2025年9月19日

『イン・ザ・メガチャーチ』 朝井リョウ・著 vol.6807

【「ファンダム」の深層】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4296121049

先日、『ファンダムマーケティング』をご紹介した直後で何ですが、今日はファンダムに関連する小説をご紹介。

『ファンダムマーケティング』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4297150549

人気作家・朝井リョウさんが日経新聞夕刊で連載していた『イン・ザ・メガチャーチ』です。

メガチャーチとは、一度の礼拝で2000人以上が集まる規模の教会のことで、本書では、宗教化するファンダムの象徴として使われ、表紙にもパリのサント・シャペルを思わせる華やかな教会の写真が使われています。

ちょうど、『ファンダムマーケティング』でも、IPの実力を測る目安として、2000人以上のライブ会場を埋められること、という記述があり、偶然の一致に驚きます。

本書では、成長を続けるファンダム経済を、仕掛ける側、のめり込む側、かつてのめり込んでいた側という3つの視点で描くことで、ファンダム経済の深層とその危うさを炙り出しています。

「神がいないこの国で人を操るには、”物語”を使うのが一番いいんですよ」

オビにもあるこの言葉は、本書に登場する「仕掛ける側」のセリフですが、ストーリーマーケティングの有効性と危うさを見事に言い表しています。

ターゲットの選定方法、ファンを夢中にする仕掛け、SNSで話題を拡大する方法などが、マーケティング本顔負けの詳細な記述で書かれており、どうやって取材したのか、驚くほどです。

ファンダムの行動や心理に関する記述も巧みで、ファンダム経済に飲み込まれる人間の実態が浮き彫りにされています。

単なるファンダム経済の批判ではなく、有隣堂藤沢店の廣田優里さんがおっしゃるように、「正解のない自由」を与えられた現代社会の生きづらさを描いている。

そういう意味では、バタイユの『呪われた部分 有用性の限界』にも通じるメッセージを感じました。

『呪われた部分 有用性の限界』
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さっそく、本文の中から気になる部分を赤ペンチェックしてみましょう。

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人生とは、これまでやってきたことが還ってくるものだと思っていた。勉強も仕事も、過去の自分が頑張ってくれたそのぶん、成績や給料といった形でその後の自分に還元されてきた。ただ、これからは違うのかもしれない。今後還ってくるのは、これまでやってきたことよりも、これまでやってこなかったことのほうなのかもしれない

時代そのものが厳しくなっていく中で、”推し活”は趣味というより福祉に近い存在なのではないか

たとえばアーティストが誕生日を迎えたとします。アーティストにプレゼントを贈るのがこれまでで、お祝い広告をファンの出資で掲出するのが今。これからは、そのアーティストが掲げるメッセージに沿った社会貢献活動をする、みたいな祝い方に変わっていくと思います

きれいなスタジオで、見るからにいいブランドの衣装に身を包んだ、ほぼ同年代の男。”プレゼント”が投下されればされるほど、出演者たちの稼働は増え、この男の儲けは増える。自分の実働時間は増やさずに効率的に集金できるシステムを見事に構築した男。いつだって、搾取する側には余裕がある

人は物語に弱い。パフォーマンスそのものよりも、その前後の物語に注目している人がすごく多い。そして、物語に魅入られたファンは離れづらい

物語は結局、情報を明かす順序によって訴求力が全然変わってくる

ユリちゃんは確か、繋ぎ目の部分がきれいだとか、色使いがユニークだとか、過去のシリーズに比べてどうのこうのとか、数分に亘って説明をしていた。その声はとっても楽しそうで、幸福感に満ちていた。視野を狭く、小さくしていくからこそ見えるものがある

最も共感能力が高く、自他の境界が曖昧で、視野を狭めやすい気質のファン層を炙り出し、より先鋭化させる

「我を忘れて何かに夢中になっているほうが、楽だからです」楽。「ずっと我に返ったまま生きるにはこの世界は殺伐としすぎていますし、人間の寿命は長すぎますから」

「これは私の持論ですが、人は、自分の気質と似た相手を応援する傾向にあります。そう考えたとき、あの九人の中で垣花道哉だけが、共感性が高く感情移入しやすい。かつ内向型の気質を持ち合わせているのです」

「皆、自分を余らせたくないんです」

「でも、どの物語にも呑み込まれない人生って、間違いはしないけど別に楽しくもないんですよね」

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読んでみて、これは現代版の『星の王子さま』なのかもしれないなと思いました。

『星の王子さま』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4774406260

行き過ぎた資本主義と、国民を「救い」が必要なレベルにまで追い込んだ政治、システムに翻弄される個人の生き方を考えさせられる、深い小説でした。

ビジネスをする側も、ファン活動をする方も、ぜひ、読んでみてください。

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『イン・ザ・メガチャーチ』
朝井リョウ・著 日本経済新聞出版

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http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4296121049

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◆目次◆

※特にないので省略します

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