【祝・10周年】
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本日の一冊は、世界の歴史を動かし、国家隆盛/衰退の原因ともなった「塩」の歴史を概観した一冊。
本書によると、われわれが生きる上で、ナトリウムは欠かせません。(塩は塩化ナトリウム)
<ナトリウムは消化と発汗に欠かせない。体内で作ることができないナトリウムなしには人体は栄養分や酸素を運ぶことも神経インパルスを伝えることもできず、また心臓をはじめとする筋肉を動かすこともできない>
誰もが必要とする物質だけに、この物質は政策の肝となり、税の対象となったり、軍費捻出の道具となったり、国家衰亡のきっかけとなったりしました。
それはもちろん、商売人にとっても大きなビジネスチャンスになったということです。
本書には、そんなドラマチックな「塩の歴史」が書かれており、リーダーが国や組織を治める上で、欠かせない視点が盛り込まれています。
うんちくとしても興味深く、塩が「サラリー」「ソルジャー(兵士)」の語源になった話、製塩技術がアメリカの特許第一号だという話などは、知っておくと雑談が盛り上がるかもしれません。
<ローマ軍は兵、馬、家畜のための塩を要求した。兵の給料が塩で支払われることすらあったが、これは「サラリー」の語源であり、「給料だけの働きがある」とか「食いぶちを稼ぐ」といった表現のもとでもある。ラテン語の「サル」は変化してフランス語で支払いを意味する「ソルド」となり、「兵士(Soldier)」という単語も生み出している>
<エリザベス女王同様、マサチューセッツも安価な製塩技術を持つ者に独占権を与えることで製塩を奨励した。同州はサミュエル・ウィンスローに、十年にわたり独占的に独自の方法で製塩する許可を与えた。これがアメリカの特許第一号だと思われる>
BBMの十周年を飾るにふさわしい教養の一冊。
ぜひ買って読んでみてください。
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▼ 本日の赤ペンチェック ▼
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管仲の提案の一つに、塩の値段を買値より高くすることで、国家は輸入した塩から利益を得ることができる、というものがある
地中海の覇権をめぐり、フェニキアの植民地カルタゴとのあいだにポエニ戦争(紀元前二六四~前一四六年の間に計三回)が起こった。一世紀を越えて繰り広げられた死闘のあいだ、ローマは軍資金を得るために塩の価格を操作している。ローマ政府は中国の皇帝と同じやり方で塩に人為的に高価格をつけ、あがった利益を軍事費に投入したのだ
ヴェネツィアは大発見をしたのである。塩を作るよりも、塩を売り買いする方が金になる、ということだ。一二八一年から、政府はほかの地域から塩を持ち込んだ商人に補助金を出すようになった。その結果、塩の運搬はもうかる仕事となり、塩を運ぶ商人はライバルよりも安価でほかの品物を売ることができるようになった
イギリス人もオランダ人もフランス人も、塩を探した。この魔法の万能薬を見つけさえすれば、魚があふれる北アメリカの海を無尽蔵の宝物庫に変えることができるのだ
フランスの塩税「ガベル」は明らかにフランス王政の欠陥を示していた。ガベルに関する議論は、貧者も金持ちも塩を必要とするのだから、塩税は万人に均等にかかる人頭税と同じというものだった。歴史を通じ、もっとも貧しい農民にも富める貴族にも同額を課す人頭税は、忌み嫌われるものだった
ジョージ・ワシントンからナポレオンまで多くの将軍が思い知らされたように、塩を持たずに戦争におもむくのは絶望的状況である。ナポレオンがロシアから退却したときには、何千という兵士が軽傷がもとで死んでいる。消毒用の塩が足りなかったからである。塩は医療や日々の糧食のためだけに必要なのではなく、騎兵の馬、武器・装備を運ぶ役馬、そして食用の家畜をやしなうためにも必要なのだ
価格、品質両面で、リヴァプールの塩はオリッサの塩に対抗できなかった。一七九〇年、イギリスはオリッサ産のすべての塩の買い上げ許可を求めたが、オリッサのマラータ族の総督ラグジ・ボンスラは拒否した。イギリス産の塩の価格を操作して高くするために、オリッサの塩を排除しようとしていることを見抜いたのだ。一方、拒否されたイギリス側は、ベンガル地方でのオリッサの塩の販売を禁止してしまう
インド国民会議と独立運動を大衆運動へと導いたのはガンディーである。そして独立達成の主たる手段がソルト・サティヤグラハ、すなわち「塩の行進」だった
塩の摂取量は、世界的に減少傾向にある。ヨーロッパでは、二十世紀の塩の摂取量は十九世紀のほぼ半分になっている
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『塩の世界史(上)』マーク・カーランスキー・著 中央公論新社
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『塩の世界史(下)』マーク・カーランスキー・著 中央公論新社
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◆目次◆
第一部 塩、死体、そしてピリッとしたソースにまつわる議論
第二部 ニシンのかがやきと征服の香り
第三部 ナトリウムの完璧な融合
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