2011年9月25日
『ショック・ドクトリン』ナオミ・クライン・著 Vol.2622
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【ショックにつけこむ「復興の欺瞞」とは?】
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大学時代、初めて経済学を勉強した時には、経済学者というのは人々を貧困から救う仕事だと思っていました。
しかし、ある程度大人になって、経済やビジネスのことがわかるようになると、どうもそうでもないということがわかってきます。
アジア通貨危機も、サブプライムローン問題も、結局は頭の良い人が弱者を搾取するという話の典型であり、「ノーブリス・オブリージュ」はどこへやら…と正直、あきれてしまいます。
本日ご紹介する一冊は、ベストセラー『ブランドなんか、いらない』で一世を風靡し、以来、反グローバリゼーションの語り部として活躍するナオミ・クラインさんによる衝撃作。
※参考:『ブランドなんか、いらない』
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フリードマン式の自由放任資本主義を導入したことで、貧困に陥ったチリやアルゼンチン、ロシアなどの例を紹介しながら、「ショック・ドクトリン」──戦争やクーデター、津波やハリケーンなどの危機や災害に便乗して、自由放任資本主義を導入する手法──の実情を暴き、徹底的に非難する内容となっています。
人間がパニック状態の時に、いかに新しい教義を受け入れやすいか、ここでは書けないほどむごたらしい拷問の例を挙げながら説明し、その後、「ショック・ドクトリン」がどうやって貧富の差を拡大したか、その過程を説明しています。
自由放任資本主義のもとで、勝ち組と負け組が生まれる、ぐらいならまだしも、ショックにつけ込んで儲ける企業、国民を不幸にして私腹を肥やす政治家の話まで登場し、つくづく嫌になります。
「衝撃作」という謳い文句には反応しなくなった今日の読者も、上巻をちょっと読み始めれば、これがただの謳い文句ではないことがわかると思います。
上下巻合わせて700ページ近い大著ですが、ある程度教養のある方であれば、下手な小説やノンフィクションよりも興味を持って読めるはず。
「ショック・ドクトリン」というフィルターを通して、昨今の国際情勢、経済危機を概観できるので、教養書としても有用な一冊だと思います。
「ショック・ドクトリンのメカニズムが多くの人々に深く理解されれば、ある社会全体を驚愕と混乱に陥れるのはむずかしくなる」
これは、おそらく著者が本書を書いた理由であり、われわれがショック・ドクトリンから祖国や財産を守る術なのだと思います。
上下巻の装丁が似ており、最初うっかり下巻を買い損ねましたが、続き物なので、ぜひ併せて買ってみてください。
既に売れてきているようですが、これは話題作になりそうな予感です。
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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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ショック・ドクトリンの信奉者たちは、社会が破壊されるほどの大惨事──洪水、戦争、テロリストの攻撃など──が発生したときにのみ、真っ白で巨大なキャンバスが手に入ると信じている。人々が精神的なよりどころも物理的な居場所も失って無防備な状態にあるそのときこそ、彼らにとっては世界改変の作業に着手するチャンスなのである
学生たちは外部からの刺激を渇望するあまり、テープに録音された事柄に対して驚くほど受容的になり、なかには実験終了から何週間もオカルトへの興味が持続した者もあった
フリードマンが提起した自由市場のルールと、それを課すための抜け目のない戦略が一部の人々に極端な繁栄をもたらし、彼らがそれによって国境も規制も税金も無視し、新たな富を築くためのほぼ完全な自由を手にしたことは、もはや反論の余地がない
経済が安定し急速な成長を遂げていた一九八八年には、四五%の国民が貧困ライン以下の生活を強いられていたのに対し、上位一〇%の最富裕層の収入は八三%も増大していた。二〇〇七年現在でも、チリは世界でももっとも貧富の差の激しい国のひとつである
危機に陥った国は通貨を安定させるために、喉から手が出るほど緊急支援を欲しがっている。民営化と自由貿易政策が経済的救済とワンセットになって提示されれば、それを受け入れる以外に選択の余地はない
国民は、ハイパーインフレを解消して正常な状態に戻るためなら過激な変化でも受け入れようと考える
言語道断なのは、ロシアの国家資産が本来の価値の何分の一という値段で競売にかけられたことだけではない。それらはまさにコーポラティズム流に、公的資金で購入されたのだ
【以上、上巻】
チェイニーやラムズフェルドが、ロッキードやハリバートンやカーライルやギリアドにとっての利益と、アメリカ(実際には世界)にとっての利益を同一視したとき、そこには世にも恐ろしい結果が伴う。なぜならこれらの企業にとって、戦争、疫病、自然災害、資源不足といった大異変は確実に利益増をもたらすからだ
「第二の津波」に襲われた国はスリランカだけではない。タイ、モルディブ、インドネシアでも、土地の立ち退きや法改正が似たような形で進められた
シカゴ学派の改革が勝利を収めた国ではどこでも、人口の二五%から六〇%にも及ぶ固定的な底辺層が生まれ、社会は一種の戦争状態を呈してきた。だがすでに災害によって国土が荒廃し、民族紛争で傷ついた国に、強制的な移動と文化の破壊を強いる戦闘的な経済モデルを持ち込めば、危険ははるかに増大する。かつてケインズが論じたように、こうした懲罰的平和には政治的結果が伴う──さらにひどい流血の紛争の勃発も含めて
復興事業は今や巨大なビジネスと化し、新たな危機が訪れるたびに新規株式公開ラッシュが起きている。イラク復興関連では公開総額三〇〇億ドル、スマトラ沖地震による津波からの復興では一三〇億ドル、ニューオーリンズと周辺湾岸地域の復興では一〇〇〇億ドル、イスラエル軍のレバノン侵攻後の復興では七六億ドルという具合だ
レーガン大統領がフリードマン流の経済政策を導入した一九八〇年、企業CEOの平均年収は一般労働者の年収の四三倍だったが、二〇〇五年には四一一倍に跳ね上がった
変化はラテンアメリカだけにとどまらない。わずか三年間で、IMFの世界各国への融資総額は八一〇億ドルから一一八億ドルに縮小し、現在の融資の大部分はトルコに対するものだ。危機を収益チャンスとみなしてきたIMFは多くの国から見放され、今や衰退しつつある
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『ショック・ドクトリン(上)(下)』ナオミ・クライン・著 岩波書店
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◆目次◆
序 章 ブランク・イズ・ビューティフル
第一部 ふたりのショック博士─研究と開発
第二部 最初の実験─産みの苦しみ
第三部 民主主義を生き延びる
第四部 ロスト・イン・トランジション─移行期の混乱に乗じて
第五部 ショックの時代─惨事便乗型資本主義複合体の台頭
第六部 暴力への回帰─イラクへのショック攻撃
第七部 増殖するグリーンゾーン─バッファーゾーンと防御壁
ショックからの覚醒─民衆の手による復興へ
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