【日本経済史「影の主役」山下太郎のすべて】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4478123039
本日ご紹介する一冊は、裸一貫から一代でトヨタ、松下、日立を超える高収益企業を作った「アラビア太郎」こと「山下太郎」の物語。
彼が作ったアラビア石油は、オイルショックの影響もあり、1975年に松下電器産業、新日本製鐵、日立製作所、トヨタ自動車工業を退けて、法人所得で圧倒的1位を獲得しています。
著者は、「週刊ダイヤモンド」の記者、編集長、論説委員として、数多くの経済人と交流してきた、深澤献氏です。
本書は、「ヤマ師」の異名をとり、戦中・戦後の激動期に、日本経済を陰で支えてきた山下太郎氏に、著者がインタビューした内容を元に書かれた「フィクション」ですが、冒頭には、こんなふうに書かれています。
「本書は、徹底的な事実に基づいたフィクションです。人物・団体・事件などの名称は、すべて実在します」
著者は、本書を書いた思いについて、こう書いています。
「私は30年以上、経済誌の記者として企業と経営者を追い続けてきた。これまで取材した経営者・職業人はのべ数千人にのぼる。その中で、どうしても
歴史から消してはならない、語り継がねばならないと強く感じた一人の男がいる。男の名は、山下太郎。「ヤマ師」の異名をとり、戦中・戦後の激動期に、日本経済を陰で支えて続けた人物だ。すべての経営者が、いや日本人全体が決して失ってはならない冒険心と挑戦心を、彼ほど揺るぎなく持ち続けた男を私は他に知らない」
「楠木正成の末裔」と言われて秋田に育ち、慶應から札幌農学校へ。その後日本経済の立役者となる傑物たちとの交流を経て、大実業家に成長する氏の物語は、あまりに壮大です。
山下太郎は、森永製菓創業者の森永太一郎、日本鋼管(現・JFEスチール)初代社長の白石元治郎、渋沢栄一、松岡洋右、石坂泰三など、日本経済を支えた大人物たちに支えられ、奇跡的な成功を収めるわけですが、こうした政財界の偉人たちの横顔と思想に触れられるのも、本書の醍醐味だと思います。
戦中、戦後に彼らが見た夢、とったリスク、紡いできた縁…。これを今、改めて知ることには、大きな意味があると思います。
読者が政治家であれ、経済人であれ、こうした歴史を知らずに他国との外交やアライアンスを進めるのは、場合によって、大きな遺恨を残す事につながると考えるからです。
理屈抜きに面白い人物とストーリー、膨大な取材に支えられた資料価値、読み手にエナジーを吹き込んでくれる文章。
こんなに面白いビジネス書は、ひさびさに読みました。
さっそく、本文の中から気になる部分を赤ペンチェックしてみましょう。
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「人間と動物の違いは、突き詰めれば宗教心があるかないかということだよ。逆に言えば、信仰がない人間はだめだ(以下略)」
「人には運命というものがある。その運命と勝負するのがヤマ師の真骨頂だよ」
一身を犠牲にするだけの覚悟があって初めて活路が開け、成功する道もおのずからできてくる
「どんな仕事もお国のため、人類の幸福のためという崇高な目的にかなうものであるべきです」
「福沢先生は『役人が威張る国は文明国とはいえない』とおっしゃっていました」
人を服させるには三つの道がある。最も高等なのが人格をもってする。第二は知識と才能をもってする。第三の最も下等なやり方が腕力だ
そもそも同郷人や同窓生でつるむようなせせこましい考え方は好きじゃないんだ
「いや、商売で最も大事なのは、誠実であることだ」
勝機を掴むには度胸が必要だ。誰もが躊躇する決断の先にこそ成功はある。しかし、勘だけで突き進むのは愚者のやることであり、度胸を持つためには綿密な調査が欠かせない。太郎は硫安の一件でそれを確信した
農芸科で学んだ中で最も印象的なことは「良い果実は、良い種子によって生まれる」という大原則だった。太郎は、これを「人間植林」と名付けて処世哲学とした。良い人間関係を築くことで、いずれ思いがけない成果を得ることができる。まずは好種子たる人物を見極めること
人間は同じ所に長くいるものじゃない
どんなに親しくなっても真の目的は口に出さない。相手が太郎の誠実さを信じ込んだ上で、ここぞというときには駆け引きなしで捨て身の頼みをする
「国が敗れたのも石油だった。国を興すのも石油でなければならない」太郎は直感的に、この大方針に思い当たる。そして、残る生涯を「石油報国」という新しい大志に捧げることを決心した
「三分の侠気、だな」
石坂はひとりごちた。中国の古典『菜根譚』に「友と交わるには、すべからく三分の侠気を帯ぶべし」とある。友のために一肌脱ぐという姿勢は大事だが、自分の一生すべてを友人のために捧ぐべきではない。しかし、3割くらいは自分の損得を離れた義侠心がないと本当の付き合いにはならない
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著者の深澤献さんは、これが初の単著だそうですが、これは1000冊に1冊の名著だと思います。
日本経済の歴史を作った傑物たちと、「ヤマ師」太郎の交流、そして誰もが不可能と思ったアラビア石油の成功…。
重ねて書きますが、こんなにワクワクするビジネス書は、ひさびさに読んだ気がします。
登場する会社やビル、ホテルをすべて訪ねてみたくなりました。
ぜひ、読んでみてください。
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『ヤマ師』深澤献・著 ダイヤモンド社
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◆目次◆
プロローグ 社長室
序章 大志を抱け
第1章 ヤマ師誕生
第2章 満州太郎
第3章 アラビア太郎
エピローグ 青山葬儀所
参考文献
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