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『1坪の奇跡』稲垣篤子・著 vol.2325


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【吉祥寺「小ざさ」初の著書】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4478013632
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老舗経営者の処女作を読む時は、いつも心の中に葛藤が生じます。

ひとつは、経営者に対する「書いて欲しくなかった」という感情、そしてもうひとつは、編集者に対する「よくぞ書かせた」という感情。

それが、思い入れのある老舗であれば、なおさらこの葛藤は強くなってしまうのです。

土井が「小ざさ」を知ったのは、阿佐ヶ谷に住み、吉祥寺の事務所に通っていた貧乏ライター時代でした。

師匠が、「飲んだついでに」といって朝方4時から並び、「小ざさ」の羊羹を買ってきたのです。

その上品な甘さは、今でも覚えていますが、味以上に驚いたのは、朝4時から並んで手に入れたい人が大勢いる、という事実でした。

それ以来、「小ざさ」は土井にとって「伝説の店」なわけで、その「小ざさ」の社長が本を書いたというのは、本当に驚きでした。

たった1坪で年商3億、商品は羊羹ともなかの2品だけ。

40年以上行列がとぎれない秘密はどこにあるのか、もちろん読まずにはいられない内容です。

美味しい羊羹を作るための「四つの交点」の話、父から娘へ引き継がれたビジネスの教訓、そして仕事人としての心構え…。

やや話が「小ざさ」に寄ってしまっているのが玉に瑕ですが、商売人の魂を感じる、心のこもった文章だと思います。

個人的に印象に残ったのは、「温度や湿度による微妙な変化を感じ取」るという、写真と羊羹作りの共通点。

「美しい紫の一瞬の輝きが見たい」がために羊羹作りに励む著者の、魂の原点を見た気がしました。

まさに一流の仕事には「偶然による奇跡」が宿っている。そんなことを感じた一冊でした。

ぜひ読んでみてください。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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羊羹をつくり続けていると、感動的な喜びを味わえる瞬間があります。炭火にかけた銅鍋で羊羹を練っているときに、ほんの一瞬、餡が紫色に輝くのです。透明感のある、それはそれは美しい輝きで、小豆の“声”のようにも感じられます

いざ羊羹を練るときは、私ひとりきりの世界。誰にも邪魔されずに、羊羹と向き合う瞬間です。唯一、無心になれる時間。いろいろな思いを引きずっていては、絶対にうまくはいきません

結局、私は羊羹をつくるのが心底好きなのです

「問屋は育てるもの」が父の口癖でした

父は「もなかの栞」にこう書いています。《原料本来の特色を生かし、砂糖の甘味をならす、言い方をかえますと、丸い味とすることが、和生菓子を創る上の、究極の奥義かと信じます》

並んでいるお客様が自然に仲良くなり、いつの間にか「小ざさ会」というグループができました。お客様同士で一緒に温泉や旅行に行かれるなど、楽しく活動されていて、ときどき「この間、どこそこに行ってきたのよ」というお話を聞かせていただきました

お客様とは節度をもって接しなければいけない。馴れ馴れしくしてはいけない。だから、あまりお客様に近づきすぎてはいけない、というのが父の教えでした

小ざさの羊羹がほしいときは、家族でも従業員でも、ほかのお客様と一緒に行列に並ぶのがルールです

「バケツは、水を汲んで運ぶだけだと思ってはいけない。洗い桶にもなれば、土を入れると植木鉢にもなる。バケツの底に小さな穴をいっぱい開けて、高いところに吊るせばシャワーにもなる」(中略)その後も父はことあるごとに、「そのものを、そのものと見るな」と教えてくれました

貧乏しているときにこそ、人の気持ちがわかる

まだ子どもだったナルミ屋時代、父から声をかけるタイミングを教わりました。店に入ろうかどうしようかと迷っているお客様に、やたらと声をかけてはいけない。「爪先がちょっと店のほうに向いた瞬間に声をかけろ」

「一家を背負え」「背負えば背負うだけ力が出てくるんだから、背負え」小ざさ創業の頃から、父は私にだけこう何度も言っていました

出来があまりよくないときには、「全部捨ててしまいなさい」と言って、捨てたこともありました。「それがお客様の信頼を勝ち取り、小ざさの伝統をつくっていくために最も大切なんだ」というのが父の信念でした

「家の者は誰よりも働くように」

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『1坪の奇跡』稲垣篤子・著 ダイヤモンド社
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◆目次◆

プロローグ 40年以上、早朝からできる行列の裏側で
第一章 2品だけの究極の味を求めて
第二章 たった1坪の店で
第三章 私の仕事観を形づくった出来事
第四章 屋台からの「小ざさ」創業
第五章 父から娘へ
第六章 障がいのある子どもたちと共に
第七章 次代に伝える
エピローグ 125歳まで現役で──

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