2023年11月9日

『ヒストリカル・ブランディング』久保健治・著 vol.6354

【地域活性化のためのブランド論】
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4040824490

本日ご紹介する一冊は、地域ブランド構築のために歴史を活用しようとする、「ヒストリカル・ブランディング」の理論と実践を、気鋭の学者であり、コンサルタントでもある著者が述べた一冊。

著者の久保健治氏は、経営学者兼コンサルタントとして活躍中の人物で、現在、(株)ヒストリーデザインの代表取締役。

本書では、コモディティ化を乗り越えるための「ヒストリカル・ブランディング」を、事例を用いて説明しています。

事例として登場するのは、運河を活用して成功した小樽、大祭を軸に歴史の街として生まれ変わった佐原、「レジェンド・オブ・ソーセージ」大木市蔵を中心に地域ブランディングに成功した横芝光、かつて九州を統一した「菊池一族」を中心にファンコミュニティを形成した菊池など。

関係者への取材も丁寧で、当初あった地域の人々の反発を当事者がどう乗り越え、地域・メディア・観光客を巻き込む一大ムーブメントにまとめていったか、そのプロセスがよく書かれています。

勉強になったのは、歴史とデータが再生の切り口を与え、地域を一つにまとめていくという事実。

地方創生に関わらず、歴史やデータを学ぶことが、未来のコンセプトにつながる、ということがよくわかる内容です。

もちろん、地域の問題は一筋縄ではいかず、多様な人々をまとめていくには、相当な労力が必要です。本書には、その点のヒントも含まれています。

また、「プレイス・ブランドの5つの分類」「マーケットタイ」(関係人口よりも広い概念)など、マーケティングにおける最近注目の概念も紹介されており、こちらも併せて読んでおきたいところです。

さっそく本文のなかから、気になった部分を赤ペンチェックしてみましょう。

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歴史は模倣できない

もともと、行政とノスタルジーは相性が悪い。行政の目的は市民生活の向上である。

そこに人間が住んでいて、代々生活の場になっていた生活環境を生かす形で、価値をよみがえらせて行く、すなわち、『古い容器に盛り込まれた新しい活気ある内容』が重要なのです(『ふぃぇすた・小樽』創刊号)

長年にわたる運河問題は、各種報道やメディアでも取り上げられ、小樽の知名度を向上させる役割を果たした

運河を中心とした小樽観光は産業にも発展した。その象徴がガラス工芸である。現在の小樽には北一硝子を中心にして多くのガラス工芸が集積しているが、これらはもともと漁業用浮玉の製造からスタートしている。いわば、地域在来の歴史から生まれた産業である

歴史が対立から対話にいたる道を拓く

まちの歴史を調べる中で、小野川が大動脈になって江戸と繋がっていたことを改めて深く知ることになった。そして、とある企業役員にまちを案内した時に、「この川が江戸と繋がっていたんですね。小森さん、まちづくりをするなら、この川は残さないとダメですよ」と言われる

面白いのは、当時佐原の三悪と言われたのは「大祭」「小野川」「古い街並み」だというが、それがすべて今は観光の目玉になっていることだ

伊藤さんは、まず何より大木市蔵という人物に惹かれた。日本における優れたソーセージ、ハムの製造販売のみならず、東京帝国大学駒場畜産研究会の講師を務め、また国からの要請を受けて全国各地で食肉加工講習会や技術指導にあたりながら多くの弟子を育てた

差異を内包した同質性
仙台の牛タンには、オリジナルの牛タン焼きのほかに、タレ味など複数のバリエーションが存在するのみならず、店舗の雰囲気も、煙が立ち込める、居酒屋風からBGMが流れるオシャレな店まで幅広く存在している。これらは、細かく見ると異質であるが、店も我々もこれらをすべて「仙台牛タン焼き」と呼ぶことに相互了解が成立している(小林(2016))

歴史とは、未来への視座を得るために過去を見つめること

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歴史学修士を取得し、現在博士課程で経営学を学んでいるという著者が書いているだけに、議論が丁寧で、読み応えがあります。

紹介されている事例も詳細なので、ケーススタディとしても興味深く読めました。

ぜひ、読んでみてください。

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『ヒストリカル・ブランディング』久保健治・著 角川書店

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◆目次◆

はじめに コモディティ化が進む世界
第一部 観光によるヒストリカル・ブランディング
第一章 保存vs.開発を超える 北海道小樽運河
第二章 無形価値を可視化する 千葉県佐原の大祭
第三章 ヒストリカル・ブランディングの理論 観光による地域ブランディング
第二部 商品開発による地域ブランディング
第四章 地場産業のブランド化 千葉県横芝光町の大木式ソーセージ
第五章 ファンコミュニティによるブランディング 熊本県菊池市の菊池一族
第六章 ヒストリカル・ブランディングの理論 商品開発によるブランディング
第七章 ヒストリカル・ブランディングの持つ可能性 イノベーションを起こす歴史活用
終 章 「勝つための競争」から「負けないための競争」へ
おわりに
参考文献

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