2019年10月21日

『補給戦ー何が勝敗を決定するのか』マーチン・ファン・クレフェルト・著 佐藤佐三郎・訳 vol.5380

【「補給」を学ばずして勝利はない】
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情報化社会になって、ネット上ではさまざまな「意見」「思いつき」が飛び交っていますが、それが何に根ざしているのかは疑わしい。

その弊害からか、『ファクトフルネス』という本が売れています。

※参考:『FACTFULNESS ファクトフルネス』
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意見よりは、事実(ファクト)が大事。わかります。

でも、もっと大事なのは、「実際」なのではないでしょうか。

なぜなら、事実を論理でつないでみても、「実際」とは程遠いことがあるからです。

戦略の人間が間違うのは、物流や人間を始めとした「オペレーション」であることが多い。

先日、台風19号が襲来したことで、日本人の多くは食料品を買い込み、一日中、家や避難所にこもっていたと思いますが、あれが1週間、あるいは1カ月続いたらどうでしょうか。

「セブン-イレブンがそのうち補給してくれるから」という認識でいるとしたら、それはビジネスパーソンとして若干問題がある。

やはり、仕組みを知り、仕組みのリスクを知ることで、ビジネスであれ投資であれ、有事に、正しい行動を取ることができるのです。

戦争研究においては、「兵站(へいたん)」という分野がありますが、これをわかりやすい言葉で言うと「補給」です。

本日ご紹介する一冊は、戦争におけるこの「補給」の重要性について論じた、兵站論の名著。

著者のマーチン・ファン・クレフェルトは、世界的に名高いエルサレムのヘブライ大学で学んだ後、ロンドン大学経済政治学学院で博士号を取得した人物。

本書では、ナポレオン戦争から第二次世界大戦のノルマンディ上陸作戦に至るまでの代表的な戦闘を、「補給」という観点から徹底的に分析しており、戦略立案者として欠かせない実際的な視点を手に入れることができます。

さっそく、内容をチェックして行きましょう。

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戦略は政治と同じく可能性の技術だといわれている。しかしながら可能性なるものは、単に量的な力とか思想、情報、兵器あるいは戦術によって決定されるばかりではなく、まずもって峻厳なる現実によって決定される。すなわち必需品とか調達可能な補給品、組織や管理、輸送、通信線についての諸現実によって決定されるのである

司令官が作戦行動とか戦闘発起、前進、浸透、包囲、せん滅、消耗など、要するに長々と続く全戦略の実行を頭に描き始める以前に、彼にはしなければならないし当然すべき事柄がある。それは麾下の兵卒に対して、それなくしては兵として生きられない一日当たり三〇〇〇キロカロリーを補給できるかどうか、自分の才能を確かめることである

当時の司令官のうちで、ナッソー伯マウリッツほど水路の利点をうまく利用した人はいない──逆に言えば、水路を利用することなしに作戦行動することがいかに難しいかを、彼ほど悟った者はいなかった。マウリッツは砲兵隊を東から西へ、あるいは西から東へと大河──マース川、ライン川、レック川、ワール川──に沿って急速に水上輸送することによって、あるいはフランドルに現われ、あるいはゲルダーラントに出現し、常にスペインの要塞を守備隊が防御の準備をする前に襲撃して、彼等を何度も奇襲するのに成功した。しかしながらマウリッツはひとたび河川をはずれると敗北した

マウリッツ軍の作戦行動は農作物のシーズンのずっと前に開始された。六月二〇日マース川を渡った直後、ブラバント地方の穀物がするほど実っていないことがわかった

騎兵は常に一ヵ所に長く駐留すると食糧がなくなる最初の軍隊だった

チュレンヌ軍が調達をほとんど完全に現地に依存した唯一の品目は、通常みられるごとくまぐさであり、この品物の不足は少しでも長期の包囲を必要とするときは、いつでも表面化した

今も昔も分散は奇襲攻撃の基本的要素であった

現地徴発が戦略の基本

国境を要塞化するかわりに(ナポレオンはそれを愚かなことだとみていた。なぜならば兵站部と兵器製造の中心地を敵にさらすことになるからである)、後方の奥深く、できれば首都の周辺に要塞を置くべきだった。そのような条件下で包囲戦を行なえば、ドイツ軍が──鉄道があったにもかかわらず──一八七〇年ひどい目に遭ったように、必然的に兵站上の困難を引き起こすであろう

「直接的」徴発が軍隊と士気と規律に悪影響を及ぼすことを完全に知っていたために、ナポレオンはできるだけそのような手段を避けようと努めた

精妙に作られた近代兵器は、それ自身の特別の弾薬と部品とを必要とする

知性だけがすべてではない

機構の中の摩擦──人間であれ機械であれ──は、その部品が多くなればなるほど増す

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テニスで勝つのは、華麗なサーブやスマッシュを入れるプレイヤーではありません。

「相手のコートに一球でも多く返した方が勝つ」のです。

競合と戦った時に、粘り勝ちするのは、「根性」もありますが、それ以上に「仕組み」によるところが大きい。

どうすれば、勝つための資源を供給し続けることができるのか。どうすれば敵よりも速く、遠くに行けるのか。「補給」がカギを握っていることは間違いありません。

本書は、歴史上の名参謀たちがどうやってこの「補給」の問題に取り組んだか、その歴史をつづったものです。

かなり読み応えのある内容ですが、それだけの見返りは確実にあると断言できます。

ぜひ、読んでみてください。

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『補給戦ー何が勝敗を決定するのか』マーチン・ファン・クレフェルト・著
佐藤佐三郎・訳 中央公論新社 

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◆目次◆

序 章 戦史家の怠慢
第一章 一六~一七世紀の略奪戦争
第二章 軍事の天才ナポレオンと補給
第三章 鉄道全盛時代のモルトケ戦略
第四章 壮大な計画と貧弱な輸送と
第五章 自動車時代とヒットラーの失敗
第六章 ロンメルは名将だったか
第七章 主計兵による戦争
第八章 知性だけがすべてではない
訳者あとがき
マーチン・ファン・クレフェルトとその戦争観
人名索引

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