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『ゲームの父・横井軍平伝』牧野武文・著 vol.2159


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【伝説のゲーム開発者、横井軍平を知っていますか?】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/404885058X

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BBM読者歴の長いみなさんならおわかりのように、土井はつまらないものや売れないものには、基本、手を出さない方針です。

たくさん献本されてくる本だって、売り込んで来る著者さんだって、売れるポテンシャルを感じなければ、どうにも食指が動かない、素直な性格なのです。

そんな土井が、人生で一度だけ、さほど売れないとわかっていて購入した商品がありました。

1999年にバンダイから発売された携帯型液晶ゲーム機、「ワンダースワン」です。

なぜ売れないと思っているのに購入したかというと、このゲーム機が、ゲームの父・横井軍平さんの遺作だったからです。

ご存じない方のために説明すると、この横井軍平という人物は、任天堂の黎明期より同社にかかわり、ウルトラハンド、ウルトラマシン、光線銃SP、ゲーム&ウオッチ、ゲームボーイなど、数々のヒット商品を生み出した、天才開発者です。

アナログだろうとデジタルだろうと、使い手がワクワクする「世界にひとつしかない商品」を追求した横井軍平。

本日ご紹介するのは、そんな伝説の人物の素顔に迫る一冊です。

花札会社に拾われた落ちこぼれが、仕事をサボって作った「ウルトラハンド」を大ヒットさせ、そこから一気に時代の寵児と呼ばれるところまで駆け上がる。

遊び心たっぷりな企画アイデア、どこまでも純粋なモノ作りへの姿勢、そしてそれを生み出す人柄とエピソード…。

アイデア発想の本としても読めますが、ノンフィクションとして読んでも、読み応え十分です。

玩具からゲームへと時代が変わり、「過去の人」となりかけていたところから、ゲームボーイで世界1億1800万台の記録的大ヒットを飛ばし、なおも自らの理想を追い求め続けた横井軍平。

バーチャルボーイの失敗や、任天堂からの独立、不幸な交通事故など、晩年は決して幸福と呼べる人生ではありませんでしたが、その生き方、思想からは、多くを学ぶことができます。

横井軍平が天才クリエイター、宮本茂に抱いていた感情、そして他人には決してわからない、山内社長との深い絆。

人間ドラマとして読んでも、じつに味わい深い一冊です。

業界のことをよく知り、愛情あふれる著者と、巻末に横井軍平のらくがきを載せる、遊び心ある編集者に作ってもらったことが、この本にとっての幸福でした。

ひさびさに心に仕舞っておきたい、そんな本に出合いました。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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「ものを考えるときに、世界にひとつしかない、世界で初めてというものを作るのが、私の哲学です。それはどうしてかというと、競合がない、競争がないからです」

◆「枯れた技術の水平思考」
最先端技術を追いかけるのではなく、使い古されて、価格も安くなっているちょっと古い技術を、一歩引いたところから水平思考をしてみる。すると、別の使い道が見えてくる。それは世界にひとつしかない商品になるだろう

ゲーム業界が不振に陥ったのは、決して「携帯電話にお客を取られている」などということではなく、ごく一部の消費者の要望だけに過剰適応した結果なのだ

山内の「ゲームにしろ」という言葉は重要だった。ゲームが取り扱い説明書の役割をしてくれるからだ

「のぞきをスマートにやる」というのは、つい笑ってしまいたくなる表現だが、いかにも横井らしい

ラブテスターは愛情測定器だ。男女(同性同士でもかまわないが)が、それぞれラブテスターの端子を手に握り、もう片方の手で握手をする。すると、メーターが振れ、愛情度が測定できる。横井によると「公然と女の子の手を握るための道具」なのだ

1週間ほどしたらシャープのトップクラスの人間が任天堂を訪問した。その席に横井が呼ばれた。横井はなんのことだか戸惑ったが、山内は「君が言った電卓サイズのゲームを作るんだったら、液晶はシャープが得意だから呼んだんだ」とあたり前のように言う。ここからゲーム&ウオッチの開発が始まる

当初、宮本は帽子をかぶらせていないマリオを考案したという。マリオが転倒したとき、理屈では髪がゆれなければおかしい。しかし、当時のビデオゲームでゆれる髪を表現することはできない。そこで、マリオには帽子をかぶらせることになる。大きな鼻、ヒゲも、単純な造形でありながら、表情を出しやすいという理由で採用されたし、オーバーオールを着せたのも、その方が使用する色数が少ないからだ。このような制限がある中で、その制限を逆に活かして魅力的なキャラクターを作り上げた宮本の才能は、横井を始めとする周囲を驚愕させただろう

当時、横井を「過去の人」「玩具の人」と見ていた人は多かっただろう。事実、横井の得意なフィールドはあくまでも玩具だ。しかし、ここで終わらないのが、横井が普通の人ではないことを証明している。ウルトラシリーズ、光線銃シリーズ、ゲーム&ウオッチと三つのブームを起こしたのだから、後はその財産で食いつないでいってもだれも責めたりしないと思うが、横井はさらにもうひとつ革命的なブームを起こす。そして、ビジネス的にもゲーム&ウオッチを上回る売り上げを記録する。ゲームボーイだ

山内は、横井の掘っても掘ってもつきることなく湧き出てくるアイディアに絶対の信頼を置いていた。しかし、一方で、ほんとうに優れたアイディアは、乾いたぞうきんを絞るときにだけ出てくることも知っていた。山内は、そのために横井を追い込み、最後の黄金のひとしずくを絞り取ろうとしていたのだ。もちろん、横井もそうすることで、自分が自分の能力以上のアイディアを生み出せることに気がついていた

それだけ山内と横井の関係は深いのである。傍から見れば、社員をこき使う経営者と、絶対的な忠誠を示す社員という関係にしか見えなかったかもしれないが、他人にはわからない深い部分で二人はつながっていた。それが、たかが仕事の失敗程度のことで、切れてしまうほど二人の縁は浅くないのだ

横井が1997年に、自動車事故で死亡した後の葬儀に、山内も出席している。そして納棺のときに、山内は横井の亡骸に向かって涙を流し「このバカが」と言ったという

横井は、最期の一瞬まで“横井軍平”だった

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『ゲームの父・横井軍平伝』角川書店 牧野武文・著
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◆目次◆

まえがき
第1章 今蘇る「枯れた技術の水平思考」
第2章 任天堂に突如現れたウルトラ青年
第3章 逆転の発想が生んだ光線銃
第4章 ゲーム&ウオッチと世界進出
第5章 ゲームボーイの憂鬱
第6章 バーチャルボーイの見果てぬ夢
特別付録 横井軍平のらくがき

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