『成熟日本への進路』波頭亮・著 vol.2153


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【これから日本が描くべきビジョンとは?】
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大学時代、経済学の先生に、こんなことを言われた記憶があります。

「みなさん、水道代はタダの方がいいですか? と聞くと、ほとんどの人がタダの方がいいと答えます。しかし、税金は上げてもいいですか? と聞くと反対するのです。これっておかしいと思いませんか?」

あれから約15年経った今、日本という国を見てみると、みんながこのお話の例のように、「ないものねだり」をしているような気がしてならないのです。

人間は、無料だと思考停止に陥り、不必要なものでも欲しがります。

しかし、いざ有料にして、「本当に必要ですか?」と問われると、きちんと合理的に判断できる、そんな生き物なのです。

やはり、払うものはきちんと払って、そのうえで政策を論じる、それが、これからの日本に必要な態度ではないかと思うのです。

そんな視点で考えた時、面白かったのが、本日ご紹介する一冊。

元マッキンゼーの波頭亮さんが、人生で二冊目に出したという、社会論です。

著者は冒頭で、「そもそも国家の使命は、国民に安心・安全で豊かな生活を提供すること」という大原則を掲げ、そのために必要な医療費、介護費用、生活保護を二四兆円と見積もっています。

この金額は、日本がヨーロッパの先進国並みの国民負担率にすれば、あっさり実現できてしまう金額で、それゆえに著者は、真っ向から増税を支持しています。

さらに注目すべきは、「土木建設業のウェイトを軽くして、社会保障・福祉サービスを担う産業を充実・拡大させること」をはじめとした、「産業構造のシフト」を提案している点。

これには各業界から反発もあると思いますが、「社会保障・福祉サービスを担う産業を充実・拡大させること」と、「国際的に競争力のある新しい分野の高付加価値型の輸出産業を育成」することは、確かに重要なことだと思います。

そして、衝撃的だったのは、労働者を守りすぎることから発生する経済活動の弊害を指摘し、「労働者は、従業員として企業に守られるべきなのではなくて、国民として国家に守られるべきなのである」と喝破した点です。

これらは、いずれも各方面から異論・反論の出る話だと思いますが、日本の未来を考えた場合、じつに重要な議論だと思います。

企業の経済活動にも大いに関係する話ですので、ぜひ教養として読んでみてはいかがでしょうか。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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「自分は幸せだ」と思う人の比率が世界一のデンマーク。「自力で生活できない人を国が助けてあげる必要はない」と思う人の比率が世界一の日本。

弱者や老人を見捨ててしまえと思っている一方で、やっきになって経済を成長させて何をどうしたいというのか

経済を成長させる方程式というのがあって、ヒトが増えるか、カネが増えるか、賢くなるか、この三つのうちのどれかが満たされなければ経済成長は成立しない

どのメリットを重く見てどのデメリットを甘受するかを判断することが政策決定の肝心要なのであるが、その判断基準となるのが国家ヴィジョンなのである

日本の女性の就業率は既に約六〇%に達しており、手厚い社会福祉の制度が整っている北欧諸国とは一〇%以上の開きがあるが、アメリカ六六%、イギリス六七%、フランス六〇%、ドイツ六四%(国際労働比較)と比べるとそれほど重大な格差が存在しているとは言いがたい水準

戦後の日本が高度経済成長を達成した大きな要因は貯蓄率の高さにあったと言われている(中略)この高い貯蓄率によって多額のお金が家計部門から企業部門に回されて、設備投資が積極的に行われたことで高度経済成長が実現した

労働生産性は、労働者が従事する仕事の高付加価値化によっても向上するのだが、一国の産業構造が高度化することによっても向上するという性質を持つ

日本の国民負担率をフランス並みにすれば、七五兆円もの増収を見込むことができ、二四兆円(医療費、介護費用、生活保護を含め、全国民が安心できるための費用:著者の試算)という追加コストを賄っても五一兆円ものおつりが来る

これからは土地だけでなく金融資産も資産課税の対象にすることが望ましい

今後取るべき経済政策の核心は、一言で言うと、「産業構造のシフト」である。具体的には二つのテーマがある。一つは、旧いスタイルの公共事業の典型産業である土木建設業のウェイトを軽くして、社会保障・福祉サービスを担う産業を充実・拡大させることである。もう一つは、今後も外貨を稼ぎ続けることができるような国際的に競争力のある新しい分野の高付加価値型の輸出産業を育成していくこと

日本の経済が歪んでしまった最大の理由は、増税をして来なかったことにある

今後外貨を稼ぐことができるようになりそうな産業としては、どういうものが考えられるのか。答えは、“ハイテク型環境関連”で決まりであろう。具体的には、太陽光発電関連、原子力発電関連、水処理関連が本命である

労働者は、従業員として企業に守られるべきなのではなくて、国民として国家に守られるべきなのである

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『成熟日本への進路』筑摩書房 波頭亮・著
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◆目次◆

I 二一世紀日本の国家ヴィジョン
一.国家ヴィジョンの不在
二.日本が成熟フェーズに入ったことの意味
三.新しい国家ヴィジョン─国民の誰もが医・食・住を保障される国づくり
II 経済政策の転換
一.成長戦略は要らない
二.成長論から分配論へ
三.産業構造をシフトする二つのテーマ
四.この国のかたち:社会保障と市場メカニズムの両立
III しくみの改革
一.行政主導政治のしくみ
二.官僚機構を構築している四つのファクター
三.官僚機構の改革戦略
四.国民が変わらなければならないこと

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