2025年11月20日

『僕たちは言葉について何も知らない』 小野純一・著 vol.6848

【生きるヒントとしての言語学】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4910063404

BBMではこれまでに、鈴木孝夫さんの『ことばと文化』や『日本語教のすすめ』など、言語に関する本をいくつか紹介してきました。

『ことばと文化』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4004120985

『日本語教のすすめ』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4106103338

なぜビジネス書評のメルマガが、言語学の本を取り上げるのか?

それはもちろん、ビジネスや人生において、大きな意味と有用性があるからです。

本日ご紹介する一冊は、自治医科大学医学部総合教育部門哲学研究室准教授、小野純一さんによる言葉考。

人が言葉によってコミュニケーションする仕組み、言葉のさまざまな役割、社会で一大ムーブメントを引き起こす言葉の秘密、言葉によって人生を豊かにする秘訣などが書かれており、大変興味深く読みました。

ビジネスでコンセプトを作ったり、言葉を綴ったりする時の注意点、個人が自分を表現したり、他者と交流したりする際の留意点が丁寧に書かれており、人生を豊かにする、言語学の教養が手に入ると思います。

サルトルや夏目漱石など、優れた思想家、作家の表現例を引きながら、言葉の持つポテンシャルについても論じており、単なる記号ではない、言葉の奥深さを学ぶことができると思います。

宇多田ヒカルさん、ちゃんみなさんなどの事例も挙げられているので、若い世代が読んでも刺さると思います。

個人的に良かったのは、すでに亡くなっていたシモーヌ・ヴェイユの文章を読んでカミュがノーベル賞を取ったというくだり。

人間はたとえ孤独でも、本を通じて友情を深め、孤独を癒せるというカミュのエピソードは、書籍が持つポテンシャルに気づかせてくれました。

まさか言語学の本を読んで、読書の意義や生き方のヒントを学ぶとは。

これはぜひ、読んでいただきたい一冊です。

さっそく、本文の中から気になる部分を赤ペンチェックしてみましょう。

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なぜなら言葉は「個」の内側ではなく過去から蓄積されお互いに影響しあっていまこの「場」を作るからだ。クラウドからつどダウンロードして使われるデータのように

言葉による交流をとらえる3つの見かた
第一の見かた:言葉は記号である(論理的)
第二の見かた:言葉には含みがある(心理的)
第三の見かた:言葉は<場>である(相互作用的)

同じ雲から子どもの頃の夏休みや海水浴のわくわく感を思い起こしたり、垂れ込めた雨雲と暗い空や雨から憂鬱になって、つらいときよく聴いた歌を思い出したりするなら、その雲は一義的な「記号」ではありません。これを「象徴」といいます

「象徴」は文化と個人によって変わる

相手の前提へのアクセスとは、相手の「意図」「期待」「感情」「思考」を読み取ること

言葉には、どれ一つとして同じもののない現実を、誰もが共有できる意味に置き換えるお金のような働きがあります。これは、あいまいな考えや感情を明確にするための言語の役割にもなっています

幽霊もストレスも恋も名づけられると、次のステップに進むことができます

言葉のあいまいさが誤解もクリエイティビティも生む

言葉の意味は「核」+「ゆるやかな領域」

サルトルは、自由を奪うことを奴隷化と呼び、愛とは愛という自由な心の動きによって相手を奴隷化することでもある、という驚くべき要素を中核にしていることを描きだした

概念のまわりにある言葉のゆるやかさを押しのけて、これが伝えたいことですよとでも言うように、意味(あるいは意図)の方が向こうから迫ってくる。それをすくい上げるのが「文脈を読む」や「空気を読む」です

うまくいくコミュニケーションや会話とは、表現や話しかたが上手か下手かではなく、ちゃんと相手の心に概念が成立することです

自分の経験=主語(テーマ)+述語

大きな<述語>に<自分自身><自分らしさ>の<ありか>が見出される

消費の対象ではなく、交換することもできない意味がある状態を「かけがえのなさ」といいます。あなたの大切な人が言った特定の言葉は、それ以外の何者でもない「含み」をもっています

言葉による未来の創出は、被害者にとっても、過ちを犯した人にとっても、嫌な記憶を思い出すことではなく、過去の呪縛から前に進むための力に転換すること

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言語学の視点から、コミュニケーションや自分らしさのヒント、クリエイティビティの秘密が語られており、じつに刺激的な論考です。

述語を大きくすることで、個性や自分らしさが作れるという話は、大変興味深く読みました。

ぜひ読んでみてください。

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『僕たちは言葉について何も知らない』
小野純一・著 NewsPicksパブリッシング

<Amazon.co.jpで購入する>
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<Kindleで購入する>
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◆目次◆

第1部 理論編 言葉の本質
第1章 人間の言葉は魔術だ
第2章 「言語化」の手前にあるもの
第3章 あいまいさが生む言葉の本質
第4章 空気・皮肉・げんかつぎの言語学
第2部 応用編1 嘘、誤解、もどかしさ
第5章 聞き手をコントロールするコミュニケーション
第6章 誤解のメカニズム
第3部 応用編2 生きるに値する孤独な世界
第7章 文化の尊重と、個人の尊重
第8章 自分らしさの言語学
最終章 「月がきれいですね」が「あなたが好き」になるとき

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