2012年7月20日

『挑む力 世界一を獲った富士通の流儀』 片瀬京子、田島篤・著 野中郁次郎・解説 Vol.2921

【世界で勝つ気概とは?】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4822262677

それが失業率であれ、成功例であれ、物事はリアルタイムで統計にあらわれないもの。

まして人の認識が現実についていくためには、かなりの時間を必要とするものです。

「失われた20年」「大手メーカーがグローバル競争で勝てなくなった」などという話はいたるところで聞こえてきますが、無批判にこうした主張を受け入れていては、物事を見誤ります。

日本の大手企業だって、水面下ではアジア市場で成功を収めており、またテクノロジー分野でも目覚ましい活躍をしています。

これから成功事例がたくさん出てくれば、われわれの認識が変わり、日本が再び活気を取り戻すこともあり得る。

本日の一冊は、その口火を切るであろう話題書で、全国書店で堅調な売れ行きを示しています。

本書は、スパコン分野で世界一を獲った富士通の成功事例ですが、じつはこの富士通、「その売り上げの中核を占めるのは、企業や官公庁にICT分野の各種サービスを提供するテクノロジーソリューション」なのです。

富士通が作ったスーパーコンピューター「京」は、2011年6月と11月の二期連続で世界No.1。本書には、このスーパーコンピューター「京」をはじめ、東証の株式売買システム「アローヘッド」、すばる望遠鏡/アルマ望遠鏡、シニア層を中心に累計販売台数2000万台を記録した「らくらくホン」シリーズなど、計8つのプロジェクトが紹介されており、さらにハーバード大学経営大学院教授の竹内弘高氏、スチュアート・クレイナー氏、デス・ディアラブ氏、野中郁次郎氏などの知識人が論考を寄せています。

個人的には、現場の開発者たちの熱い気持ち、そしてそれを支える粋な上司たちの姿に、感銘を受けました。

読んでいて感極まったのは、事業仕分けで「2位じゃダメなんでしょうか」と言われたのを受けて、社長がスパコン開発を支持、さらにその後行われたスーパーコンピューター「京」の総決起集会で、会長が池田敏雄氏の言葉を引用するシーン。(池田氏は、富士通のコンピュータービジネス創始者)

「挑戦者に、無理という言葉はないんだ」

この言葉に触れられただけで、本書を読んだ甲斐があったと思いました。

後半に行くにつれて、尻すぼみになる感はあるのですが、それでも読む価値のある一冊だと思います。

挑戦し続けるために、個人が、そしてチームが何をなすべきか。

本書には、そのヒントが書かれています。

ぜひ読んでみてください。

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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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「誰もやっていないことを実現しよう。そして世界を驚かそう」
(吉田利雄氏)

検討会の名称は「ストロングコーヒー」。目覚めの一杯というその名の通り、参加者はこの場を通して覚醒していく

◆「2位じゃダメなんでしょうか」に対する社長の答え
「富士通のコアは、技術開発力だ。スパコンの大きな役割は、世界最高峰の技術開発力を世に示すことにある。だから、富士通はこのプロジェクトを継続するんだ」

「挑戦者に、無理という言葉はないんだ」
(富士通のコンピュータービジネスの創始者、池田敏雄氏の言葉)

伊東の熱弁を聞いていた副社長の「で、これで必ず一番は獲れるんだな!」という問いに、即答した。「獲りますよ」

「提案するからには、絶対に受注する。そうでなければ『富士通はあのトラブルのせいで受注できなくなった』という評価を、ずっと受け続けることになる」(真内健氏)

「技術に強くないと、周りに影響を与えられないと思っています。うわべだけで語っては、評論家でしかない。誰もが『ああそうだね』と納得する言葉を発するには、技術をきちんと知っている必要があります」(三澤猛氏)

何か起きたら、まずは企画書を書く(野口直昭氏)

「こういった非常時に、やらなかったらどうなりますか。富士通はお金がないと動かない会社だと思われてしまう」(生川慎二氏)

検討すべき技術、機能はさまざまだ。選択肢が多いと、ぶれやすくもなる。そうならないように、最も大切なことは何なのかを、部署を超えて確認する場が、骨太会議だ

「オフィスで悩んでいたって、しょせん想像の世界だろ」
(山崎富弘氏)

チームのメンバーに対して、山崎は、基本的には「好き勝手にやれ」と任せている。ただ「何がバリューなのかを探せ」とは言っている

日本市場自体の停滞に加え、韓国や中国などの競合他社との競争がグローバルレベルで激化し、日本企業の強みだった「ものづくり」だけでは勝てなくなってきている(中略)ところが、富士通は「ものづくり」に「ことづくり」を加えて、具体的な価値を創り出し始めている

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『挑む力 世界一を獲った富士通の流儀』片瀬京子、田島篤・著 野中郁次郎・解説 日経BP社
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4822262677
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◆目次◆

はじめに
第1章 絶対にNo.1を目指す
    スーパーコンピューター「京」
第2章 覚悟を決めて立ち向かう
    株式売買システム「アローヘッド」
第3章 妄想を構想に変える
    すばる望遠鏡/アルマ望遠鏡
第4章 誰よりも速く
    復興支援
第5章 人を幸せにするものをつくる
    「らくらくホン」シリーズ
第6章 泥にまみれる
    農業クラウド
第7章 仲間の強みを活かす
    次世代電子カルテ
第8章 世界を変える志を持つ
    ブラジル/手のひら静脈認証
寄稿 外から見た富士通
   いまこそ日本に学べ! 竹内弘高
変革に挑む スチュアート・クレイナー/デス・ディアラブ
おわりに
解説 野中郁次郎
受け継がれてきた言葉
謝辞

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