【過去とのつながりを感じる意味】
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人間が、力強く立つ上で大事なのは、「背骨」だと思っています。
英語で言うと「backbone」ですが、「backbone」には、「根幹、気概、精神的支柱」といった意味もあります。
本日ご紹介する一冊は、われわれに生きるための「backbone」を与えてくれる小説。
第172回直木賞を受賞した、伊与原新さんの『藍を継ぐ海』です。
「継承」をテーマにした5つの短編が並んでおり、どれもわれわれが継承した思想や知恵、自然の恵みについて考えさせられる内容です。
夢化けの島
狼犬ダイアリー
祈りの破片
星隕つ駅逓
藍を継ぐ海
大学で地質学の研究をしている女性が、萩焼の原料である「見島土」を探す謎の男の土探しに巻き込まれていく「夢化けの島」、東京での仕事がうまくいかず奈良県東吉野村に移住した女性ウェブデザイナーが狼犬に出会い、変わっていく「狼犬ダイアリー」、原爆投下直後の長崎で原爆症に苦しみながら瓦礫を集めた地質学者の話「祈りの破片」、隕石が落ちた北海道遠軽町を舞台に、アイヌの知恵が語られる「星隕つ駅逓」、そして本書のタイトルにもなっている「藍を継ぐ海」……。
いずれも調査から得たインスピレーションを元に作られた「フィクション」ですが、フィクションとは思えない、リアリティとメッセージを感じ取ることができました。
長崎に来て思うようになったことは、「どんな生き物も、死んだものの力なしには存在していない」ということ。
エネルギーは死骸から得られるもので、生活の知恵は、かつて誰かが経験し、場合によっては命を落としたことで生まれています。
そういったものに思いを馳せることで、われわれは真に大事なものを残し、継承していける。
これは、ビジネスにおいてもとても大切なことだと考えています。
ぜひ5つの「継承」の物語を読み、みなさんのビジネスの「背骨」としてください。
さっそく、本文の中から気になる部分を赤ペンチェックしてみましょう。
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「李勺光(りしゃくこう)は、粘土のこととなると、めちゃめちゃ頑固な男だったらしい」
「その人って確か、萩焼の……」名前だけはどこかで聞いたことがある。「開祖だよ。秀吉の朝鮮出兵のときに日本に連れてこられて、弟の李敬と一緒に毛利輝元に預けられた。最初にいた広島でも、移ってきた萩でも、納得のいく粘土が見つかるまで何カ月も領内を歩き回ってさがしたんだって。『良い粘土がなければ、良い焼き物はいかなる名人たりとも出来ず』とか言って」
『器用すぎると、土に嫌われるけえのう』
『土にはの、土のなりたい形があるんじゃ。その声をよう聞きながら、さぐりさぐりのばすことや』
器にかける夢を、この赤土の島で陶工たちがつないでいく。世代を重ねるにつれ、夢の形は変化しても、その色が褪せることは決してない--(以上、「夢化けの島」より)
氷河期にネアンデルタール人が滅び、ホモ・サピエンスが生き延びたのは、狩猟に優れた犬のおかげだという説があります。人間が犬というパートナーを持てたのは、祖先のオオカミのほうから人間に近づいてきてくれたからです。そしてそれは、オオカミと人間が似た者同士だったからかもしれない(「狼犬ダイアリー」より)
この気の遠くなるような収集作業は、加賀谷にとって義務でも職務でもない。しかしこれは彼の中で、やはり仕事だったのではないか。一個の地質学者として、焼き尽くされた街にたまたま残された一人の人間として、なさねばならぬという信念がさせた仕事だ。原爆症に苦しみ出してからは、自身の命も長くはないことを悟っていたかもしれない。それでも彼は、廃墟を歩き続けた。やり遂げることはおそらくできないと知りつつも、この仕事をあきらめようとはしなかった。
(「祈りの破片」より)
ここから船でどんどん沖へ出ていくとな、そこだけ波頭が立った黒い川が見えてきよる。黒いうより、濃い濃い藍色やのう。海の中を流れよる、大きい大きい川や。それが、黒潮やな。南のほうから魚を運んできて、ええ漁場をつくる。沙月も未月もじいちゃんも、姫ヶ浦の人間は昔から皆、黒潮に生かしてもろとるんやで--
「『サケが森をつくる』--北西海岸のネイティブ・アメリカンのことわざです。海から川をのぼってきたサケ、産卵して死にますね。たくさんの死骸が栄養になって、森をつくる。人間はその森の木で、トーテムポール作る。作ったら、それで終わり。あとは自然にお任せね。腐って、土に還る。それが海まで流れたら、サケの栄養なるでしょう。それが、ハイダ族の考え方です」(「藍を継ぐ海」より)
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今日、廃業した岡山のお土産屋さんの話をメディアが報じていましたが、事業であれ意志であれ、われわれに「継ぐ」という発想があれば、世界はもっと良いものになるに違いありません。
形だけ、目先だけの「新しいもの」があふれかえり、なんとか短期的な「売上」を上げているのが昨今のビジネスですが、ここは原点に戻って、人間社会にとって何が大事なのか、何を継ぎ、何を変えていくかを真剣に考えたい。
みんなで良い社会を作るための、良いきっかけになる本だと思います。
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『藍を継ぐ海』伊与原新・著 新潮社
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◆目次◆
夢化けの島
狼犬ダイアリー
祈りの破片
星隕つ駅逓
藍を継ぐ海
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