2010年8月25日
【メディアが危機に瀕した本当の理由とは?】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4334035779
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本日の一冊は、神戸女学院大学文学部教授で、コラムニストとして活躍中の内田樹さんが、大学の講義科目「メディアと知」を土台にしてまとめ上げたメディア論です。
本書以前にも、メディア批判の本というのは数多く出されているわけですが、本書の特徴は、メディアの本質的役割や意義(ファンクション)から、メディアのあり方や瑕疵を論じている点。
新聞がテレビを批判できない構造的問題や、メディアのクレーマー化、社会に蔓延している責任逃れの構造、教育や医療にメディアのバッシングが集中した理由など、説得力のある解説が、平易な言葉でなされています。
出版や著作権、電子出版に関しても、著者の持論が展開されており、業界人には見逃せない一冊ですが、土井が特に興味を持ったのは、この2つの文。
<著作権というのは単体では財物ではありません。「それから快楽を享受した」と思う人がおり、その人が受け取った快楽に対して「感謝と敬意を表したい」と思ったときにはじめて、それは「権利」としての実定的な価値を持つようになる>
<本を書くというのは本質的には「贈与」だと僕が思っているからです。読者に対する贈り物である、と>
著者は、この後、贈与経済について論じるわけですが、確かに、メディアの仕事には、贈与経済としての一面がある、と思わされました。
であれば、現在のメディアの報酬体系はそれでいいのだろうかとも
思うわけです。
メディアのあり方が根本的に問われている今、ビジネスモデルを論じるのも大切ですが、それ以上に「意義」や「役割」について考えたい。
本書は、そのためのいいきっかけになるはずです。
ぜひ、読んでみてください。
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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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みなさんの中にもともと備わっている適性とか潜在能力があって、それにジャストフィットする職業を探す、という順番ではないんです。そうではなくて、まず仕事をする。仕事をしているうちに、自分の中にどんな適性や潜在能力があったのかが、だんだんわかってくる。そういうことの順序なんです
潜在能力が爆発的に開花するのは、自分のためというよりは、むしろ自分に向かって「この仕事をしてもらいたい」と懇請してくる他者の切迫だということです
メディアの威信を最終的に担保するのは、それが発信する情報の「知的な価値」です。古めかしい言い方をあえて使わせてもらえば、「その情報にアクセスすることによって、世界の成り立ちについての理解が深まるかどうか」。それによってメディアの価値は最終的には決定される
「危機耐性」と「手作り可能性」はメディアの有用性を考量する場合のかなり重要な指標だと思っています
メディアの「危機耐性」とは、端的に言えば、政治的弾圧や軍部やテロリストの恫喝に屈しないということです。その抵抗力は最終的には「メディアには担わなければならない固有の責務がある」という強い使命感によってしか基礎づけられない
世の中の出来事について、知っていながら報道しない。その「報道されない出来事」にメディア自身が加担している、そこから利益を得ているということになったら、ジャーナリズムはもう保たない
自力でトラブルを回避できるだけの十分な市民的権利や能力を備えていながら、「資源分配のときに有利になるかもしれないから」とりあえず被害者のような顔をしてみせるというマナーが「ふつうの市民」にまで蔓延したのは、かなり近年になってからのことです。それがいわゆる「クレイマー」というものです
「とりあえず『弱者』の味方」をする、というのはメディアの態度としては正しい(中略)けれども、それは結論ではなくて、一時的な「方便」にすぎないということを忘れてはいけない。何が起きたのかを吟味する仕事は、そこから始まらなければならない
具体的現実そのものではなく、「報道されているもの」を平気で第一次資料として取り出してくる。僕はこれがメディアの暴走の基本構造だと思います
「市場経済が始まるより前から存在したもの」は商取引のスキームにはなじまない
メディアはだから戦争が大好きです。戦争がないときは国内の政争でも、学術上の論争でも、芸能人同士の不仲でもいい、とにかく人と人とが喉を掻き切り合うような緊張関係にあることをメディアはその本性として求める
コピーライトはどんなことがあってもオリジネイターの創造意欲を損なうようなしかたで運用されてはならない
「本を自分で買って読む人」はその長い読書キャリアを必ずや「本を購入しない読者」として開始したはず
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『街場のメディア論』内田樹・著 光文社
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◆目次◆
第一講 キャリアは他人のためのもの
第二講 マスメディアの嘘と演技
第三講 メディアと「クレイマー」
第四講 「正義」の暴走
第五講 メディアと「変えないほうがよいもの」
第六講 読者はどこにいるのか
第七講 贈与経済と読書
第八講 わけのわからない未来へ
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