【企業コンプライアンスを考えさせられる衝撃ノンフィクション】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/408781761X
本日の一冊は、2024年に第22回開高健ノンフィクション賞を受賞した、話題作。
対馬が舞台ということで読んでみたのですが、これはビジネスパーソンとして、読むべき一冊だと思いました。
本書は、2019年に対馬で起きた、謎の交通事故が元になっています。
四人乗りのダイハツ「アトレーワゴン」が崖から転落し、海に落ちた訳ですが、そこで亡くなったのが、JA対馬のカリスマライフアドバイザー、西山善治氏でした。
西山氏は、わずか1万5110世帯・3万901人(2019年2月時点)の対馬で、じつに2281世帯4047人分の契約を取ったやり手セールスマン。
JA共済連が都内の有名ホテルで開催する「LAの甲子園」の常連で、とりわけ優れた実績を挙げたLAに与えられる「総合優績表彰」を12回も受賞した、全国でも有数のトップセールスマンだったようです。
著者がこの人物を追っていくと、どうやら知られざる事件の真相が見えてきたようです。
発覚した22億円超の横領疑惑、ベースにあった苛烈なノルマと共済金の不正請求、そしてそれを支えた恐るべき仕組みと協力者…。
読めば読むほど、これは企業コンプライアンスの話だなと思うに至りました。
本書を読めば、悪事がなぜ起こるのか、なぜそれが拡大され、隠蔽されてしまうのか、そしてなぜバレてしまうのか、そのメカニズムがよくわかります。
ビジネスパーソンなら、一読して損はないと思います。
関係者へのインタビューからわかった故・西山善治氏の人柄を知るにつれ、彼はひょっとしたら犠牲者だったのかもしれないと思い、同情すら覚える内容。
同時に、ビジネスパーソンとして、絶対にやってはいけないことは何かを教えてくれる話でもあります。
綿密な取材から明らかになった真実はあまりに衝撃で、チラッと読むつもりが、思わず一気読みしてしまいました。
著者は、元「日本農業新聞」の記者で、ノンフィクション作家の窪田新之助氏。
JAグループに人脈を持ち、内部事情に詳しい著者だからこそ書けた、力作だと思います。
さっそく、本文の中から気になる部分を赤ペンチェックしてみましょう。
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農林中央金庫は「日本を代表する機関投資家」を自任しているとおり、JAが組合員から集めた貯金を外貨建ての金融商品に投資し、その利ざやと売買益で稼いできた。農林中央金庫の貯金残高は、二〇二三年度末時点で一〇八兆三八二三億円に及ぶ
このうち共済事業について、各地のJAでその商品を専門に営業しているのが「ライフアドバイザー」、略して「LA」である。西山も、在職期間のほとんどでその役職に就いていた。彼が亡くなった当時、JAの職員は全国で約一九万人を数えた。このうち約二万人がLAだった
西山が亡くなった二〇一九年二月末時点で、対馬の人口は一万五一一〇世帯三万九〇一人だった。西山が獲得したとされる契約者数は、対馬の人口の一割以上に相当したのだ
JA対馬やJA共済連が後に調べたところ、西山が共済を契約している建物の被害を捏造し、共済金が不正に振り込まれるようにしていたことが判明した
私は過去の仕事で、JAにおいて一連の不祥事件が起きる要因に、共済商品の営業において過大なノルマがあることをつまびらかにしてきた。すなわち職員はノルマをこなすために、自分や家族が不必要な契約を結ぶ「自爆」と呼ぶ営業を強いられている
JA共済連が「組合払い」を設けているのは、罹災した家屋や家財をすぐに修復や修繕するため緊急に金を必要とする顧客に向けて、JAに独自の判断で先払いしてもらうためである。ただ、担当の職員が「組合払い」を選択した場合には、しかるべき管理者がその職員に、「全国本部払い」を選ばなかった理由を確認することが必須になっていた。ところが、JA対馬ではどのように確認するかのルールがなかった
「ある名義人に関して、毎回違う人が代筆したら、筆跡が変わってバレてしまう。それを避けるために、代筆する担当者は名義人ごとに決まっていた」
西山は職員を苦しめるノルマをむしろ逆手に取り、組織での求心力や影響力を伸ばす道具としてじつに巧みに使いこなしてきた
小宮が告発書の写しを持って出向いた先は、当時の執行部の三人と共済部長の自宅だった。このうち留守にしていた桐谷安博組合長を除く三人に、告発書を直接手渡した。だが、彼らは厳正に対処するどころか、黙殺したという
西山は、顧客から要求されれば、それが理不尽なものであっても、断れなかったのではないだろうか。これは私の独りよがりな想像ではない。西山の家族も彼に似たような印象を持っている
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読み終わった後、なぜか西山善治氏のお墓参りに行きたい気分になりました。
数字とヒトと政治に殺されないために、また不正を見抜き、勇気を持って対処できる人間になるために。
ぜひ読んでおきたい一冊です。
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『対馬の海に沈む』
窪田新之助・著 集英社
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◆目次◆
序章 事故
第一章 発覚
第二章 私欲
第三章 軍団
第四章 ノルマ
第五章 告発
第六章 責任
第七章 名義人
第八章 共犯者
終章 造反
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