【オリンピック後の「東京劣化」懸念とは?】
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本日の一冊は、政策研究大学院大学名誉教授であり、国際都市研究学院理事長も務める松谷明彦氏が、人口減少社会の経済について述べた、興味深い一冊。
都市への一極集中、地方劣化の議論とはまったく異なる視点で、迫り来る「東京劣化」の現実を浮き彫りにしており、東京で商売している方、不動産を保有している方は、必読の内容です。
本書によると、人口減少高齢社会にはしてはいけないこと、つまり「タブー」があり、それは以下の3つだそうです。
・少子化対策
・経済成長の追求
・増税による財政再建
これら3つは、現在の政権がやっていることそのものであり、本書にはなぜこの3つが将来に遺恨を残すのか、その理由が説明されています。
少子化対策が財政を破綻させる可能性が高いこと、国内余剰労働力、外国人労働力の活用がかえって成長率を低下させる可能性があること、増税よりも財政規模縮小の方が理にかなっていることなどを挙げ、このまま進んだ場合、日本経済にどんなことが起こるのか、その時東京と地方に何が起こるのか、シミュレーションしています。
著者によると、確かに今後、地方の人口は減るのですが、死亡者の大部分が高齢者であるため、財政難に陥る可能性は少ない。
反対に、東京は「人口がさほど減らないのに、高齢者だけは急激に増加する」という人口構造の急激な「悪化」に直面し、最悪インフラが維持できずスラム化する、というのです。
以下、ポイントだけまとめておきましょう。
・東京では高齢者が三〇年間で一四三・八万人増える
・二〇四〇年の東京における高齢者数は四一一・八万人
・適切な維持更新ができないインフラが年々増加して、東京の街がスラムと化すおそれが出てくる
もちろん、かなりロングスパンの議論であり、われわれが現役のうちに起こることはこのうちの一部ですが、知っておいて損はないでしょう。
これからのビジネス、資産形成、住まいを考える上で、ぜひ読んでおきたい一冊です。
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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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二五~三九歳の女性人口は、当然のことだが、すでに二五年も先まで確定しており、わずか四半世紀で三七・一%もの減少である。その大幅に少なくなった女性が次の世代を産むのだから、半世紀でその年代の女性人口が五五・一%減少するという「社人研」(国立社会保障・人口問題研究所)の推計は、当然の帰結と言える
およそ福祉政策というものは、少数の気の毒な人を世の全員でサポートするからこそ、持続可能性を持つのである
国内余剰労働力や外国人労働力の活用については、そうした未熟練労働力や相対的に非能率な労働力の導入は労働生産性の低下要因となり、かえって成長率を低下させる可能性がある
長寿化は人々を確実に貧しくさせる。寿命が伸びるほどに、労働可能期間は伸びないからである
大都市の企業や工場の進出は、地場産業を確実に衰退させる。その結果、地方の生産性は再配置前よりかえって低くなり、一方、大都市では、低生産性の部分が転出したことで、平均生産性が上昇する
地方に存在し、大都市に比べても優位性を持つリソースとは何だろう。筆者は、「高度な職人技」ではないか
近年、米が生産過剰となり、農家は野菜や果物の生産にシフトしているが、野菜や果物は少量多品種の作物であるため、販売に当たっては、どうしても広域的な流通業への依存度は高くなる。したがってそれらの作物から生ずる付加価値のうち農村に落ちる割合はかなり小さなものにならざるを得ない。だから、多量少品種である小麦や大豆の生産を拡大すべきなのである
今後は日本全体の貯蓄が縮小するのだから、東京が使える貯蓄も縮小する可能性が高い。そうなると適切な維持更新ができないインフラが年々増加して、東京の街がスラムと化すおそれが出てくる
東京圏の成長率は二〇二五年まではおおむね今の状態が続きますが、その後急速に低下する
社人研の推計では、二〇四〇年の東京における高齢者数は四一一・八万人
既婚女性の出生率が安定してからは、出生率に最も影響するのは婚姻率
東京は世界の情報が集まらない「田舎の都市」
アメリカでは研究者・技術者の半分は外国人、ヨーロッパでも研究者・技術者の三分の一は外国人といわれます。しかし、いまだに日本だけは、世界の優れた人材を招こうとせず、日本人だけで研究・開発を進めようとします
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『東京劣化』松谷明彦・著 PHP研究所
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◆目次◆
序章
第一章 東京 これからの現実
第二章 東京劣化現象への誤解
第三章 これからの東京の経済
第四章 なぜ政府は間違えるのか──人口政策の歴史が教えてくれること
第五章 東京劣化への対処 今できること
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