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『持丸長者 国家狂乱篇』


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本日の一冊は、「陰謀モノ」で知られる人気作家、広瀬隆さんによる注目の三部作第二弾です。

明治・大正から戦前までに活躍した財閥、工業資本家の素顔と血縁・利害関係、それによってもたらされた悲劇を、豊富な情報をもとに明らかにした、じつに読み応えのある内容です。

巨大企業がどのようにして生まれたのか、その時代背景と手口を学ぶだけでも刺激的ですが、さらにそこから繰り広げられる熾烈な争い、栄光と挫折の歴史は、まるでドラマを見ているかのようです。

日本の新聞の歴史や、北海道から生まれた数々の大企業、日本最大
の産業にのし上がった鉄道とエネルギー産業…。

最終的には、これらの富豪たちの欲望は、軍部という名の悪魔を育
ててしまうわけですが、時代背景を見ている限り、今の日本社会と
も無関係ではないと思います。

強引な乗っ取りを実行したうえ、職工をないがしろにして凋落した
藤原銀次郎と、最終的に勝利をおさめた「製紙王」大川平三郎の話
は、M&A全盛の現在に警鐘を鳴らしていますし、格差社会が「軍
事的なファッショを生み育てた」という話も、現在に通じるものが
あります。

これからの時代の経営のヒントとして、また健全な社会の実現を考
えるヒントとして、ぜひ読んでおきたい一冊です。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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大恐慌時代のなか、これまで町や村の豊かな文化を築き、日本を活
気づかせてきた町の商人が力を失い、逆にそれまで長者ではなかっ
た工業グループが一大勢力を形成した

一八九六年と、その半世紀後の一九四〇年を比べて最も著しい変化
は、幕末から明治にかけて製造業に圧倒的な比率を占めた紡績業
(繊維)が二位に落ち、江戸時代からの産業を率いてきた酒造業が
ランクから消え、代って、電機・鉄工・自動車・重工業・石油・鉄
道車両・航空機・光学といった、先進工業分野が誕生したことである

一九四〇年一月十六日、王子製紙社長・会長として業界に君臨して
きた藤原銀次郎が米内光政内閣の商工大臣に就任して商業界・工業
界を主導する権力を握ると、五月から新聞・雑誌などへの用紙の割
り当てを内閣の直轄とした。こうして並み居る新聞社は、次第に欠
乏する用紙の統制という足かせをはめられ、事実上、政府の命令を
聞かなければ新聞を発行できない立場に追いこまれ、軍部の強力な
道具と化していった

当今の世界貿易と同じで、交易で巨利をあげる場合は、ほぼ間違い
なく、生産者を安い賃金で使い捨て、利幅を大きく取るのが商いの
常道だ。実にあくどい手口でアイヌ人がだまされ続けたことは、言
うまでもない。たびたびアイヌの反乱が起こったのはそのためだった

北海道の実業の柱となった「石炭」を運ぶ鉄道と、その「鉄道」の
線路を生み出す「鉄鋼」と、その溶鉱炉を動かす石炭は、互いに相
手の富を産み、相手に助けられる三角同盟の性格を持っていた。こ
れが、モルガン財閥、ロスチャイルド財閥、クルップ財閥を筆頭に、
すべての大国において巨大財閥の中核を成してきた

明治二十九年(一八九六年)の最初の企業ランクを見ると、鉄道産
業が、確かに第一位である

巨大地主層は、鉄道開通によってもたらされる地価の高騰と、鉄道
用地の利権と、郷土に対する鉄道経済効果の相乗作用の中で、富め
る財産をますます肥やした

機転の利く浅野総一郎である。「私とて人命救助のお役に立ちたい。
このコールタールを存分に使って石炭酸をつくり、コレラを退治し
てください」と、当局に提供したのはいいが、「一樽五円でお分け
しましょう」と大事なひと言を付け加えて、コールタールを四〇〇
〇石も当局に売りつけ、法外な利益を手にした(中略)しこたまも
うけた総一郎は、六年後に政府から官営深川セメント工場を借り受
け、翌年には正式に払い下げを受け、これが浅野セメント(現・太
平洋セメント)となって、一代で浅野財閥を築きあげた

財閥を筆頭とする富裕な階層と成金が富を蓄え続ける一方、置き去
りにされた大半の国民が財産といえば着ているものだけという有様
で、この社会的な構造が、ますます貧富の差を広げてゆき、財閥を
憎悪する感情が、軍事的なファッショを生み育てたのである

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『持丸長者 国家狂乱篇』
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┃▼目次▼
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┃ 序章 長者ますます台頭す
┃ 第一章 新聞と製紙が拓いた新国家
┃ 第二章 北海道開拓史
┃ 第三章 鉄路は伸びる
┃ 第四章 黒いゴールド・石炭と石油
┃ 第五章 植民地を動かした銀行と大事件
┃ 第六章 ファッショの嵐と新興財閥
┃ 第七章 国家総動員体制と大政翼賛会
┃ あとがき
┃ [幕末・維新篇] 正誤表の説明
┃ 系図人名INDEX
┃ 
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