【改めて、松下幸之助に創業者精神を学ぶ】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4166609831
本日の一冊は、ソニー、松下を追い続けたジャーナリストの立石泰則さんが、松下電器産業(現・パナソニック)創業者、松下幸之助の人生と経営を論じた一冊。
オビに大きく「創業者精神を忘れた企業は衰退する!」と書かれており、経営の教訓かと思って読んだのですが、内容の大半は幸之助の生涯と経営を資料からたどったもの。
ただ、エピソード豊富な内容から受け取れたのは、一個人としての幸之助が、なぜ事業に邁進したのか、なぜ人を活かす経営ができたのかというヒントでした。
父・政楠が相場で財産を失い、味わった屈辱、母・とく枝の再婚により孤独となった大阪時代、丁稚奉公で体験した人の妬み…。
なかでも、丁稚奉公で体験した不条理は、なぜ松下が「共存共栄」の経営を志したのか、その理由がわかる秀逸なエピソードでした。
ちょっと長いですが、引用してみましょう。
<当時、煙草を二十個まとめ買いすると、一個おまけしてくれていた。つまり、一個分の利益を見込めるのだ。まとめ買いで常連客も自分も助かるし、しかも自分の儲けにもなる。これこそ、一挙三得だと幸之助は思った(中略)まとめ買いを始めてから半年ほど経ったころ、幸之助は店主から呼び出しを受ける。「おまえ、もうやめとけ。皆があれこれ言うんで、わしもつらいんや」幸之助は、店主からまとめ買いを止めるように求められた。「皆があれこれ言う」は、幸之助の小僧仲間が「常連さん相手に金儲けをしている」と告げ口したことを指している>
「もし前もってみんなにまとめ買いの話をして、みんなで始めていたら、同じようなことになっていただろうか」
こう考えることで、幸之助は「共存共栄」の経営を目指すようになったと著者は説いているのです。
本書を読んでいると、「経営の神様」松下幸之助がいかにしてでき上がったのか、なぜ創業者精神の伝承に躓いたのか、その理由がおぼろげながら見えてくる気がします。
起業や企業再生、事業承継に携わる方には、ヒントとなる一冊です。
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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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「それは、共存共栄だと思います。相談役が一番大切にされていた言葉です」
現在の松下電器(パナソニック)の苦境をもたらした原因は、中村・大坪ら経営首脳が「どこから来たのか」(創業者精神)を忘れてしまい、「どこへ向かうべきか」(経営理念)を見誤った結果だと言っても過言ではない
松下家を襲った不幸に村人たちは、同情するどころかことのほか冷たかったようだ。なにしろ「相場なんかに手を出したら、松下みたいに潰れてしまうぞ」という戒めが、長らくこの地に伝えられたからである
当時、煙草を二十個まとめ買いすると、一個おまけしてくれていた。つまり、一個分の利益を見込めるのだ。まとめ買いで常連客も自分も助かるし、しかも自分の儲けにもなる。これこそ、一挙三得だと幸之助は思った(中略)まとめ買いを始めてから半年ほど経ったころ、幸之助は店主から呼び出しを受ける。「おまえ、もうやめとけ。皆があれこれ言うんで、わしもつらいんや」幸之助は、店主からまとめ買いを止めるように求められた。「皆があれこれ言う」は、幸之助の小僧仲間が「常連さん相手に金儲けをしている」と告げ口したことを指している(中略)「もし前もってみんなにまとめ買いの話をして、みんなで始めていたら、同じようなことになっていただろうか」
和歌山に戻ったとく枝は、その後再婚する。そして五女・あいも、地元の有本家に嫁ぐことになる。政楠に代わって戸主、家長となった幸之助だったが、肝心の松下家には彼ひとり残されてしまうのだ
「ほなナショナル……」と聞き直すと、歳男が答えた。「『国民の』とか『全国の』という意味でんな」なにか閃くものがあった。そのころ、キャッシュ・レジスターの前身ともいうべき米国製の計算機「ナショナル金銭登録機」が日本でも販売され始めており、ナショナルという言葉に親近感を感じていたのであろう「そうだ。『ナショナル』にしよう。字義に良し、名は体を現わすのたとえのごとく、国民の必需品になろう」
◆事業部制導入の2つの狙い
1.成果がはっきり分かってくる。責任経営になってくる
2.経営者が生まれてくる
つまり松下商法とは、さまざまな家電製品がある中で多くの消費者が購入を望む製品をいち早く見出し、それを集中的に製造・販売する「選択の経営」であり、ヒト・モノ・カネを集中投資する製品の「ターゲットを絞る経営」なのである
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『松下幸之助の憂鬱』立石泰則・著 文藝春秋
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4166609831
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◆目次◆
プロローグ
第一章 幸之助が掴んだ「生き抜く知恵」
第二章 経営者としての原点
第三章 松下経営の誕生
第四章 新しい松下家
第五章 PHP運動と幸之助の失望
第六章 幸之助流「M&A」
第七章 人を育てる会社
第八章 「経営の神様」の失敗
エピローグ
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