【東大卒のエリートが雑木林で暮らす理由】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4495533215
経営者、それもビジネス書の仕事をしていると、自分でも知らぬ間にどっぷりと資本主義思想に染まってしまうわけですが、時折、ガス抜きのために、資本主義から離れることを心掛けています。
ほとんどのモノは不要で、ほとんどのモノは元々タダであることを認識することで、本当に必要なモノに気づけるからです。
そこで読んでみたのが、『僕はなぜ小屋で暮らすようになったか』。
東京大学哲学科を卒業し、慶応義塾大学大学院の哲学科博士課程を単位取得退学した著者による、注目の一冊です。
著者は山梨の雑木林に土地を購入し、小屋を建ててシンプルライフを始めた人物で、その後神奈川の河川敷に土地を購入し、テントで生活をしています。
本書には、エリートだった著者がどうして現在の生活に至ったか、その思索の過程が書かれており、現在の生活を見直すのに、最適の一冊です。
本格的に中身を見る前に、本書の中から資本主義の本質を説明した部分を抜き出してみましょう。
<現代日本人のやることは大抵、資本に基づいた生産である。自分がどう生きるかを決める前に、すでに世の中全体が資本と再生産という大きな流れを形成していて、個人がそれに逆らうことは容易ではない>
<僕は、イデオロギー云々以前に「資本」という考え方が嫌いである。お金や物、知識などの、広い意味での初期投資や維持費は、何も生産していない段階では事実上の借金であるから、それを取り戻して、さらにより多くの余剰価値を得るために奮闘しなければならない。そうすると、毎日がマイナスから始まることになる>
本書には他にも、現在のシステムの弊害が書かれており、読むことで、より負荷の少ない生き方を知ることができます。
さっそくその思想・メソッドを見て行きましょう。
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「ホンモノ」であるためには、あらゆる付加的な動機を取り払ってもなお、自分の存在単独で「それ」に興味がなければならなかった。他人の承認を欲したり、社会の中で生きてゆくためにすることなど、以ってのほかだった
「説明」とは、なんと面倒くさいものだろうか。社会に出るということは、こういった対外的な「説明」を延々とし続けることなのではないだろうか。そんなのは耐えられそうにない。もっと自由でありたい。もっと身軽でありたい
自分は記号的に世界を理解するよう訓練されてきたせいで、記号と記号の狭間にある世界を見ていないのではないか、いやそれどころか、リアルな世界そのものをまるで知らないのではないかという劣等感すら感じていた
山小屋の「一人の時間」はそれとは少し異なる。部屋に鍵をかけ、外界を遮断して一人になるのではなく、外界とつながったままにして一人なのだ。雑事を締め出し、雑念を追い払い、ようやく作り上げるかりそめの一人の時間ではなく、全体性を持った本物の一人の時間である。この全体性こそ、わざわざ実際に土地を買って小屋を建てて、自分の生活そのものを捧げてまで欲しかったものである
現代日本人のやることは大抵、資本に基づいた生産である。自分がどう生きるかを決める前に、すでに世の中全体が資本と再生産という大きな流れを形成していて、個人がそれに逆らうことは容易ではない
僕は、イデオロギー云々以前に「資本」という考え方が嫌いである。お金や物、知識などの、広い意味での初期投資や維持費は、何も生産していない段階では事実上の借金であるから、それを取り戻して、さらにより多くの余剰価値を得るために奮闘しなければならない。そうすると、毎日がマイナスから始まることになる
安定も欲しいが自由も欲しい。そういうわがままを叶えるためには、やはり極力シンプルに生きるしかないのだと思う
死の観念にとって他人というのは存在しないのであり、他人と心を響き合わせることを前提とした生活を続けてゆくことは、死の観念を追いやることに等しい。そうすると、全人格として生きられなくなり、自分がピエロのように感じ、だんだん疲れてくる。そういうときは、人の和、人の愛、人の絆こそが、自分を拘束する最も憂鬱な足枷となる
射幸心が事実や真実に対する誠実さを追い抜いてしまえば、都合のいい事実認識に基づいた偽りの幸せしか得られない
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現在の生活をめぐる議論は、ワークかライフか、仕事か家庭かを中心になされていますが、本書はそれ以外の論点、一人で過ごす自由について書かれています。
議論の内容が知的かつ本質的で、じつに良い刺激になりました。
ぜひ読んでみてください。
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『僕はなぜ小屋で暮らすようになったか』高村友也・著 同文舘出版
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4495533215
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◆目次◆
第1章 無縁、無常、何もない家 ──河川敷のテント暮らし
第2章 死の観念、人生、私的体験 ──少年時代 一
第3章 愛、信頼、自由 ──少年時代 二
第4章 不純さ、ホンモノ病、羞恥心 ──高校時代
第5章 喪失、哲学、真理 ──大学時代
第6章 人格の二重性、過去との断絶、憎悪 ──大学院時代
第7章 自分自身であること ──路上生活
第8章 孤独、私的生きにくさ、自我 ──雑木林の小屋暮らし
エピローグ 再び河川敷より
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