2024年9月18日

『蔦屋重三郎と田沼時代の謎』安藤優一郎・著 vol.6564

【江戸のメディア王・蔦屋重三郎の真実】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/456985740X

本日ご紹介する一冊は、2025年の大河ドラマの主人公であり、江戸のメディア王、天才プロデューサー、蔦屋重三郎を扱った一冊。

書店・貸本屋からスタートし、遊女評判記『一目千本』『吉原細見』を出版、その後も黄表紙、狂歌本、浮世絵などでヒットを連発、浮世絵では喜多川歌麿、東洲斎写楽をプロデュースした天才が、なぜ田沼意次の時代に生まれたのか、その秘密に迫った力作です。

「はじめに」から、当時の雰囲気を感じられる部分を抜き出してみましょう。

<重三郎が活躍した時代は、田沼意次が幕政を主導したことにより田沼時代と呼ばれた。社会の引き締めがはかられた享保改革と寛政改革の時代に挟まれた二十年ほどの期間で、割合自由な雰囲気のなか、経済が著しく発展する。華やかで享楽的な時代であり、そんな社会の余裕を背景に文化も発展した。その舞台は百万都市の江戸だった>

類書では、蔦屋重三郎の天才性にフォーカスしたものが多いですが、本書では、ライバルであった鱗形屋の失敗、そして蔦屋重三郎が活躍できた「時代」にフォーカスして、冷静な分析を加えています。

著者の安藤優一郎氏は、歴史家であり、早稲田大学を卒業した文学博士。「JR東日本・大人の休日倶楽部」など生涯学習講座の講師も務めています。

巻末の参考文献リストを見るとわかるように、よく調べて書いているのと、目線が面白い。

時代を冷静に見つめる視点や、ビジネス目線が生きており、歴史書であると同時に、ビジネスノンフィクションとしても楽しめる一冊です。

リスクの少ない商売から始め、敵がしくじると見るや勝負に出る、そんな重三郎のしたたかさや強運ぶりが見え隠れする、興味深い内容です。

また、ヒットを連発したイメージのある蔦屋重三郎ですが、じつはヒットになる背景がしっかりあったこと、人気作家を横取りしたこと、最初から歌麿の才能を見抜けていたわけではなかったことなど、リアルなところが書かれていてじつに痛快な内容でした。

時代が天才を生むこと、そしてその天才も時代が変わり、為政者が変われば不遇な目に遭うということも、本書から伝わってきます。

コンテンツでヒットを出したい人はもちろん、時代を読む目を養いたいビジネスパーソン、投資家にとっても興味深い内容だと思います。

2025年の大河ドラマの副読本として、ぜひ読むことをおすすめします。

さっそく、本文の中から気になる部分を赤ペンチェックしてみましょう。

—————————-

意次はそれまでの幕政の原則に捉われず、自由な発想のもと幕政に臨んだ。年貢米に依存する従来の財政構造の限界に直面していた幕府にとり、年貢米以外の財政確保は焦眉の課題だった。そこで登場したのが運上・冥加金である。幕府は商工業者からの申請を受けて株仲間という同業者組合を公認し、運上・冥加金を徴収した。株仲間に営業を独占させる代わりに営業税を賦課し、これを歳入に組み込んだが、意次は江戸経済の発展を踏まえて商業活動への課税を強化した。外国貿易の拡大や蝦夷地開発に象徴される新規事業にも積極的だった

吉原のガイドブックの販売を開始した重三郎は、翌安永三年(一七七四)になると鱗形屋孫兵衛版「吉原細見」の改め役を委託される。最新の情報を「吉原細見」に盛り込む役割を任されたわけだ

鱗形屋は手代が起こした重板事件で処罰されたことで、大きなダメージを受ける。出版物の売り上げが減り、経営は不安定となった。この年の秋刊行予定の「吉原細見」も刊行できなくなる。重三郎はその間隙を突く形で、「吉原細見」の出版に乗り出す

老中は政治向きについての決裁を仰ぐ際、直接将軍には拝謁できないシステムとなっていたのである。しかし、老中と側用人を同一人物が務めれば、思いのままに政治を動かすことは可能であった。老中に昇任したした意次は、側用人としての職務も家治から許されることで、政治の全権を握った。まさに将軍から受けた絶大な信任の賜物だった

意次は産物の国産化による金銀の国外流出防止だけでなく、国内産の金銀を増やすための鉱山の開発にも熱心だった

巻き返しをはかる鱗形屋は黄表紙を次々と出版する。だが、結局経営を立て直せないまま江戸の出版界から退場する。そんな鱗形屋と入れ替わるように、喜三二や春町の黄表紙を出版し、二人を自身の専属作家のような立ち位置とすることに成功したのが、重三郎だった

狂歌師と浮世絵師をコラボさせることで狂歌絵本を誕生させた

狂歌絵本などの挿絵を数多く描かせることで、歌麿の画才を磨く戦略を取る

一罰百戒の効果を狙って、江戸の出版界をリードする蔦屋重三郎を処罰した。成り上がり者の重三郎からすると、出る杭を打たれた格好だった。出版界は萎縮し、冬の時代に突入していく。しかし、すべてのジャンルが冬の時代だったわけではない。活況を呈したジャンルもあった。学術書や教訓を説く出版物の需要は高まっていたのである

—————————-

主人公である蔦屋重三郎はもちろん、田沼意次に対する見方が変わる、興味深い内容です。

とかくイメージの悪い田沼意次ですが、本書を読めば、ちょっとイメージが変わると思います。

自由を謳歌した時代が終わり、引き締めムードになっている現在だからこそ、響くものがあると思います。

ぜひ、読んでみてください。

———————————————–

『蔦屋重三郎と田沼時代の謎』安藤優一郎・著 PHP研究所

<Amazon.co.jpで購入する>
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/456985740X

<Kindleで購入する>
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/B0D91TL3LH

———————————————–
◆目次◆

はじめに 泰平の世に現われた江戸の風雲児
第一章 蔦屋重三郎とは、何者だったのか?
第二章 蔦屋重三郎が活躍した田沼時代とは?
第三章 蔦屋重三郎が世に送り出した文化人にはどんな人物がいたのか?
第四章 なぜ田沼時代は終わってしまったのか?
第五章 松平定信はなぜ蔦屋重三郎を処罰したのか?
第六章 なぜ蔦屋重三郎は東洲斎写楽を売り出したのか?
おわりに
蔦屋重三郎関係年表
参考文献

この書評に関連度が高い書評

この書籍に関するTwitterでのコメント

NEWS

RSS

お知らせはまだありません。

過去のアーカイブ

カレンダー