【バタイユ以来の衝撃】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4041146186
本日ご紹介する一冊は、第165回直木賞を受賞した、佐藤究さんの『テスカトリポカ』。
「テスカトリポカ」は、多神教のアステカ王国において信仰されていた強大な神の一つで、ナワトル語で「煙を吐く鏡」のこと。
災難や損失、そしてその克服を象徴する神であり、まさに現在に必要な「破壊」の象徴とも言える存在です。
本書では、麻薬カルテルと臓器売買という、一見異常で非人間的な世界を描きながら、それを鏡とし、現代社会の異常さと非人間的側面が浮き彫りになるよう、仕向けています。
金欲しさに平気で人を裏切る男、子どもたちの役に立ちたいと思いながら臓器売買に加担してしまうNPOの女性、生きる意味を知らず、ただぼんやり生きているだけの人間…。
人類に豊かさと幸福を約束したはずの資本主義の現実が映し出され、約680ページ、最後まで一気読みしてしまう面白さです。
麻薬カルテルの生き残りであるバルミロの祖母、リベルタが語るアステカの教えは、現代人に衝撃を与えるに違いありません。
以前紹介したバタイユの『呪われた部分 有用性の限界』が好きな方は、きっとハマるに違いありません。(本書にもバタイユの引用が出てきます)
『呪われた部分 有用性の限界』
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4480087478
興味深かったのは、時間を「帽子一つぶん」のように表す時間感覚の部分。
「安ければ安いほどいい」「コスパ」「タイパ」などと言っている現代人には、想像もつかない新鮮な価値観が描かれており、生き方や消費について考えさせられる内容です。
「ひたすら稼ぎ、ひたすら貯めて老後を待つ」生き方が当たり前とされる現代人に、衝撃を与える一冊だと思います。
小説ではありますが、生き方を問う自己啓発書として、ぜひご紹介したい一冊です。
さっそく、本文の中から気になる部分を赤ペンチェックしてみましょう。
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人はみずから望んだものに傷つけられる
そう、メキシコシティさ。昔はあの場所に、<テノチティトラン>という夢みたいな美しい都があったんだよ。何もかも奪われたのさ。それでもアステカは、征服者のものにはならなかった。連中はアステカの怖ろしい神々を怒らせたよ。白人の文明に取りこまれたふりをして、アステカの神々は奴らのはらわたを食いちぎり、首を切り落として回っているんだよ。麻薬戦争は終わらないだろう? あれは呪いなのさ。
湖の上にいくつもの神殿があって、神々と王、神官、貴族、戦士、商人、捕虜、奴隷が暮らしていた。テノチティトランには、農民は住んでいなかったね。どういうことかわかるかい? 今の大都会と同じさ。何十万人も暮らしていて、外国の民族も商売でやってくるから、都では農業以外の仕事でみんなが暮らしていけたんだよ。それほどアステカは豊かで、大きな国だったのさ」
恐がる必要はないんだよ。いけにえは人間の生きる世界を支えたのさ。魂は天に還って、残った体は抜け殻でしかないんだよ
多少の悪い影響はあるかもしれないが、でも知識ってのは、おしなべてそういうものだ。化学の実験だって悪用すれば人殺しの知識に変わる。つまり、許容範囲を守るってことが大切なんだ
人間は危機に直面すると、生き延びるために態度を変え、あたかも成長したような行動力を見せたりもする。そして、ひとたび危機を脱したと見れば、あえなく過去の自分に戻っていく
「『それを持ち、それを持たぬ』」とリベルタは言った。「胸に宿った聖なる心臓を、ぼんやりと運んでいるってことさ。自分が何をしているのか知らず、生きる意味を知らず、ただ遊び歩いているばか者ということだよ」
「何度も言うけれど、大事なのは死にかたさ」リベルタはコパリの香煙のなかで言った。「おまえたちがどんなふうに命を使いきるのか、それが大切だよ」
いくら用意周到に計画したところで、どこかで賭けに巻きこまれるのは避けられない。人生ってのはそういうものだろう?
泣きわめかずに命を差しだせる奴とは今後に組む価値がある
「おまえの感覚は正しい」とバルミロは言った。「おれの祖母も同じだった。遠くの町へ出かけるとき、彼女はよく『帽子一つぶんかかる』とか『帽子二つぶんだね』と言ったものだ。時間が帽子の形になって目に見えているのさ。帽子を編むのにかかる時間が、すなわち帽子に宿る神のことだ。帽子の形はもともと神の住む世界にあったもので、それが人の手仕事を通して外に出てくる。帽子にも神が宿っている。それがアステカの時間だ。物はたんなる材料の組み合わせではない。そこにも神々の秩序がある(以下略)」
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麻薬密売、臓器売買といった異常な世界を垣間見ながら、それが鏡となって現代社会の異常さがかえって浮き彫りになるという内容。
現在の資本主義の仕組みのなかでは、善良と無知があいまった結果、NPOの矢鈴のように、悪に加担してしまう人もいるかもしれません。
アステカのこれまた異常な生贄の話を通して、命の使い方について考えさせられる本です。
ぜひ、読んでみてください。
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『テスカトリポカ』佐藤究・著 KADOKAWA
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◆目次◆
I 顔と心臓
II 麻薬密売人と医師
III 断頭台
IV 夜と風
暦にない日
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