2014年2月2日

『ハーバード戦略教室』シンシア・モンゴメリー・著 vol.3484

【参加者限定。ハーバードの秘密講義とは?】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4163900128

みなさんは、あのハーバード・ビジネス・スクールに、年間売上10億円~2000億円の企業創業者、オーナー、経営者しか参加できない「秘密講義」があるのをご存じでしょうか?

本日ご紹介するのは、その「秘密講義(正式名称はEOP Entrepreneur、Owner、Presidentの頭文字から)」の内容を、担当教授自ら初公開した一冊。

テーマはズバリ「戦略」ですが、さすが選ばれた経営者限定のプログラム。ケースの選び方、そして注目するポイントが違います。

本書で最初に取り上げるのは、1986年、年間売上高が11億5000万ドルに達し、29年連続の増収を記録していた、「日用品の巨人」、マスコ社(水栓金具などで有名)。

このケーススタディでは、このマスコ社が家具業界に参入すべきか否かを、成功している経営者たちが議論します。

クラスでの賛成派と反対派の割合はおよそ2対1。

では、実際にこのケースの結論はどうだったのか。

マスコ社は、わずか2年の間に、最高級家具のヘンレドンを3億ドルで、中間価格帯のドレクセル・ヘリテイジを2億7500万ドルで、低価格帯のレキシントン・ファニチャーを2億5000万ドルで買収し、米国第2位の家具メーカーになりました。

しかし、家具業界に参入した2年後、同社の純利益は30パーセントも減少し、最終的に家具部門を売却する事態に陥ったのです。

かつて大成功した経営者のマノージアンは、後に、こう語ったそうです。

「家庭用家具ビジネスへの参入を決断したことは、わたしが35年間行ってきた決断のなかで最悪のもののひとつだろう」

著者は、この「スーパーマネージャーの失敗」をもとに、ストラテジストにとって重要な教訓を伝えています。

それは、「インダストリー・エフェクト」という概念。

つまり、業種には、魅力的な業種とそうでない業種があり、それを知らずに参入するのは、無謀だということです。

「では、魅力的な業種だけを選べばいいじゃないか」という声が聞こえてきそうですが、そこで終わらないのが、この授業の魅力です。

著者はこのマスコ社の失敗のすぐ後に、かの「イケア」の家具業界での成功ストーリーを持ってきて、戦略において重要な「何か」を語るのです。

ここから学べるのは、成功するストラテジストは、業界を熟知して、かつ他者とは違う「目標」を持てる人間であるということ。

この「目標」の重要性については、既にバックナンバーのvol.3052、『IKEAモデル』をご紹介した時に説明しているので割愛しますが、著者は目標の違いが戦略にもたらす影響を分析し、かつこの議論を発展させるため、グッチ再生のケースを持ってくるのです。

※参考:『IKEAモデル』

崩壊寸前だったグッチを救ったデ・ソーレとトム・フォードがやった改革の出発点。それを「生産性のフロンティア」や「戦略の輪」というツールを使って説明しており、再生に携わるリーダーが何をすべきか、その手法と心構えが学べる。じつに粋なプログラムです。

経営を長くやっていれば、競争相手も増えるし、事業環境も変わる。うまい話が持ち込まれたり、変化せざるを得ない状況が生まれることから、経営者は「戦略再考」を余儀なくされます。

本書の講義は、そんな「戦略再考」をどうやって成功させるのか、そのヒントを、世界最高峰のビジネススクールから学べる、何とも贅沢な講義です。

金があっても受けられない「幻の講義」のエッセンスを、ハードカバーで1500円で買えるとなると、これはもう買うしかない。

経営者、マネジャーは必読の一冊です。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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企業が他を大きく引き離すには「決定的な違い」を持つことが肝心であり、それを育てる人は、経営者をおいて他にいない

あなたの会社は社会にとって重要な存在ですか?
これは、会社のトップなら誰でも答えられなければならない重要な問いである。もしあなたが今、会社を閉じたら、顧客は何か困ることがあるだろうか。彼らはどのくらい不自由な思いをし、その状態はいつまで続くだろう。代わりとなる会社を見つけることはできるだろうか

マスコは、それまで32年間連続で増収を記録してきたが、家具業界に参入した二年後の純利益は三〇パーセントも減少した。さらに二年後、同社の家具部門は、一四億ドルを売り上げたが、営業利益はわずか八〇〇〇万ドルで、営業利益率は六パーセントに届かなかった

悲しい追記となるが、その後、マスコは、家具ビジネスからの撤退は参入よりはるかにむずかしいことを知った。交渉が何度も決裂した末に、ようやく売却にいたったが、およそ六億五〇〇〇万ドルの損失となったのだ

わたしの教え子の大半は、利益率が業種によって違うのは当然だと思っているが、その差を知ると驚くようだ。利益率の高い業界の年間収益は、利益率が中間レベルの業界の二倍以上になり、最低レベルの業界の四、五倍にもなる。他の先進国や新興国でも状況は同じだ

「魅力的」な業種とは、業界内にはたらく力が企業の収益を促進する業種であり、「非魅力的」な業種とは、そうした力が企業の収益を制限する、つまり、儲けようとする企業の足を引っ張る業種である

自らがパフォーマーでもあるシルク・ドゥ・ソレイユの創始者たちは、従来のサーカスの状況をよく理解していた。すなわち、主な顧客である子どもたちを喜ばせるには、大型動物のショーが不可欠で、それらの輸送や飼育の費用が経営を圧迫していたのだ。そこで彼らはターゲットを大人に移行し、動物の芸を減らしてコストを削減すると同時に、チケットの単価をあげることに成功した

企業に違いをもたらすのは「目標」

世界中の管理職から出されたデータを見て彼は驚いた。近年、最もよく売れているのは、それほど数を出していない季節商品だったのだ。顧客はグッチの伝統的スタイルではなく、流行を捉えた商品に魅力を感じていた

「戦略の輪」
中心の「目標」は企業の存在意義──他社とどこが異なり、何がすぐれているか──を示し、周縁部の活動と資源は、何をすれば約束が果たせるかを示している

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『ハーバード戦略教室』シンシア・モンゴメリー・著 文藝春秋
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4163900128

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◆目次◆

シラバス 企業のオーナー・経営者だけが受けられる講義
第一講 三五の国から一六四名の経験豊富なリーダーが集まった
第二講 最初の課題「マスコの異業種参入」をクラス全員で検討
第三講 「スーパーマネージャー」の失敗にどよめく受講生
第四講 イケアの躍進が示す、会社の「目標」の重要性を議論
第五講 ファッションという意外な業界に、目標を実現する戦略の例を見る
第六講 今度は受講生の番だ。独自の戦略を立てるメソッドを明かす
第七講 最後のケーススタディで、戦略決定後も続く戦いを知る
最終講 最後にストラテジスト、そして戦略の本質を語る

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