2017年3月24日

『ベストセラーコード』 ジョディ・アーチャー、マシュー・ジョッカーズ・著 vol.4629

【「売れる文章」がわかる驚異のアルゴリズムとは?】
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本日ご紹介する一冊は、テキスト・マイニングの最新技術を駆使して、ベストセラーの秘密に迫った、アメリカ文學界騒然の注目作。

今後、あらゆるビジネス分野で「売れる人の秘密」が明らかになると思われますが、まさかそれが小説でなされるとは。

本書では、ニューヨーク・タイムズのベストセラーリストをもとに、ヒット小説500冊と売れていない小説4500冊、計5000冊を分析、売れる本に隠された「秘密」を明らかにしています。

著者らが使った「ベストセラーメーター」は、これらの小説がニューヨーク・タイムズのベストセラーリストに載る可能性を約80%の確率で当てました。

本書では、その分析のもとになった要素を各章に配分し、詳しい分析結果を紹介しています。

2章では、売れるトピックの分析。コンピューターが示したのは、3つか4つの中心的なテーマが全体の30%を占める本が売れるということ。

直感に反して、「セックス」「ドラッグ」「ロックンロール」は売れず、むしろ「セックス」は非ベストセラーの方に2倍多く出てくることがわかっています。

2章では、ジャンルよりもトピックが重要であることや、一作品におけるトピックのバランスが重要であることが指摘され、なかでも<2番目以降のトピックは現状を脅かすような衝突を示すものがいい>というアドバイスが有用でした。

著者によると、ベストセラー作家は、「子どもと銃」「信仰とセックス」「愛とヴァンパイア」などのトピックを抜かりなく入れており、いずれも実際に売れているようです。

3章では、売れるプロットラインの「型」を7つ紹介しており、ベストセラーを狙う方なら、思わず本書を隠したくなってしまうはずです。

4章では文体、5章では登場人物とその人の動きをあらわす動詞の関係が述べられており、売れている作家がどのような主人公を選んでいるのか、どんな文体・動詞を使っているのかが一目瞭然です。

ダニエル・スティールとジョン・グリシャムに共通することは何なのか、本好きなら、大興奮して読むことになるでしょう。

興奮のあまり、思わず前置きが長くなってしまいましたが、さっそく、気になるポイントを見て行きましょう。

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スティールとグリシャムの全著作に含まれるトピックをコンピューターに計算させると、ふたりが「知っていることを書け」という鉄則を守っていることがわかる。野球選手を夢見たものの、結局弁護士になった作家がいちばんよく書くテーマは「弁護士と法律」で、次が「アメリカのチームスポーツ」となっている。5回結婚し、9人の子どもを育て、そのうちひとりを失った経験を持つスティールがよく書くのは、「家庭生活」「愛」「母親としての役割」だ

グリシャムは、本全体のおおむね3分の1を、法律に関することで埋めており、同様にスティールは全ページの約3分の1を家庭生活、もっとはっきりと言えば「家のなかで過ごす時間」について書いている

ふたりのベストセラー作家がわたしたちに教えてくれるのは、読者をひきつける大きなトピックがあるということ、それから、2番目以降のトピックは現状を脅かすような衝突を示すものがいいということだ

売れるトピックの例をいくつかあげた。なかでもいちばん重要なのは「親密な関係」だ

最初の40ページで読者の心をつかまなければならない

プロット5を採用する恋愛小説家は多い。その場合、まんなかの盛りあがり地点で最初のラブシーンを配し、その後プロットを暗転させてふたりを引き裂き、最後に関係を修復させてハッピーエンドとなる

最高のオープニングとは、純文学だろうが娯楽小説だろうが関係なく、300ページの物語がはらむ対立のすべてを20ワード以下の一文に盛りこんだものだ

売れる本の何たるかを熟知しているキングは、読者をいきなり人間同士の対立に放り込む。冒頭のたった6語で、いがみ合うふたりの登場が予想されるのだ

最初の一文はつかみであり、つかみには声と対立が欠かせない。そして、それらを生みだせるかどうかは、言葉の選択と構文にかかっている

n’tという縮約形は、ベストセラーでは4倍多く使われている

ベストセラーの登場人物はよく質問をするので、疑問符が多くなる。ところが、感嘆符は逆で、ベストセラーにとってはマイナス要素となるようだ

ベストセラーを予測するときには、need(必要とする)という動詞がもっとも重要

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本書には、要素別にアルゴリズムが選んだ「売れる(はずの)小説」のリストが紹介されているのですが、これがいずれも秀逸な作品で、未来の選書は、コンピュータがすることになるのかもしれない、と思わせる内容でした。

もしこの技術がもっと進化したら、無名の作家の作品がどれだけヒットするかが予測できることになり、出版ビジネスは大きく変貌を遂げるでしょう。

……と、さんざん持ち上げながら、じつは本書の批判を考えていたのですが、それは統計家・西内啓さんの「解説」でバッチリ指摘されていたので、それをご紹介して書評を終えましょう。

1つめは、本書で示された結果はすべて、あくまでアメリカの小説市場に関するものである、という点。

2つめは、多くのデータ分析による知見は、「現状がこのまま続くとして」という仮定が成立するという前提でのみ役に立つということ。

そして最後の3つめは、本書で用いられている分析手法が、因果関係の洞察という点では不十分であるということです。

西内さんによれば、「企画を立てる」「文体や構成を直す」というアクションにつなげようとするなら、もっと違う手法の方が正確な判断につながる、とのことでした。

とはいえ、ベストセラーの「秘密」に迫った本書には、われわれがヒット商品を作る上で考慮すべき点がひと通り盛り込まれており、じつに勉強になりました。

そして何より、知的好奇心を刺激する内容で、今日一日はこの本を読むためにあったのではないかと思うほど、没頭したことをお伝えしておきます。

出版業界の方、ベストセラーを狙う方は、必読。

商品開発に携わる方にとっても、示唆に富む内容だと思います。

ぜひ、読んでみてください。

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『ベストセラーコード』
ジョディ・アーチャー、マシュー・ジョッカーズ・著 日経BP社

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◆目次◆

第1章 ベストセラーメーター
    テキスト・マイニングは出版を変えるか
第2章 代父母(ゴッドペアレンツ)日常の何気ない時間を大切にする
    アルゴリズムが選んだトップ10[テーマ部門]
第3章 センセーション 完璧なカーブをどうやってつくるか
    アルゴリズムが選んだトップ10[プロット部門]
第4章 デビュー 句読点は語る
    アルゴリズムが選んだトップ10[文体部門]
第5章 ノワール 「ガール」は何を求めているのか
    アルゴリズムが選んだトップ10[キャラクター部門]
第6章 1冊を選ぶ アルゴリズムがウィンクするとき
    アルゴリズムが選んだトップ100[総合部門]
エピローグ 機械が小説を書く なぜ作家でなければだめなのか
追記ーー手法について
解説 西内啓(統計家)

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