2024年11月14日

『観光消滅』佐滝剛弘・著 vol.6602

【日本のインバウンドはどうあるべきか】
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本日ご紹介する一冊は、現行のインバウンドビジネスの問題点を専門家が列挙し、日本の観光政策の問題点を指摘した警告の書。

著者は、NHKのディレクターとして、「クローズアップ現代」などの番組制作に携わった後、高崎経済大学、京都光華女子大学を経て、城西国際大学観光学部教授を務める佐滝剛弘氏です。

現場で見た観光ビジネスの問題点、データから明らかになった現状のインバウンド客の傾向、サービスを提供し続ける上でのボトルネック…。

現在の日本のインバウンドビジネスをあらゆる視点から検証し、諸外国との比較も含め、日本の現状を浮き彫りにしています。

論点の多くは、既にXなどで有識者たちがコメントしていることですが、日本人が海外に旅行しなくなったことの問題点や外資系ラグジュアリーホテルが乱立することのリスク、人手不足や気候変動が与える影響、さらには二重価格問題の検証など、専門家ならではの分析を加えていて、読み応えがあります。

地域のどこが潤っているのか、どこがオーバーツーリズムで問題を抱えているのかなどがデータで明示されており、地方自治体のトップや公務員は、ぜひ読んでおくといいと思います。

基本、ジャーナリスティックな視点で書かれており、インバウンドで儲けたい経営者が読むにはビジネス視点が足りませんが、それでもデータを知っておくことで、これまでとは違った商売の糸口が見えてくると思います。

特に、コロナが明けてからのデータが面白く、2019年と2023年を比較したデータからは、多くを読み取れるのではないでしょうか。(中国が減り、メキシコ、韓国、シンガポールが急増しているなど)

インド人が食に保守的で、あまりお客になっていないという情報は、目からウロコでした。

さっそく、本文の中から気になる部分を赤ペンチェックしてみましょう。

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アウトドア好きの多いオーストラリア人は、いまや日本のスキー場の主役

「オーストラリア人の人気海外訪問国」のトップ3は、第1位インドネシア・バリ島、第2位ニュージーランド、第3位日本だそうである

法務省の出入国在留管理庁では、主要空港の入国審査待ち時間をデータ化して公表している。それによると、2024年1月で最も待ち時間が長かったケースは、関西空港第1ターミナル(北側)の69分、続いて成田空港第1ターミナル(南側)の68分、第2ターミナル67分と続いている

スペインはGDPのおよそ12%が観光収入

日本の2019年の観光GDP額は11.2兆円(観光庁調べ)で、GDPのおよそ2%

訪日客を国・地域別にみると、すでに2019年を上回った国がある。一番の増加率を見せたのはメキシコで、2019年7万1700人が2023年9万4700人と、32%も伸びている

次に増加率が高いのは、558万4600人→695万8500人で24.6%増加した韓国である。これは2019年の中国人訪日客数の7割を超える数字で、国・地域別に見た数も、2位の台湾を大きく引き離してトップである

次に増加率が高いのはシンガポールの20.1%で、49万2300人から59万1300人となっている

減少の最たる要因と言ってよいのは、もちろん、中国である。コロナ前と比べた回復率はマイナス74.7%(959万4400人→242万5000人)、つまり4分の1にとどまっている

インド人は食に保守的で、人口の4割ほどがベジタリアンだと言われている。日本で寿司やラーメン、焼き肉などを楽しめる人は限られるだろう

インバウンド観光の消費額よりも日本人の国内観光の消費額の方が圧倒的に多い

(パスポート)保有率は都市部と地方で格差が大きく、2022年のデータでは、最高の東京都(29.9%)は最低の秋田県(5.8%)の5倍ほど

世界各地から日本に観光にやってくる人に対し、相手の国のことを体験的に語れない。これで真の観光立国と言えるのだろうか?

表面的にはインバウンドで賑わい、経済的に潤っているように見える京都市だが、2020、2021年の2年連続で、全国1700あまりの自治体の中で、人口の純減数が最大となった

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2025年に開催予定の大阪・関西万博や和歌山県の某政治家への批判など、舌鋒鋭い語り口が痛快な一冊です。

健全なインバウンドビジネスの実現に向けて、本書を題材にぜひ、みなさんで議論してみてください。

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『観光消滅』佐滝剛弘・著 中央公論新社

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◆目次◆

はじめに
第一部 崩壊
第一章 「観光立国」の現場を見る
第二章 データが語る「観光立国」
第三章 メディアが増幅する観光
第四章 海外旅行をしなくなった国でも「観光立国」なのか
第五章 「インバウンド富裕層の増加は日本を潤す」は本当か
第二部 消滅
第六章 観光立国の夢を打ち砕く気候変動と情勢不安
第七章 観光どころではない深刻な人手不足
第三部 未来
第八章 観光業界への手厚い助成の是非
第九章 世界遺産は誰のためのものか
第十章 二重価格は観光公害を救うのか
第十一章 五輪や万博は観光客誘致の起爆剤になるのか
終 章 観光を地域や私たちのプラスにするために
おわりに
主要参考文献 

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