【間違うことで、われわれは進化した。】
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本日ご紹介する一冊は、「ChatGPT時代の必読書」ということで話題となっている、『言語の本質』。
認知科学、言語心理学、発達心理学を専門とする慶應義塾大学の今井むつみ教授と、認知・心理言語学を専門とする名古屋大学の秋田喜美准教授の共著によるもので、われわれ人間がいかにして言語を習得するか、言語の本質とは何なのか、興味深いテーマに迫っています。
著者らが今回、着眼したのは、幼児が多用する「オノマトペ」。
「ぐつぐつ」「ブラブラ」「キラキラ」「サラサラ」「ゴロゴロ」などのことですが、このオノマトペがわれわれの言語習得にどう関わっているのか、なぜオノマトペは便利にもかかわらず、語彙全体の1%程度にとどまるのか、われわれヒトだけがなぜ言語を習得できたのか、興味深い考察がなされています。
AIは、あたかも言語を習得したかのように振る舞いますが、それが本当に言語を習得したと言えるのか。「記号接地問題」や「アブダクション推論」などの視点から、AIと人間の違いを導き出しており、われわれ人間が人間らしさを発揮するにはどうすればいいか、ヒントを示してくれています。
外国のオノマトペの例も多く示されており、何が言語を超えて共有されているのか、何が言語特有の感覚なのか、実感として知ることができるのも興味深いところです。
人間の子どもがどうやって言語を獲得していくのか、順を追って解説されているので、子育てに興味のある方や、言語教育に携わる方にとっても、有用な内容だと思います。
学者が書いた文章だとは思えないほど読みやすく、知的好奇心を刺激する内容。
なるほど、これは話題になるはずです。
さっそく本文のなかから、気になった部分を赤ペンチェックしてみましょう。
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記号接地問題は、もともとは人工知能(AI)の問題として考えられたものであった。「○○」を「甘酸っぱい」「おいしい」という別の記号(ことば)と結びつけたら、AIは○○を「知った」と言えるのだろうか? この問題を最初に提唱した認知科学者スティーブン・ハルナッドは、この状態を「記号から記号へのメリーゴーランド」と言った。記号を別の記号で表現するだけでは、いつまで経ってもことばの対象についての理解は得られない。ことばの意味を本当に理解するためには、まるごとの対象について身体的な経験を持たなければならない
音形が感覚にアイコン的につながっているという点で、オノマトペは「身体的」である
「トントン」よりも「ドンドン」は強い打撃が出す大きな音を写す。gやzやdのような濁音の子音は程度が大きいことを表し、マイナスのニュアンスが伴いやすい
「あ」が大きいイメージと結びつき、「い」が小さいイメージと結びつくのはなぜか? 一つの理由は、これらの母音を発音(調音)する際の口腔の大きさである
「かたい」はk、tという阻害音を、「やわらかい」はy、w、rという共鳴音を含んでいる
言語に多義語が多いのには理由がある。すべての意味について異なる形式が存在していたらどうだろう? 意味の数だけ形式を覚えなければいけないことになる
名づけの洞察は、言語習得の大事な第一歩である。人間が持っている視覚や触覚と音の間に類似性を見つけ、自然に対応づける音象徴能力は、モノには名前があるという気づきをもたらす。その気づきが、身の回りのモノや行為すべての名前を憶えようとするという急速な語彙の成長、「語彙爆発」と呼ばれる現象につながるのだ
ことばの学習が始まったばかりの語彙量が少ないときは、アイコン性が高いオノマトペが学習を促進する。しかし語彙量が増えてくると、アイコン性が高いことばばかりでは、かえって学習効率は阻害される
人間は、アブダクションという、非論理的で誤りを犯すリスクがある推論をことばの意味の学習を始めるずっと以前からしている。それによって人間は子どもの頃から、そして成人になっても論理的な過ちを犯すことをし続ける。しかし、この推論こそが言語の習得を可能にし、科学の発展を可能にした
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論理的には間違う可能性を秘めた「アブダクション推論」が、われわれの学習の根本にあって、言語や科学の発展を支えていたとは。驚きです。
これが正しいとすれば、われわれ人類は、間違うことによって進化してきた、とも言えそうですね。
「正しい人」が評価される時代が長く続きましたが、これからは「間違いながら進む」人が評価される時代になりそうです。
ChatGPTに怯えるわれわれ人類に、希望を与えてくれる一冊だと思います。
ぜひ、読んでみてください。
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『言語の本質』今井むつみ、秋田喜美・著 中央公論新社
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◆目次◆
はじめに
第1章 オノマトペとは何か
第2章 アイコン性 形式と意味の類似性
第3章 オノマトペは言語か
第4章 子どもの言語習得1 オノマトペ篇
第5章 言語の進化
第6章 子どもの言語習得2 アブダクション推論篇
第7章 ヒトと動物を分かつもの 推論と思考バイアス
終 章 言語の本質
あとがき
参考文献
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