【これは名著だ。】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4065407869
本日ご紹介する一冊は、AIの普及で注目される知財の最前線を、プロが解説した、注目の新書。
著者は、東北大学研究推進・支援機構リサーチ・マネジメントセンター特任教授であり、弁理士の稲穂健市さんです。
サム・アルトマンのジブリ風の自画像やMidjourneyを使って制作された絵画・漫画など、生成AI絡みの知的財産権がどうなるのか、現在訴訟中の案件も含めて解説しており、今、最も読むべき知財の本だと思います。
AIの他にも、『鬼滅の刃』の着物の柄の模倣やルイ・ヴィトンのダミエと数珠店の数珠袋、「のまネコ」騒動、「ゆっくり茶番劇」商標登録騒動など、興味深い事例がたくさん載っています。
2ちゃんねるで親しまれていたアスキーアートキャラクター「ギコ猫」を文字商標出願したタカラ(現・タカラトミー)、カーリング女子チーム「LS北見」(ロコ・ソラーレ)の合言葉「そだねー」を「菓子及びパン」を指定商品として文字商標出願した六花亭、セルフレジ特許で揉めたユニクロ(ファーストリテイリング)、日本製鉄に訴えられたトヨタの事例を見ていると、今の時代、権利・利権だけを追い求めると、とんでもないレピュテーションリスクを負うことがよくわかります。
おそらく、ネガティブ文脈で紹介された企業にとって本書は、買い取ってでも消し去りたい書籍に違いありません。
反対に、長年の実績やブランド力が評価された「伊勢丹チェック」や「あずきバー」などの事例は、「企業活動は本来こうあるべき」という好例になると思われます。
知財の本だと思って読んでいましたが、これはビジネス戦略の話であり、結局企業にとってどれだけ信用やブランドが大事なのかを再確認する本でもあると思います。
企業の知財担当や経営者にとっては、複数の知財で複合的に保護を図るキッコーマン「いつでも新鮮 しぼりたて生しょうゆ」や「ミャクミャク」の事例、コクヨの「カドケシ」の事例が、参考になるでしょう。
最近、意匠登録が可能になった建築物の意匠や内装の意匠の例も、ぜひチェックしておきたいところです。(建築物の登録第1号は「ユニクロPARK 横浜ベイサイド店」、内装の登録第1号は「羽田空港 蔦屋書店」)
さっそく、本文の中から気になる部分を赤ペンチェックしてみましょう。
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育成者権
品種改良によって生み出された植物の新たな品種を登録することで、それを育成した者などに与えられる権利である。登録品種の種苗、収穫物、一定の加工品の生産・販売などを独占することができる
地理的表示(GI:Geographical Indication)
地域ブランド産品の名称は、その産品の品質や評価がその産地と結びついている場合、「地理的表示」として保護される
「知的創造物」とは、「人間が作り出したもの」であることを前提としている
生成AIに思想や感情はないので、やはり著作者になることはできない
作風・画風は具体的な表現ではなく「アイデア」にすぎない
Xには、最新の出願公開の概要を投稿する「商標速報bot」という非公式botのアカウントもあり、それをフォローすれば最新の商標登録出願について確認することが可能だ
ルイ・ヴィトン vs 神戸数珠店
判定の結果、「日本古来の模様として広く一般に知られ、親しまれている市松模様にすぎない」ことから、「商標としての使用」(商業的使用)には当たらず、その商標権の効力は及ばないと判断された
ギコ猫騒動
自分たちのコミュニティに「よそ者」が入り込み、自分たちが育てたものを「かすめ取る」ことは許せない、という一部のネットユーザーの感情的な反応が会社を動かしたのだ
声そのものには著作権は発生しない。だが、その発生内容が保護されることはある
特定の商品やサービスに対して、複数の知的財産権により複合的な保護を図る動きも広がっており、これを「知財ミックス」戦略と呼ぶこともある。その一例として挙げられるのが、キッコーマンの「いつでも新鮮 しぼりたて生しょうゆ」である。この商品は2010年9月に発売され、新しい密封容器に、しぼりたての新鮮な生しょうゆを入れて、開封後90日間新鮮なまま使えるようにした点が画期的であるという。そして、特許権、意匠権、商標権などで複合的な保護が図られているとして、特許庁が毎年開催している「知的財産権制度説明会(初心者向け)」の資料にも登場している
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結論から言うと、とても面白い本でした。
話題となった訴訟の解説、AI時代のビジネスに欠かせない知財の知識、自社の権利・利益を守るための方策が、コンパクトな新書サイズに、びっしり書き込まれていました。
題材がコンテンツやタレント、有名ブランド、医薬品など、興味をそそるものが多いため、最後まで飽きずに読めると思います。
昨今のコンテンツやAIのトレンドを押さえておく意味でも、読んでおくといいでしょう。
面白かったのは、著者が知財の専門家としての責務を果たすため、各所に連絡をして裏取りをしたり、作品に目を通したり、VTuberとしてバ美肉したりしているところ。(YouTubeに「ずんずん知財ちゃんねる」というコンテンツを立ち上げ、東北ずん子ちゃんというキャラクターを登場させていたらしい)
身体を張って取材しているので、とても読み応えがありました。
ぜひ、読んでみてください。
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『世界は知財でできている』
稲穂健市・著 講談社
<Amazon.co.jpで購入する>
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4065407869
<Kindleで購入する>
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0FM3P11TB
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◆目次◆
はじめに
本書を読む前に
第1章 生成AIが揺さぶる「知財」の在り方
第2章 終わらない商標トラブルと炎上
第3章 個人の人格的利益と「知財」
第4章 重なり合う「知財」の行方
第5章 研究者やスタートアップが「知財」で戦う方法
第6章 ところ変われば……「知財」の国際問題
第7章 変わりゆく「知財」の世界
おわりに
おことわり
参考文献
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