2012年8月8日

『競争戦略の謎を解く』ブルース・グリーンウォルド、 ジャッド・カーン・著 Vol.2940

【コロンビア大学MBAの特別講義】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4478004501

本日の一冊は、全米を代表するトップビジネススクール、コロンビア大学ビジネススクールの特別講義を書籍化したもの。

1995年に開講されて以来、大好評を博している授業で、いまや全学生の80%以上が受講する選択科目だそうです。

競争戦略といえば、ポーターの『競争の戦略』で提示されたファイブ・フォーシズ(5つの要因)が有名ですが、著者は、「これら五つの要因がすべて同等に重要だとは考えていない」ようです。

※参考:5つの要因
1.代替品の脅威
2.売り手の交渉力
3.新規参入の脅威
4.買い手の交渉力
5.既存企業間の競争の激しさ

※参考:『競争の戦略』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4478371520

代わりに著者が注目するのは、「参入障壁」であり、本書では、その参入障壁を中心に据えた戦略の考え方を説いています。

興味深いのは、「ローカルに考えることが重要」と説く考え方。

著者の分析によると、ウォルマートにしろ、マイクロソフトにしろ、インテルにしろ、成功した大企業は、いずれもローカル市場で参入障壁を築くことからスタートし、成功しています。

では、どうやって拡大に成功したのかというと、それは以下の3つのいずれかの方法。

1.ローカルな市場で築いた優位性を、他の市場で複製する(例:コカ・コーラ)
2.特定の製品領域に集中し続けている間に、その製品の市場規模が拡大する(例:インテル)
3.支配的な地位を築いた領域の周辺に向けて、徐々に事業領域を拡大していく(例:ウォルマート、マイクロソフト)

本書では、このように参入障壁や競争優位に関するあらゆることを体系化し、誰でも競争戦略の本質がわかるよう、事例を交えて解説されています。

成長市場において、なぜリーダーが競争優位性を失うのか、どんな要因が競争優位をもたらし、また競合のどんな行為が脅威となり得るのか、協調戦略はどうすれば成功するのか。

原書(原題はCOMPETITION DEMYSTIFIED)が発行されたのが2005年ということもあり、アップルの事例など、今読むと若干内容に古さを感じさせるものがありますが(訳注は非常に丁寧)、何よりベースの価値は変わりません。

読んだ満足度としては、以前ご紹介した名著、『良い戦略、悪い戦略』に勝るとも劣らない一冊です。

※参考:『良い戦略、悪い戦略』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4532318092

ぜひ読んでみてください。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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ローカルに考えることが重要

◆顧客が特定の企業に囲い込まれる理由
・習慣 ・スイッチング・コスト ・探索コスト

市場規模が拡大しても、固定費の金額は一定で変わらないが、その反面、変動費の金額は、市場が成長する速度に比例して増加するため、総コストに占める固定費の割合は必然的に減少することとなる。このことは、既存企業が相対的な規模の大きさから得ていた優位性を弱める方向へ働く

スイッチング・コストを高めるためによく行われるのは、提供するサービスの幅を広げたり、深く掘り下げる方法である。たとえば、マイクロソフトはその根幹となるウィンドウズOSに新しい機能を定期的に付け足していくことで、顧客が他のOSに乗り換えて、それに慣れ親しむまでの作業を煩わしく感じさせている

「成長なければ死あるのみ」という企業規範は、現実には「成長して死滅する」という結果につながることが多い

セグメントでトップクラスの企業を片手の指で数え切れない場合は、そのセグメントには参入障壁が存在しない可能性が高い

みずからの事業に深く入れ込む強い決意を周囲に示せる企業は、かなりの確率で潜在的な参入者を思いとどまらせることができる

効率的イールド・マネジメントが達成されている状況下では、顧客の選好が特定のニッチ市場の商品に限定され、他のニッチ市場で販売されている代替品のほうが安く、かつ第三者から見ればほとんど同じ商品であっても、そちらに流れることがない

協調体制が維持されるためには、すべてのプレーヤーが、自分たちの協調的な行動の対価として得る利得に満足していなければならない

競争優位を持たない企業は、たとえ協調的な体制のもとでも、みずからの資本コストを上回る余剰利得を期待すべきではない。ウォルマート、マイクロソフト、インテルといった支配的企業との良好な関係構築を通じて長期的に発展を遂げていくことを期待する企業は、ほとんどの場合勘違いをしている

協調体制を通じて余剰利得を生み出すためにはそれぞれの存在が欠かせないという点で両社は同等の立場にあり、したがって、対称性の原則により、彼らが期待すべき余剰利得の取り分は半々ということになる。もし、どちらか一方が半分以上を取ろうとすれば、最終的には両社間の協調体制を弱体化させ、双方にとってマイナスの結果をもたらす事態を招く

協調戦略がもっとも適切に当てはまるのは、強い参入障壁が存在する業界で複数の有力企業が共存しているような状況

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『競争戦略の謎を解く』ブルース・グリーンウォルド、ジャッド・カーン・著 ダイヤモンド社

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4478004501
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◆目次◆

第I部 理論編 競争戦略をシンプルに考える
第1章 戦略と市場、そして競争──競争戦略の前提とは何だろうか
第2章 競争優位のタイプ1──供給面と需要面の競争優位
第3章 競争優位のタイプ2──規模の経済の活用
第4章 競争優位の評価法──競争優位はどこから生まれるのか
第5章 競争戦略とゲーム理論1──囚人のジレンマ・ゲーム
第6章 競争戦略とゲーム理論2──参入・阻止ゲーム
第7章 協調戦略──業界全体の総利得を最大化し、公平に分配する
第8章 企業の成長戦略──M&A、新規事業投資、ブランド拡張
第9章 競争的な市場で成功する法──競争優位不在の市場
第II部 ケース・スタディ編 繰り広げられる競争というゲーム
第10章 ローカルな規模の経済による競争優位
    ──ウォルマート、クアーズ
第11章 持続可能な競争優位とは──フィリップス、シスコシステムズ
第12章 コーラ戦争と囚人のジレンマ──コカ・コーラVS.ペプシ
第13章 テレビ・ネットワーク事業への参入とゲーム理論
    ──フォックス放送
第14章 歴史的大敗に終わった新規事業参入
    ──コダックのインスタント写真事業
第15章 協調戦略のノウハウ
    ──任天堂、有鉛ガソリン添加剤メーカー、オークション会社

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