2025年9月12日

『物語化批判の哲学』 難波優輝・著 vol.6783

【くっそ面白い。】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4065399645

本日ご紹介する一冊は、小難しいのにくっそ面白い、粋な本。

『物語化批判の哲学』なんて難しいタイトルが付いているので、ほとんどの人が手に取らないと思いますが(笑)、サブタイトルを見れば、少しは読む気が湧くでしょう。

サブタイトルには、こう書かれています。

「<わたしの人生>を遊びなおすために」

「やりなおす」でも「選びなおす」でもない、「遊びなおす」。

いよいよ、物語とどう関係あるのか、わからなくなってしまった読者もいるのではないでしょうか。

本書のなかで著者は、人生を「物語」とみなすわれわれの見方に、疑問を投げかけています。

ズバリ序章のタイトルは、「人生は『物語』ではない」です。

要するに、人間にとって物語の影響が強すぎるがために、われわれはそれに縛られてしまう。

でも、人生はそんなに単純ではないのです。

著者は、序章でこう書いています。

「世界は物語だけでできているわけではない。人生そのものは物語ではないし、物語的に生きることが常に善いわけでもなく、美しいわけでもない」

本書では、物語のほかにも、物語と同じくらい僕らを縛る、強いメタファーを考察しています。

ゲーム、パズル、ギャンブルです。

なぜこれらが人間を強く惹きつけるのか、なぜこれらのメタファーが現実の人生を生きるのに不都合なのか。

それぞれ、詳細な考察が加えられています。

そして最後、すべてを破壊する「おもちゃ遊び」という概念を紹介することで、われわれが物語やゲーム、パズル、ギャンブル的人生を抜け出し、人生を遊びなおす可能性を示すのです。

もしみなさんの人生が今、苦しいとしたら、それは半分、政府や上司のせいかもしれませんが、もう半分は多分、あなたの世界の捉え方の問題です。

どんな態度で人生に向き合えば、人生は豊かになるのか。

この小難しい考察を読破した先には、きっと人生のオルタナティブ(別の選択肢)が見えて来るはずです。

さっそく、本文の中から気になる部分を赤ペンチェックしてみましょう。

—————————-

私たちが生きてきた歴史は、けっして一貫性だけでは測れない深みを持ってもいる。私たちがさまざまな選択肢を選ぶなかで、「ぶれたり」、失敗したり、その人らしくない行動をしたりしたこともまた、私たちの歴史的語りにおいては尊重されて然るべきだ。なぜなら、そのほうが、私たちの豊かな歴史を捉えられるはずだからだ

私たちは、自己語りや他人語りにおいて、物語から離れて、不可解なまま存在する相手を尊重する、新しい倫理的態度を作り出さなければならない

人々は、自分が感じたい情動を感じることをめがけて物語を味わう。これは私たちの誰にも心当たりのあることだろう

大事なものを失うということは、深く悲しいことだ。しかし私たちは、自身にとってそれがいかに重要であったかを、悲嘆を通じて認識することができる。何もかも失われない世界では、私たちは大切なものの価値にアクセスすることができない

私たちは自分たちの情動を把握したり理解したり人に伝えたりするために、何らかの表象、つまり、「イメージ」を必要とする

物語にせよ音楽にせよ香水にせよ、情動の批評が不可欠である

物語は、キャラクター化と結びついて個々人の自己理解の手助けともなりうる一方で、ステレオタイプや固定的な役割分担を生み出す力をも持つ

世界という舞台の中で、複数の役割をパフォーマンスし続ける複数形の「私」の集まりが私であり、あらゆる状況から離れた「本当」の私は存在し得ない

人生は「攻略」の対象であるというメタファーが行き渡っていくと、たとえばビジネスでは、ノルマや売上目標を達成できない者は「やる気が足りない」「能力が低い」とみなされる

人生をRPG的に捉えることは、あらゆる出来事を、「クエスト達成のための通過点」とみなす態度を助長しかねない。人間関係の葛藤や挫折、悲しみも、「レベル上げのための必要なイベント」と解釈してしまえるからだ。そこにある一回一回の痛みや、本当になすべきだったのかという倫理的な葛藤がなきものにされるかもしれない

「遊び心」は、相手や状況に身を委ね、自分が持っているものの見方、考え方を一時的に解除する態度を指す

おもちゃ的主体は、差異を面白がる。自分の「世界」こそ当たり前だ、と思いこみ、他者を無視する傲慢な認識に陥りやすい「大人」こそ、遊び心に満ちた「『世界』を旅すること」を試みなければならない

—————————-

学生時代、ホイジンガの『ホモ・ルーデンス』を読み、5大学交流会で「遊び心のビジネス」という分科会を立ち上げ、「遊び心」という言葉をキーワードにこれまで生きてきましたが、「遊び」にこんな効用があったとは、気づきませんでした。

『ホモ・ルーデンス』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4122066859

物語的人生やゲーム的人生が生き詰まっても、人生は続くし、人はいくらでも幸せに生きられる。

そんなことを教えてくれる、哲学的な一冊です。

著者が「美学者」を名乗っており、表現論として読んでも面白い内容だと思います。

ぜひ読んでみてください。

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『物語化批判の哲学』
難波優輝・著 講談社

<Amazon.co.jpで購入する>
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4065399645

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◆目次◆

序章 人生は「物語」ではない
物語篇
第1章 物語批判の哲学
第2章 ゲーム批判の哲学
第3章 パズル批判の哲学
第4章 ギャンブル批判の哲学
第5章 おもちゃ批判の哲学
終章 遊びと遊びのはざまで
あとがき
参考文献
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