【移動から見える格差社会】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4065397340
本日ご紹介する一冊は、移動と格差の問題を、新進気鋭の学者が論じた新書。
以前、『体験格差』という本をご紹介しましたが、あれの移動バージョンと考えればいいでしょう。
『体験格差』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4065353637
著者は、戦後日本における地方移住政策史の研究で博士号を取得した人物で、国際大学グローバル・コミュニケーション・センター研究員・講師の伊藤将人氏です。
成功本としてベストセラーとなっている『移動する人はうまくいく』とはまったく逆の見解で、どちらかというとマイケル・サンデル教授の『実力も運のうち』に近いスタンスと言えます。
『移動する人はうまくいく』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4799112198
『実力も運のうち』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4150506027
本書では、日本におけるさまざまな移動のデータを元に、移動と格差を論じるのですが、これを見ていると、なぜ免許の自主返納が減少傾向にあるのかとか、旅エッセイは女性が読むのかとか、日本の消費のベースとなる「事情」がわかります。
足立光さん、西口一希さん共著の『アフターコロナのマーケティング戦略』に、日本人が外出しなくなった実態が書かれていましたが、本書で示されるデータでも、それが確認できると思います。
『アフターコロナのマーケティング戦略』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4478111618
本書で示されるデータによれば、日本人の約3人に1人が、過去1年以内に居住都道府県以外に旅行していない。
そして平日の1日の移動にかかる平均費用は、年収300万円未満の人だと499円以下が半数以上。
この辺がわからないと、商売なんてわかるわけありませんよね。
本書自体は格差の実態や解消のための意見を述べたものですが、ビジネスパーソンはここから消費の現実を知り、サービス改善に役立てることができると思います。
アマゾンのレビュー欄は荒れているようですが、土井は面白い本だと思いました。
さっそく、本文の中から気になる部分を赤ペンチェックしてみましょう。
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私たちは一般的に1日あたり6000歩から7000歩ほど歩くと言われているが、これを積み重ねると、死ぬまでにおよそ2億歩も歩くことになる
事故の影響もあり、2019年には免許自主返納件数が過去最高に達した。ただし、実はその後、免許の自主返納件数は減少傾向にある
平日の移動目的は「通勤」が多く、休日は「買い物」などが多い
1954年から2023年にかけて市区町村間の移動者数は1970年から1975年頃をピークに減少し、2010年代以降も大きな拡大はみられない
日本では長年、東京圏への人口流入が大きな問題とされているが、長期的にみると1970年頃をピークに東京圏への転入者数は減少傾向にある
海外の高等教育機関へと留学する日本人学生数は2004年をピークに減少傾向
潜在的な移動可能性は資本となり、人々の移動格差を拡大させる
移動資本は”グラデーション”であり、中長期的にみれば、ある個人の中で増える可能性も、減る可能性もある
ある人の移動は、比較的モバイルではないほかの人々の存在を前提としている
いま世界には推定12億8600万人の国際観光客(宿泊客)がいる。さらに、観光産業は世界のGDPの9-10%を占めるほどになっている
約3人に1人が、過去1年以内に居住都道府県以外に旅行していない
娯楽目的の海外渡航経験がない人は、年収600万円以上の人で20.5&、年収300万-600万円未満の人で33.2%、年収300万円未満の人で46.3%という結果となった
性別ごとの海外に行きたかったけれど行けなかった経験がある回答者の割合は、男性が33.2%に対して、女性は45.0%であった
半数弱は自分を「自由に移動できない人間」だと思っている
3人に1人が、他人の移動を「羨ましい」と思っている
全国旅行支援・Go To トラベルは、「世帯年収が高い人たちほど、利用率が高い傾向があった」
「移動はアントレプレナーシップを高める」というより、「移動は”高度人材”のアントレプレナーシップを高める」
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ちょっとジェンダー平等や環境問題など、社会派に寄りすぎる傾向がありますが、示されたデータを読むだけでもビジネスや社会問題解決のヒントになると思います。
ぜひ、読んでみてください。
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『移動と階級』伊藤将人・著 講談社
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◆目次◆
はじめに
第1章 移動とは何か?
第2章 知られざる「移動格差」の実態
第3章 移動をめぐる「7つの論点」
第4章 格差解消に向けた「5つの観点と方策」
おわりに
主要参考文献
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