組みと仕掛けと人材を育てる必要がある

人を呼ぶためには「意」がなければならない。「意」とは、意志であり、意図であり、意味である。すべての事業のはじまりは「意(will)」である

イベントとは、「臨時的な装置と演出によって非日常的な情報環境を創造し、多数の人に対して、通常では感じられない心理的肉体的な刺激を与え、特殊な情報伝達状況を生み出す」事業

知価社会は「満足の大きなことが人間の幸せ」と考える世の中

意思決定コストの引き下げには、(1)よく知っている(知名度)、(2)みんな使っている(共通性)、(3)前にも使った(既視感)の三つを高めるべきだ

「人」が集えば「都会」になる。「都会」は「人」を集めて「価値」を生む。知価社会では「都会」が主役だ

世の中には、まず社長や大臣を口説こうとする若者が多いが、それでは決して成功しない。偉くない人が大きな事を起こせる日本は、偉い人が下の者に動かされる国でもある

「巨いなる企て」を志す者は、あまり目立った場所に立ってはならない

◆アラン・フォーバスの6つの「アトラクティブス」
1.歴史──歴史上の有名事件の現場や歴史的建造物
2.フィクション──小説や演劇、歌謡で有名になった名所や名物
3.リズム&テイスト──音楽が楽しく、食事が美味しい
4.ガール&ギャンブル──ねえちゃんがきれいでスリルに富んでいる
5.ショッピング──名物名品があり、賑わいに富んだ街並みがある
6.サイトシーイング──風光明媚で奇勝絶景に恵まれている

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『人を呼ぶ法則』堺屋太一・著 幻冬舎

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4344982800
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◆目次◆

第一章 イベントの効果
第二章 私自身の経験と日本万国博覧会
第三章 観光開発の思想と実行
第四章 頽廃と衰退──規格化されたイベント
第五章 上海万国博覧会と「イベント学」

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