2012年9月2日

『都市と消費とディズニーの夢』速水健朗・著 Vol.2966

【ショッピングモール抜きに現代の都市は語れない】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/404110307X

本日の一冊は、「ショッピングモール化」というキーワードを通して、現在の都市に起こっている変化を説いた力作。

2010年に新規開業した羽田空港新国際線ターミナル、2012年に開業した東京スカイツリー、2012年に新装される東京駅の3施設…。

これらは一見何の関係もなさそうですが、じつは公共性の高い施設がショッピングモールとしてリニューアル・建造されたという点で共通しています。

先日、東京スカイツリーを訪れた時、あまりの賑わいに驚きましたが、その理由は、ショッピングモールである「ソラマチ」があるから。

塩の専門店やユニークなセレクションの雑貨屋さん…。多様なセレクションで人々を魅了するショッピングモールを見ていると、スカイツリーにのぼるという、本来の目的などどうでもよいかのように思われました。

また、ちょうどシンガポールに出発する際、羽田空港新国際線ターミナルを利用したのですが、ここには「江戸小路」という飲食・専門店街と、「E・DO MARKET PLACE」というアニメやキャラクターを前面に出したスペースが展開されています。

これまで内向きだった日本の公共施設が、どうしてここまで外から目線になったのだろう? と疑問に思っていたのですが、本書を読むことで、その謎が解けました。

そう、空港にしろ、駅にしろ、タワーにしろ、現在はどこも国際間競争の時代であり、そこで勝ち抜くための手段がこの「ショッピングモール」なのです。

訪日外国人の数が急増するなか、日本もこの流れに巻き込まれており、著者のいう「ショッピングモーライゼーション」が、急速に進んでいます。

「ショッピングモーライゼーション」というのは著者の造語で、<都市の公共機能が、経済効率や市場原理で変わること>を言いますが、まさにこれがいたる所で起こっているのです。

本書では、こうしたショッピングモール化の動きと、ショッピングモールの歴史、さらにはウォルト・ディズニーが最後に夢見ていた都市設計の話などを通して、ショッピング化する世界と、その影響を論じています。

高速道路のサービスエリアや、大阪駅、東京駅の「ステーションシティ」構想、最先端を行くシンガポールやクアラルンプールのショッピングモールまで、グローバルな都市化の動きが、本書を読むことで、一つの線となって現れてきます。

熾烈な競争の先に、何が待っているのか。

これからのグローバルビジネスを考える上で、じつに興味深い論考だと思います。

新書ということもあり、これは、迷わず「買い」の一冊でしょう。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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東京都は、「アジアヘッドクォーター特区」構想を打ち出しています。これは、国際的な都市間競争の激化という現状認識に基づき、アジアの諸都市との競争という構えを強調するものです。外国人観光客が増えるこの時代、国際都市間競争という意識は、まだほとんどの東京人、日本人に理解されていません

コインパーキングの最大手であるパーク24が運営するタイムズの第一号ができたのは、一九九一年のことです。バブル崩壊のタイミングで生まれていることからも、これが不況を逆手に取ったビジネスであるということがわかります

長期休暇のある大学よりも、年中無休に近い状態の病院の方が、カフェ経営にとっては、都合のいい安定した出店先

駅ビルの歴史は、古くは阪急電鉄がターミナル駅に百貨店を開業し、沿線に住む人々の消費生活を開拓していったところに端を発しています。沿線の片方の端に百貨店を置き、もう一方の端にレジャー施設を置く。そして、その間の沿線で宅地開発を行い、鉄道路線を基盤として都市計画をビジネスとして始めたのが阪急電鉄です

小林は、鉄道の終着駅にレジャー施設として宝塚大劇場をつくり、沿線の住民の規範となる良家の子女が通う宝塚音楽学校を創設しました

“ステーションシティ化”とは、駅そのものをショッピングモールにするということ

国際間競争という背景が、“江戸”や“東京”といったカラー、つまりテーマ性を打ち出すようになった原因

公共性の高いスペースの収益化を行う場合に、選択肢として選ばれるのが、ショッピングモールとして施設をつくり直すという手法です。こういった一連の現象を筆者は“ショッピングモーライゼーション”と名付けています

広告デザインの仕事から始まり、アニメーションの制作、テーマパークの運営と、常にクリエイティブな仕事をしてきた彼が最後に手がけようとしていたのは、商品でもコンテンツでもアミューズメント施設でもなく、人々が生活を送る都市そのものを自ら設計し、造成することでした

ショッピングモールを、かつてのダウンタウンに代わるものとして考案したグルーエンは、まずは商業施設の周囲に駐車場をつくり、自動車が入ってこないようにした上で、その中心部分に公園や人々が気軽に休めるベンチを設置しました。そして、遊歩道沿いに専門店を並べました。こうしてショッピングモー
ルは誕生したのです

人はゾンビになっても消費から逃れられない

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『都市と消費とディズニーの夢』速水健朗・著 角川書店

http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/404110307X
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◆目次◆

第1章 競争原理と都市
第2章 ショッピングモールの思想
第3章 ショッピングモールの歴史
第4章 都心・観光・ショッピングモーライゼーション
自動車時代のショッピングモール ららぽーとTOKYO‐BAY
観光地とショッピングモール
一九九〇年代の日本のショッピングモール状況
グローバル化とモールの関係

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